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――鐘の音が鳴り響いていた。

天を切り裂くような鈍い音色は、この世界の終焉を告げる合図のようでもあった。

ほとけ(♀️)

……また、一つ、壊れた

僕――ほとけは、祈りの言葉を口にしながら、割れ落ちていく大聖堂のステンドグラスを見上げた。

世界は崩壊に向かっていた。けれど、それを止めることはできない。むしろ、それこそが僕の役割だから。

シスターである僕に与えられた三つの役割。

一つ、この世界を壊すこと。

二つ、愛する人を殺すこと。

三つ、主に反対するものを殺すこと。

ただ、それだけ。

簡潔で、残酷で、そして、逃れられない掟。

いふ

おーい、ほとけぇ。お祈りはもうええやろ

背後から、のんびりとした関西弁が降ってきた。

僕の主、いふだ。

ほとけ(♀️)

……主。これは大事な儀式なんです。邪魔しないでください

いふ

いやいやいや。こんな瓦礫まみれの大聖堂で祈ったかて、誰も聞いとらんて。神様も耳ふさいどるで

いふは、崩れた祭壇の上に腰を下ろし、足をぶらぶら揺らしながら笑っていた。

その姿を見ていると、不思議と胸がざわつく。主として仕えるはずの人を、僕は……。

ほとけ(♀️)

……主。僕にとって、祈りは生きる証なんです

いふ

ふーん。ほんなら、生きる証を立てたシスターさんは、このあと何をするんや?

ほとけ(♀️)

……世界を、壊します

自分で言いながら、吐き気を催しそうになる。

でも、それが僕の宿命だ。

いふ

よっしゃ! ほな今日は、あの辺の村を壊しに行こか

ほとけ(♀️)

ちょっと待ってください、そんなノリで言うことじゃ……

いふ

ええやん、どうせ壊すんやし。壊す順番で悩むくらいやったら、さっさと飯食うてからにしよ。なぁ?

いふは懐からパンを取り出して、僕に差し出した。

瓦礫の上で食べるパンは決して美味しいはずがない。けれど、彼と一緒に食べると――ほんの少し、心が和らぐ。

ほとけ(♀️)

……主。こうして一緒に食事をすると、普通の人間みたいですね

いふ

俺は普通やで。ただ、ちょっと世界をぶっ壊す権限持ってるだけや

ほとけ(♀️)

それを普通とは言いません

いふ

はははっ。ほとけ、真面目やなぁ。そんなんやから俺に惚れてまうんや

ほとけ(♀️)

――っ! ……僕は惚れてません!

パンの欠片を喉に詰まらせそうになりながら、慌てて否定する。

けれど、いふは楽しそうに笑うだけだった。

いふ

嘘やな

ほとけ(♀️)

……嘘じゃありません

いふ

ほんなら目ぇ見て言うてみ

ほとけ(♀️)

…………

目が合った瞬間、心臓が痛いくらいに跳ねた。

駄目だ。主に恋をするなんて、あってはならない。だって、二つ目の役割は――。

愛する人を殺すこと。

その相手が、目の前の彼であることを、僕はもう気づいてしまっている。

夜。

僕は薄暗い部屋の片隅で膝を抱えていた。

いふは隣で大の字になって寝ている。

と言ってくる。断れるはずがない。

ほとけ(♀️)

……主

寝顔を見ながら、声を潜めて呼んだ。

いふは応えない。規則正しい寝息だけが響く。

ほとけ(♀️)

僕は、あなたを……

言葉を飲み込む。

好きだなんて言ったら、それは自分の首を絞めるようなものだから。

いふ

お前、夜中にぶつぶつ言うとるけど、怖い夢でも見とんのか?

不意に声がして、僕は飛び上がった。

いふは目を開けて、にやにや笑っていた。

ほとけ(♀️)

し、主! 起きてたんですか!?

いふ

寝とるふりしとったんや。お前の顔見てると飽きへんからな

ほとけ(♀️)

なっ……!

顔が熱くなる。

この人は、どうしてこんなにも僕を翻弄するんだろう。

いふ

なぁ、ほとけ

ほとけ(♀️)

……なんですか

いふ

もし俺がお前に『俺を殺せ』って言うたら、どないする?

