糸師兄弟の妹

いつもは、授業が始まる10分前に着くように学校に行っている俺

梨沙が生徒会終わってギリギリに来るから、梨沙が着くちょっと前くらいはおるようにしとった

けど……今日は朝から落ち着かんくて、30分も早く登校した

教室に入った時、ちょうど登校してきた 蛍

俺を見て、驚いている

その言葉、そっくりそのまま返すわ…

2人揃って、小学生か………はぁ

カバンを置いた時、前の席から視線を感じて顔を上げる

視線の主はモブ子だったみたいで、俺たちの方に歩み寄ってきた

だから、それはお前もやろって

こいつも、知らんけどいつもはもっと遅いはずや

自分のこと棚に置く奴しかおらんのかここには…

ブリ子はフンッと鼻を鳴らしてから、腕を組んで俺たちを見下ろしてきた

ほんま、なんやねんこいつ

………どう考えても、俺らの方が梨沙と仲いいって。歴も絆もこっちが上や

あんな梨沙のこと目の敵にしとったくせに、とんだ梨沙信者になってるやん

しかも、愛情表現が陸並みにやっかい

梨沙は女友達が欲しいってずっと思っとったみたいやし、俺もできたらええなとは思ってたけど……こいつはちゃうわ

何をするでもなく、ぼうっとスマホを見ながら梨沙が来るのを待つ

あー……何でこんなに緊張してんねん、俺

梨沙の声がして、ビクッと肩が跳ね上がった

き、来た……

蛍が、うずわった声を出した。いつもクールぶってるくせに、今日はポーカーフェイスも保たれへんらしい

俺もアホみたいに噛んでもうた………終わりや

バカでかい声を出しながら駆け寄ってきた、ぶり子

梨沙は紙袋からラッピングされたチョコのカップケーキを取り出した

それを崇めるように持ち上げて、眺めているブリ子はもはや頭がおかしなってる

"まで"って、他の奴にも言われたんか？

ってことは…生徒会のやつらにもチョコあげたんかな？

ちょっとだけ、もやっとした感情が生まれる

自分がこんな嫉妬深い男やってことに、初めて気づいた

ブリ子も梨沙にチョコを持ってきたんか、見るからに高そうな箱を渡してる

あー……俺もチョコ持ってきたらよかった

こんな喜ぶ顔するんやったら、ブリ子よりいいもん見つけて買ってきたのに

えっ！

俺たちにもカップケーキを差し出してくれた梨沙

もらえるか不安やったから、めっちゃ嬉しい！やばい、顔にやけんの抑えられへん！

だらしなく緩む口元を隠すように、手で押さえた

蛍も、嬉しいそうだ

後ろで蓮斗が意味わからんこといつもてるけど、今日は無視や

今は梨沙からのチョコが嬉しすぎて、どんな嫌味を言われてもスルーできる

こんなん美味しいに決まってる

梨沙が作ったもんやったら、嫌いなもんだって喜んで食べるわ

帰ってから、大事に食べよ

そう思って、そっとカバンに直す

いつか、叶うなら……梨沙から本命チョコをもらう日がけえへんかな

そんなことを思った自分に恥ずかしくなって髪をかき上げた

………いやいや、照れてる場合ちゃう。何を弱気になってんねん

俺だって…梨沙を想う男の1人や

相手が咳さんやからって、諦めへんって決めたやろ

いつかこの義理チョコが、本命チョコになるように努力するだけや

頑張るから……俺のことも、見ててや梨沙

初めて好きな相手からもらったチョコは、人生で食べたもんの中で、間違いなく1番美味かった