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冬の海は、 音が少なかった。 波の音。 遠くのカモメ。 風。 それだけ。 空は白く濁っていて、 朝なのか夜明け前なのか分からない。 僕とかやまは、 防波堤へ並んで座っていた。 互いの肩が少し触れている。 冷たい。 でも、 離れなかった。 僕はぼんやり海を見ていた。 頭が空っぽだった。 何も考えたくない。 考えると、 こにしの顔が浮かぶ。 濡れた制服。 震える呼吸。 助けを求める目。 全部、 消えない。 一生。 たぶん死ぬまで。 かやまが隣で小さく咳をした。 僕は横を見た。 かやまはひどく疲れた顔をしていた。 眠っていない目。 今にも壊れそうだった。 僕はその顔を見て、 胸の奥が鈍く痛んだ。 かやまがぽつりと言う。
かやま
僕は答えない。 否定もしない。 波が静かに寄せて、 引いていく。 ポケットの中で、 携帯が震えた。 母親からの着信。 僕は画面をしばらく見つめてた。
『着信中』 その文字だけが、 妙に現実的だった。 かやまは何も言わない。 ただ、 僕を見ている。 捨てられるのを待ってるみたいな目。 僕はゆっくり視線落とした。 それから。 携帯の電源を切った。 小さな電子音。 世界との繋がりが、 静かに途切れる。 かやまの肩から、少しだけ力が抜けた。 安心した顔だった。 僕はそれを見てしまう。 もう戻れない。 たぶん、 最初から。 風が吹く。 白い朝日が海へ反射する。 眩しい。 かやまが眠そうに目を細める。
かやま
はせがわ
少し沈黙。 かやまが、 掠れた声で言う。
かやま
僕は小さく笑った。 泣きそうな顔で。
昼。 誰もいないリビング。 テレビの音だけが流れている。
ニュースキャスター
テーブルの上。 開きっぱなしの教科書。 飲みかけの麦茶。 床へ転がったゲームのコントローラー。 カーテンが少し揺れている。 冬の光。 静かな部屋。 テレビは続ける。
ニュースキャスター
画面の端。 小さく映る、 二人の写真。 楽しそうに笑っていた。 そのまま、 ニュースは次の話題へ切り替わる。 何事もなかったみたいに。