息が止まった。

その言葉は、まるで僕の役割を知っているかのようで――。

ほとけ(♀️)

……殺せません

いふ

ほぉ。なんでや?

ほとけ(♀️)

……僕にとって、あなたは……

いふ

俺は?

ほとけ(♀️)

……主だから

精一杯、言葉を濁した。

本当は 「好きって」

と答えたかったのに。

いふはしばらく僕を見つめ、それから声を立てて笑った。

いふ

ははっ。お前、おもろいなぁ。シスターのくせに主を殺せん言うてもうて、役割果たせへんやん

ほとけ(♀️)

…………

いふ

まぁええわ。お前が俺を殺せんでも、俺はお前を離さへんから

――その言葉が、甘い毒のように僕の胸に沈んだ。

朝といっても、もうこの世界に『朝』と呼べるものはほとんど存在していなかった。

空は黒い雲で覆われ、太陽は滲んだ赤い円盤のようにしか見えない。鳥は鳴かず、木々は枯れ、残された村人たちは恐怖に怯えて身を潜めていた。

いふ

おーい、ほとけぇ。早よ起きんかい

耳元に響いたのは、あの呑気な関西弁。

まぶたを開けると、そこには主――いふくんの顔があった。

ほとけ(♀️)

……近いです

いふ

なんや。俺と目ぇ覚める朝がそんなに嫌か?

ほとけ(♀️)

嫌じゃ……ありません。ただ……驚いただけです

いふ

ふふん。ほな、今日も一緒に世界壊しに行こか

いふは布団をばさっとはねのけ、軽い調子で立ち上がった。

みたいに聞こえる。

ほとけ(♀️)

主。昨日も言いましたけど、そんな軽い調子で――

いふ

ええやん。どうせ壊すんやろ? 暗い顔してやるより、笑ろてやった方が気持ちええで

言い返せない。

いふの笑顔を見ていると、胸の奥が苦しくなる。彼の言葉には毒がある。甘い、抗えない毒が。

 

 

 

 

 

目的地は、近くの小さな村だった。

まだ数十人の人々が暮らしていて、畑を耕し、細々と生活を続けている。

僕らにとって、そのすべては『壊すもの』だった

だった。

ほとけ(♀️)

主。……本当に、この村も壊すんですか?

いふ

そらそうやろ。役割や

ほとけ(♀️)

でも、子どももいます

いふ

子どもも大人も関係あらへん。世界そのものを壊すんや。選り好みはできん

冷たい理屈。でも、正しい。

僕はシスターとして、その理不尽を受け入れなければならない。

ほとけ(♀️)

……分かりました

僕が目を閉じ、祈りの言葉を唱え始めると、大地が揺れ始めた。

村を囲む畑が裂け、家々が崩れ、人々が悲鳴をあげて逃げ惑う。

そして空から黒い光が降り注ぎ、村を灰に変えていった。

それはあまりにも簡単な『壊し』だった。

息を吸って吐くように、僕は世界を壊す。

役割だから。

シスターだから。

ほとけ(♀️)

……主。終わりました

いふ

おお、さすがやなぁ。ほとけは今日も仕事が早いわ

いふは手を叩いて笑っていた。

その横顔は、まるで子どものように楽しそうで――。

ほとけ(♀️)

……そんな顔、しないでください

いふ

ん?

ほとけ(♀️)

僕は……人を、殺したんです

いふ

せやな。けどそれが、お前の役割やろ

突き放すようでいて、やさしくもある。

いふの声は、僕を縛る鎖であり、同時に僕を支える手でもあった。

村を焼き尽くしたあと、僕たちは廃墟に腰を下ろした。

まだ燻る煙の匂いが鼻を刺す。

ほとけ(♀️)

主……罪悪感って、ないんですか?

いふ

あるで?

ほとけ(♀️)

……あるんですか?

