彩
うわぁぁ…B問難し過ぎます…。

森先生
なに言ってるの微分のB問なんて簡単だし、みんな普通に解けるよ?

彩
解けないからこうして残されてるんじゃないですか……。

森先生
まあそうだけど(笑)

森先生
次の考査で赤点だと彩ちゃん進級危ういからね〜♪

彩
あぁ!休憩!休憩しましょ!

彩
(というかそもそも森先生と二人っきりなんて集中出来るハズない…。)

森先生
しょうがないなぁ。10分だけだよ。

彩
…………

彩
(休憩と言ってもなにをすればいいんだろ…)

彩
(喉が渇いたとかお腹空いてる訳でもあるまいし…)

彩
(というか普段休憩ってなにしてるっけ……?)

森先生
ねぇ、彩ちゃん。

彩
は、はい!?

森先生
夏の終わりに怖い話でもどうかな?

彩
え、なんですかまたいきなりですね(笑)

彩
でもそういうの好きなので聞きたいです!

森先生
本当に聞きたいかい?

森先生は銀縁フレームの眼鏡を外すとにこりと微笑んだ。
彩
(───!)

彩
(か、かっこいい……けどあの人には負けるな…。)

森先生
途中で「あぁもう聞きたくない!」とか言わない?(笑)

彩
言わないです!

森先生
本当に色んな意味で肝が冷える話だよ?

彩
もう!もったいぶらないで下さいよ!

森先生
はいはい(笑)

森先生
じゃあこれは僕が先日体験した恐ろしい話なんだけどね…。

彩
は、はい…

森先生
古典担当の佐久間先生、分かるかい?

彩
(───!!)

彩
は、はい!もちろん分かりますよ?

森先生
その佐久間先生と飲みに行った時の話なのだよ…。

森先生
実はって言う程でもないけど佐久間先生お酒に弱くってね。

森先生
その日もチューハイ2杯飲んだだけでもう突っ伏しちゃって(笑)

彩
そうなんですね意外です!(笑)

森先生
それで語り相手もいなくなって一人晩酌していた時……

森先生
佐久間先生の携帯がピロンと鳴ったのだよ!

彩
ほ、ほう…

森先生
考えても見たまえよ!あの温厚かつ内気な彼の携帯にメッセージが届いたのだよ?!

彩
そりゃ、メッセージくらい届くでしょう…(苦笑)

彩
まさか先生、それが怖い話っていうんじゃないでしょうね。

森先生
ちがうよ!まあ君、驚くことなかれ!なんとそのメッセージの差出人は!

彩
ちょちょちょ!ちょっと待ってください!!

森先生
おや?どうしたんだい?

彩
「メッセージの差出人は!」ってトークを確認したんですか?

森先生
うむ、そうだけれど。何か問題でも?

彩
それじゃあプライバシーの侵害ですよ!人の携帯を勝手に開いて……

森先生
まあ言われてしまえばそうだけれど……。

森先生
じゃあどうしても喋りたい君に質問しよう。

森先生
差出人は誰だったと思う?

彩
…………

彩
か、彼女……なんちゃって。

森先生
無論その通りだよ!!よく分かったじゃあないか!!

彩
………!

森先生
しかし惜しくも佐久間先生が差出人の名前を「彼女さん」に変更していた様でね…。

森先生
残念ながらその時は佐久間先生を好く物好きな子の名前を知ることが出来なかった…。

彩
悔しそうですね(笑)

森先生
なんだい、君は一変清々しい顔して?

彩
いや〜別に何でもないです〜♪

彩
(危なかった……もう少しで佐久間先生と付き合ってることバレるところだった……)

森先生
まあ、話は続くんだけどね(笑)

彩
……!?

森先生
彼女からのメッセージは帰りを催促する趣旨が書かれていたから

森先生
これはいけないと思ってね。

彩
どうしていけないと思ったんですか…?

森先生
そりゃ佐久間先生と彼女の大切な時間を

森先生
僕なんかとの晩酌で潰してしまうのは申し訳ないと思ったからさ。

彩
は、はぁ…なるほど。

森先生
それからタクシーを呼んで佐久間先生の自宅まで彼を送って行ってね。

森先生
泥酔している彼を家の中まで運び入れるのは本当に大変だったよ。

彩
───!?

彩
森先生家にまで入ったんですか!?

彩
ふ、不法侵入ですよ!!

森先生
そんなに咎めなくても。元はと言えば親切心からなる行動だしね。

森先生
しかも家主は彼なんだから君が血相を変えて怒る必要はないだろう?

彩
まあそれはそうですけど…

森先生
そうそう、それで送り届けたついでに彼女にも挨拶して帰ろうと思ってね。

森先生
電気がついていたリビングに向かったんだ。

森先生
でもリビングには誰もいなかった。

彩
も、もう、やめてください…

森先生
おかしいなって思って部屋中を見回してみたらね。

彩
や、やめてくださいよ…

森先生
奥のソファに静かな吐息を響かせながら眠る影があったのだよ。

彩
やめてって言ってるじゃないですか!!

森先生
…………

彩
…………

森先生
それじゃあもうこの話は終わりだ。

森先生
でも最後に一つだけ質問させてくれたまえ。

彩
……なんですか…?

森先生
何故、佐久間先生の家で君が寝ていたんだい?

彩
そ…それは……。

森先生
大体おかしいのだよね。

森先生
普通、差出人を見たと言われた時はロック画面を覗いただけだと思うだろう?

森先生
それなのに君はトークを見たと断言した。

彩
………うっ…

森先生
君は知っていたのだろう?

森先生
佐久間先生のメールの通知設定が、内容・差出人非表示になっているのを。

森先生
そんなことまで知っている君は恐らく……

西陽が酷く照らすなか森先生は艷美な微笑みを浮かべた。
森先生
佐久間先生と恋仲にあるのだろう?

彩
……否定はしません。

森先生
往生際が悪い子だなぁ。

森先生
自分の状況分かっているかい?

彩
お願いです。誰にも…言わないでください。

森先生
どうしようかなぁ。大スキャンダルだよねぇ!これは(笑)

森先生
雑誌社に売ったらいくらになるのかなぁ?

森先生
あぁこんな見出しはどうかな!
「先生と生徒。禁断の恋。」なんて実にドラマティックじゃあないか!

彩
お願いです!それだけはやめて下さい。

森先生
じゃあ僕の言う事聞いてくれる?

彩
………へ?

森先生
何?!もしかしてタダで黙っててくれるとでも思った?!

森先生
残念ながら、これから君には僕の出す命令に随時従ってもらうよ?

彩
テストで高得点取ります!

彩
絶対赤点なんかとりません!

森先生
あのねぇ。彩ちゃん。

そして彩の頬を片手で掴むと強引に自らの顔に近付けた。
森先生
聞き分けなって。
