君の初恋泥棒

小6のあの日

英に別の好きな人が出来たと聞いてすぐ、私達は解散した

自分で呼び出しておいて身勝手だが、気を使う余裕もなく、急用ができたと言ってその場を去った

1度野原から離れたものの、家に帰るのも気が重くて、誰かに慰めて貰う気にもなれなくて

結局誰もいなくなった野原に帰ってきたのだ

渡すはずだったハート型の箱に入ったチョコを握りしめて、しばらく泣いていた

冬の風に当たる涙が冷たくて

でもそれ以上にぽっかり穴の空いた心はもっと冷たくて

子供ながらにしっかり恋をして

失恋という傷を負った

泣いて泣いて、涙が引っ込んだと思ったら、また思い出して悲しくなって泣いての繰り返し

擦りすぎた目は腫れて視界も悪くて

当時の私にとってはものすごいドン底だった

食べて貰えないのなら意味が無い

そんな投げやりな気持ちでチョコを投げ捨てようと腕を振り上げた

そんな時、ふとそんな声が聞こえた

視界が悪かったこともあったし、年月が経ってるおかげで

声も顔も、あんまり覚えてない

そのあとどうなったのかも曖昧で

夢と思えばそうな気がしてしまうような本当に小さな記憶の欠片

けど、多分

私はあの人のおかげで国見への恋を諦めなかった気がする

声も顔も名も知らない誰か

あなたは今、どこで何をしていますか

国見side

あの事件から、もうすぐ1ヶ月が経つ

そう、つまり…

迫り来るホワイトデー

俺、国見英は恋人である○○へのお返しに悩んでいた

帰り道

ショッピングモールには行ってみたものの、良いものは見つからないし、謎のお節介な店員には捕まるし

何も考えずにフラフラと思い出の野原にやってきたのだ

こんなところに来たって、お返しが見つかる訳でもない

けど行くあてもないし、家に帰ったらもう出かける気分は失せるだろうと思って何となく立ち寄った

もうずっとここには来ていなかった

なんなら小6のあの日以来だろう

丘から見える景色は前と変わらずで、俺にとっては特別綺麗って訳でもない

あの頃は大きく見えた柵も、今は軽々と飛び越えることが出来る

ふと柵の向こうの淵に咲く花が目に入った

何となくそんなことを考えながら柵をまたいで手を伸ばした

それがいけなかったのだろう

ズルッ

運悪く足を滑らして突然の浮遊感に襲われる

何かに捕まろうとした手が土を引っ掻く

あぁ、ダメだ

本当に今日は最悪だ

お返しは見つからないし、変に花になんて手伸ばして落ちるとかダサすぎるし

怪我で済むかな

バレー、しばらく出来なくなるし

○○にも心配かけるな

打ちどころ悪くて死なないといいけど

バッ

落ちたと思った俺の体は、痛みも音もなく野原に横たわっていた

こんなところで寝るなんてやっぱり今日はついてないと思いながら立ち上がる

服に着いた草っぱを払って、もう帰ってしまおうかと思ったその時

誰かのすすり泣く声が聞こえた

こんなところに人が来るなんて珍しいななんて思いながら、辺りをぐるっと見回した

その子が目に入った瞬間、思わず目を見開いて固まった

なんで…？

やっぱり俺死んだのか？

どれだけ考えても、思考が追いつかない

目の前の情報はなんなのか、よく分からない

野原の真ん中

そこには、小さい頃の○○が確かに存在していた