いふ

あるけどな、俺はお前がおるから気にせぇへん

ほとけ(♀️)

……意味が分かりません

いふ

ははっ。分からんでええ。俺が言いたいのはな――お前が泣きそうな顔しとったら、俺の罪悪感は全部消えるっちゅうことや

ほとけ(♀️)

…………

意味が分からなかった。でも、胸が熱くなるのを止められなかった。

夜。

焚き火を囲んで、二人で座っていた。

と笑っている。

ほとけ(♀️)

主。僕は未成年じゃありませんけど……シスターが酒を飲むなんて

いふ

ええやん。今さら何の戒律守るねん

ほとけ(♀️)

……そう、ですね

グラスに注がれた赤い液体を口に含む。

苦くて、渋くて、喉が焼けるようだった。

いふ

どうや?

ほとけ(♀️)

……おいしい、とは思いません

いふ

ほな、俺が飲んだあと口移しで飲ませたろか?

ほとけ(♀️)

なっ――!? な、なに言ってるんですか!!

いふ

はははっ! 冗談や冗談。お前の顔真っ赤になってておもろいわ

ほとけ(♀️)

…………

もう、どうしてこの人は。

胸の鼓動がうるさくて、ワインのせいにするしかなかった。

その夜。

いふが眠ったあと、僕はまた一人で焚き火を見つめていた。

炎の揺らめきは、まるで僕の心そのもの。愛と罪悪感が、絶えず揺れている。

ほとけ(♀️)

……僕は、どうしたらいいんですか

炎に問いかけても、答えは返ってこない。

ただ、胸の奥でずっと鳴り響いている言葉がある。

――二つ目の役割。

愛する人を殺すこと。

その愛する人が誰なのか、僕はもう痛いほど分かっていた。

朝はいつもより重く、世界の空気は粘つくように僕を包んでいた。

灰色の雲が低く垂れ、遠くの山並みは黒いシルエットのまま朝焼けを拒んでいる。

いふ

ほとけ、起きや

いふの声が耳元に響く。

布団の中で丸まっていた僕は、瞬時に目を覚ました。

胸が痛い。夢を見たのだ――僕が愛する人、いふを刃で刺す夢。

ほとけ(♀️)

……主、今日も命令ですか?

いふ

そや。今日は特別やで

特別、という言葉に、僕の喉は詰まった。

――特別って、つまり……

いふ

ほとけ、笑え。朝から重苦しい顔すんなや

ほとけ(♀️)

笑えるはずがありません

いふ

せやけど、笑わな損やで

いふはいつも通りの冗談を口にする。

それに、どうしても笑ってしまいそうになる自分がいる。

でも、それは罪深い。

任務は簡単ではなかった。

今日、僕が壊すべき対象は、村の長――そして偶然、彼は僕のかつての友人でもあった。

胸が痛む。けれど、役割は役割。

ほとけ(♀️)

……主、僕は……

いふ

何や?

ほとけ(♀️)

壊すべきものは人間です。けれど、僕は……

いふ

けれど、なんや?

ほとけ(♀️)

……殺すのが辛いです

いふはふっと笑った。

いふ

ほー、そないに悩むか。ええやん、その顔、俺は好きやで

ほとけ(♀️)

……好き、ですか?

いふ

せや。悩むお前の顔、かわいいわ

……かわいい、って。

胸の奥で、痛みが膨らむ。

好きな人にそう言われることは、こんなにも苦しいのか。

村の中心に立つ古びた家の前で、僕は足を止めた。

窓から見えるのは、微笑む友人の顔。

僕にとって、彼はかつての遊び仲間で、笑い合った日々を思い出させる存在。

だけど、今は壊さなければならない対象。

いふ

ほとけ、手ぇ震えとるやん

いふの言葉に、我に返る。

ほとけ(♀️)

……主。僕、できません

いふ

ほーほー、できへんか。せやけど、役割やで?

ほとけ(♀️)

……分かっています。でも……

言葉が途切れた。胸の奥が焼けるように痛い。

いふ

……ええわ。ほな、俺が手伝たる

いふは、軽い調子で僕の肩に手を置いた。

その手が暖かくて、全身が痺れる。

――役割を遂行するための手を、愛する人の手が支えているなんて。狂っている。

僕たちは、友人の前に立った。

いふはゆっくりと手を上げ、合図をする。

僕は刃を握る手が震えるのを感じながら、視線を友人に向ける。

いふ

……ほとけ、やらなあかんで

いふの声は冗談っぽく、でも真剣だった。

僕は刃を振り上げ――止めた。

ほとけ(♀️)

……できません

その瞬間、いふが笑った。

いふ

ははっ。やっぱりな。ほとけはそないに優しい子やもんな

ほとけ(♀️)

……主、優しい、ですか?

いふ

せやで。優しい子は俺が守ったる

守る、って。

胸の奥で、愛情と絶望が渦巻く。

夜。廃墟の中で、僕はまた一人考えた。

役割を果たせなければ、Blessings on Death――罰が待っている。

でも、愛する人を殺すことなんて、僕にはできない。

ほとけ(♀️)

……僕は、どうすればいいんだろう

そんな僕に、いふが静かに近づき、肩に手を置いた。

その温もりが、痛みを増幅させる。

いふ

お前、悩むなぁ

ほとけ(♀️)

悩みます。愛する人を殺せなんて……

いふ

そら悩むわな。でもな、悩むお前が俺は好きや

ほとけ(♀️)

……嫌です!

いふ

はははっ! 怒った顔もかわいいわ

またしても笑いに紛らわされる。

けれど、その笑顔が、僕の胸を締め付ける。

夢の中でも、僕は同じことを考えていた。

刃を握る手が、愛する人を刺すことを拒み、でも逃げることもできず、胸の中で叫び続ける。

ほとけ(♀️)

……主……

夢の中のいふは、笑っている。

でも、その笑顔の奥に、僕の運命を知る冷たさが隠れていることも分かる。

――僕はこの愛に、溺れ続けるのだ。

役割と恋心、信仰と欲望、狂気と希望――すべてが交錯し、僕を縛る。

そして、僕は気づいた。

この世界を壊すことよりも、愛する人を殺すことよりも、何より恐ろしいのは――

愛してしまう自分自身の心

凛音でーす! ちょっと場面ごとに分けて書くんめんどいんで‥背景統一です!

っていうか、活動休止なのに投稿するという謎の事実‥(?)

っていうかフォロワーさん150いきそう!ありがとうね!

あと、キャンプ楽しかった((通じる人には伝わるw

それでは続きどぞ!

薄暗い森の中、冷たい風が木々を揺らしていた。

葉のざわめきが、遠くの悲鳴を隠すように響く。

僕――ほとけは、刃を握りしめながら歩を進める。

今日の任務は、三つ目の役割――主に反対する者を排除することだった。

ほとけ(♀️)

……主、僕は本当にこれを?

いふ

せや。役割や。誰も文句言わんで済むように、俺が命令するんや

いふの声は、いつも通り軽やかで、しかし重く僕の胸に響く。

森の奥で、反抗者たちは火を囲んで密談していた。

彼らはこの世界を覆すために立ち上がった、愚かで哀れな者たち。

僕はため息をつき、刃を握る手に力を込めた。

ほとけ(♀️)

……主、僕は

いふ

おいおい、言い訳すんなや。お前の仕事やろ

いふは僕の背中をぽんと叩く。

その軽い仕草に、胸が締め付けられる。

刃を振り下ろす瞬間、反抗者たちの顔が揺らめいた。

でも、僕の心は揺れる。

役割と愛情、正義と狂気――すべてが絡み合い、僕を混乱させる。

戦いはあっという間だった。

僕が一人ひとりの命を奪うたび、いふは横で『ええやん、ほとけ、仕事早いわ」』と笑う。

その笑顔に、僕は涙が出そうになる。

――役割を果たしているのに、心は痛い。

でも、いふと一緒なら、なぜかその痛みも意味があるような気がしてしまう。

いふ

お前、そんな顔すんなや

いふは冗談めかして言う。

僕は思わず笑いそうになる。

でも、それは笑うべき顔じゃない。

森が静まり返る頃、反抗者たちは跡形もなく消えた。

僕は深呼吸をし、刃を拭う。

冷たい夜風に体が震える。

ほとけ(♀️)

……終わりました、主

いふ

おお、さすがやなぁ。ほとけは今日も最高や

彼は僕の頬を軽く叩く。

痛みと温もりが同時に胸に響く。

任務が終わり、僕たちは夜の街に戻った。

瓦礫だらけの道を歩きながら、いふがふと立ち止まる。

いふ

なぁ、ほとけ

ほとけ(♀️)

……なんですか?

いふ

こんな世界やけど、笑ろて過ごす瞬間も悪ないやろ?

ほとけ(♀️)

……ええ、と思います

僕は答える。心の奥は、まだざわついている。

いふ

ほな、ここで一杯や!

いふは、道端の壊れた屋台を指差す。

僕は思わず吹き出す。

――こんな世界で、壊れた屋台で飲むなんて。狂っている。

ほとけ(♀️)

主、屋台って……壊れてますよ

いふ

ええねん、壊れてるからこそ、俺らにはええ酒があるんや

いふは勝手にグラスを取り出し、僕に差し出す。

僕は戸惑いながらも、それを受け取る。

ほとけ(♀️)

……乾杯

いふ

乾杯や!

赤い液体を口に含むと、苦くて渋くて、でも少し甘みも感じた。

狂気の中の小さな幸せ。

僕は、少し笑顔になった。

夜も更け、宿に戻った僕たちは、瓦礫だらけの床に寝転がる。

いふが寝転びながら、ふと僕を見た。

いふ

お前、今日もえらい頑張ったな

ほとけ(♀️)

……主も、です

いふ

せやけど、俺は命令するだけや。殺すのはお前の手や

ほとけ(♀️)

……それでも、僕は

いふ

でも、なんや?

ほとけ(♀️)

……主がいるから、できました

いふはにやりと笑う。

そして、突然、冗談めかして僕の頭をくしゃっと撫でた。

いふ

ははっ、ほとけ、ほんま可愛いな。殺す仕事してても、笑顔になるわ

ほとけ(♀️)

……笑顔になるはずがありません!

僕は思わず突っ込むが、胸が熱くなる。

夜空を見上げると、黒い雲の隙間から月が見えた。

月明かりが二人を照らす。

静かで、だけど狂気を孕んだ夜。

僕は心の奥で、恐ろしいことに気づいていた。

役割を果たすたび、いふとの距離は縮まる。

でも、愛してはいけない相手を愛してしまう恐怖も同時に増していく。

愛する人を殺す――その呪縛は、まだ始まったばかり。

でも、今の僕は、いふと一緒にいるだけで満たされる。

それが、狂気の世界における僕の救いなのだ。

ほとけ(♀️)

……主、僕は

いふ

ほとけ?

ほとけ(♀️)

……あなたのすべてを、この手で守りたい

いふは笑いながら、僕の肩に頭を乗せた。

狂気の中で、二人だけの世界がそこにある。

――祝福と呪いが入り混じる夜、僕たちは互いの存在を確かめ合った。

明日、どれだけの血を流すことになろうとも、今夜はただ、二人で笑っていられる。

朝の光が、瓦礫の街に差し込む。

でも、それは柔らかい朝日ではなく、血の色を帯びた冷たい光だった。

僕――ほとけは、震える手で刃を握りしめる。

今日、僕の役割が――最も残酷な試練が始まる。

ほとけ(♀️)

……主、命令は?

いふ

お前、もう覚悟できたか?

いふは軽い調子で聞く。

でも、その瞳の奥には、冷たい光が潜んでいた。

僕は震える声で答える。

ほとけ(♀️)

……まだ……でも、逃げられません

いふ

せやな。逃げたところで、Blessings on Deathが待っとる

そうだ、僕はシスター。役割を破れば死が待つ。

でも、愛する人を――目の前にいる彼を――殺すことなんて、到底できない。

街の中心。

いふは待っていた。笑顔で、手を腰に当て、いつも通り冗談めかして。

いふ

ほとけ、今日は楽しもうや

ほとけ(♀️)

……楽しむ、って……

いふ

せや、今日も一緒に世界を壊すんや。俺とお前でな

ほとけ(♀️)

でも……今日の相手は、あなた……

言葉が喉に詰まる。

僕は刃を握った手を見つめ、目を閉じる。

過去の思い出がフラッシュバックする――笑い合った日々、肩を寄せて話した夜、優しく触れられたあの手。

そのすべてが、今、刃の先で断ち切られようとしている。

いふ

……ほとけ

いふの声で我に返る。

冗談っぽいけれど、どこか真剣さも含まれている。

ほとけ(♀️)

主……

いふ

俺を殺せってことか?

その問いに、言葉が出ない。

ほとけ(♀️)

……できません

いふ

ははっ、そらそうやろな

いふは笑うが、その笑いは少し震えている。

いふ

でもな、ほとけ

いふは近づき、僕の肩に手を置いた。

その手の温もりが、心臓を締め付ける。

いふ

お前が俺を殺せんでも、俺はお前を離さへん

ほとけ(♀️)

……っ!

胸の奥で、恐怖と愛情が交錯する。

刃を握る手が、力なく震えた。

僕は後ろに一歩下がり、思わず叫ぶ。

ほとけ(♀️)

……いやだ! 僕はあなたを殺せない!

いふ

ほとけ……

いふの声は優しく、でも痛みを伴って響く。

いふ

ふふっ、ほなどうする? 逃げるか?

ほとけ(♀️)

逃げ……られるわけないでしょう!

いふ

そやな、役割もあるし

いふは冗談めかして言うが、その目は真剣だ。

僕は刃を握りしめ、涙をこらえながら思う。

この愛を、どうすればいいのだろう。

役割を果たすことと、愛する人を守ること。

その二つは、同時にはできない。

街の外れ。

瓦礫の中で、僕たちは向き合った。

いふは笑いながら、手を差し出す。

いふ

ほとけ、手ぇ出せや

ほとけ(♀️)

……?

いふ

せや、握って、ほら

僕は戸惑いながらも、その手を取る。

手の温もりが、心を焼く。

そして、愛する人を殺すための刃を握る手が、同時に震える。

いふ

ほとけ、俺を殺せるか?

ほとけ(♀️)

……できません!

叫んだ瞬間、胸が張り裂けそうになった。

でも、目の前にいるのは、笑ういふだった。

いふ

ははっ、やっぱりな。お前、そんな顔してると可愛いわ

ほとけ(♀️)

……可愛い、じゃありません!

思わず突っ込む。胸が痛くて笑えないのに、笑いが込み上げる。

夜。

廃墟の中、二人は火を囲んで座っていた。

瓦礫だらけの世界で、ただ静かに息をする。

ほとけ(♀️)

主、僕……

いふ

ほとけ?

ほとけ(♀️)

……あなたを、殺せないんです

いふ

知ってる。せやけど、俺は怒らへんで

いふの言葉は、優しい。

でも、同時に狂気を孕んでいる。

僕はその手を握り返す。

ほとけ(♀️)

……こんな愛を、許されるはずがない

いふ

そらそうや。でも、俺はお前を手放さへん

互いの手が触れ、重なる。

血と狂気の世界の中で、僕たちは互いに依存し、互いに救われる。

でも、その幸せは、長くは続かない。

僕の心は決まっていた。

愛する人を殺せない。

でも、役割を放棄すれば、二人で死ぬしかない。

ほとけ(♀️)

……主、もし僕が役割を破ったら

いふ

そしたら、二人で死ぬしかないな

ほとけ(♀️)

……それでも、あなたを守ります

いふ

俺もや

狂気の中で、二人の魂は絡み合う。

愛と死、役割と希望――すべてが交錯し、僕たちを縛る。

世界が滅ぶその日まで、僕たちは互いの手を握り続ける。

笑い、泣き、狂いながら――。

世界は静かに、でも確実に崩れ続けていた。

空は赤黒く染まり、遠くの建物は炎に包まれ、瓦礫が風に舞う。

僕――ほとけは、いふの手を握りながら歩く。

役割のすべてを果たした後、残るのは一つ――僕たち自身の命。

いふ

ほとけ、ええ顔して歩いとるやん

いふは笑いながら、瓦礫の上をぴょんと跳ねる。

その姿に、僕は思わず微笑む。

ほとけ(♀️)

……あなたも、狂ってますね

いふ

せやろな。でも、俺らしいやろ?

冗談めかした関西弁と、軽い笑顔。

こんな世界で、こんな瞬間があることが、奇跡のように思えた。

二人で歩く廃墟の街。

もう誰もいない。壊すべきものも、反抗する者も、愛する人も――すべて消えた。

残ったのは、僕たちだけ。

いふ

ほな、ここで最後の祝杯や!

いふは瓦礫の上に倒れた屋台の箱を使って、即席のテーブルを作る。

僕は思わず吹き出す。

――こんな状況で、まだコメディをやるのか、と。

ほとけ(♀️)

主、さすがに笑えません

いふ

そらそうや。でも、笑わな損やろ?

いふは手に握った瓶を振って、僕のグラスに注ぐ。

赤い液体が光を反射して、まるで血のようだ。

ほとけ(♀️)

……乾杯

いふ

乾杯や、ほとけ!

赤いワイン(?)を口に含むと、苦くて渋くて、でも甘みもある。

胸が熱くなる。

そして、この苦みが、これからの運命の味なのだと悟る。

いふはグラスを置くと、突然、僕の肩に手を回した。

いふ

ほとけ、覚悟はできとるか?

ほとけ(♀️)

……はい

いふ

ほんまに?

ほとけ(♀️)

……はい

言葉に震えが混じる。

でも、目の前の人を殺すことは、もう僕にはできない。

いふ

ほな、最後や。二人で……滅ぶんやで

ほとけ(♀️)

……はい

いふは微笑み、僕の手を握りしめる。

二人で瓦礫の上に座り、互いを見つめる。

笑顔で、冗談めかして、でもその瞳には愛と狂気が渦巻いている。

いふ

ほとけ、最後に一つだけ聞くで

ほとけ(♀️)

……はい、なんですか

いふ

俺のこと、ほんまに……愛してるんか?

ほとけ(♀️)

……はい、愛しています

声が震える。

でも、胸の奥で確かに、愛が燃えていた。

いふ

ほな、ええな?

いふは軽くウインクした。

冗談なのか、真剣なのか、分からないけれど、胸が熱くなる。

世界が崩れ、瓦礫が舞い、火と煙が立ち込める中、僕たちは互いを抱きしめた。

刃を握る手も、温もりを感じる手も、もう境界はない。

いふ

ほとけ、これで……終わりや

ほとけ(♀️)

……はい

僕は目を閉じ、いふの胸に顔を埋めた。

笑いながらも、涙が頬を伝う。

いふ

ふふっ、泣いとるやん。かわいいなぁ

ほとけ(♀️)

……あなたも、泣いてますね

いふ

せやせや、俺ら一緒やもんな

二人で笑い、泣き、世界の崩壊を肌で感じる。

狂気の世界で、愛する者と共に滅ぶ幸福――それは、この上ない狂気の祝福だった。

瓦礫の中、赤い空に向かって僕たちは手を伸ばす。

全ての役割を果たした今、残るのは互いへの愛だけ。

そして、Blessings on Death――二人の運命が、重く、静かに、世界を覆った。

いふ

ほとけ、最後に一言言うで

ほとけ(♀️)

……はい

いふ

愛してるで

ほとけ(♀️)

……はい、僕も愛しています

言葉が風に乗り、崩れ行く街に吸い込まれる。

火と煙、瓦礫の中で、僕たちは互いの命を重ね、世界と共に滅んだ。

そして、静寂。

笑い声も、

泣き声も、

刃の音も、

全てが消えた。

ただ、赤黒い空だけが、二人を見下ろす。

――狂気と愛の果てに、二人は共に消えた。

最後まで、互いの手を握りしめたまま。

それが、シスターと主の、終焉の物語。

世界は滅び、愛は燃え尽き、

_Blessings on Death_

静かに響いた。

fin. うわーお、509タップ! 頑張りました!凛音! 褒めろ褒めろ(( ということで相変わらずウェブで見とくから安心しとけw それでは!

この作品はいかがでしたか?

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コメント

4

ユーザー

凛ちゃん久しぶり~! 509たっぷ...すごぉ... ...私書いても29とかだよ...?((

ユーザー

なんか見返したらところどころ抜けてるところがあった‥ ほんとにごめんね😭

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