テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
雪 村 麻 耶
第一話
『ガラスの仮面』
START
m o b
授業後、すれ違いざまにクラスメイトから声をかけられて、僕は無意識に口元をきゅっと上げた
雪 村 麻 耶
雪 村 麻 耶
微笑みながら、心の中でそっとため息をつく
本当は、全然そんなんじゃない
学校での僕は、いつだって「周りに合わせた無理な笑顔」の仮面を被っている
そうして愛想よく振る舞っていないと、周りの視線が怖くて、自分が今にも崩れてしまいそうだからだ
手僕がこんな風に人間不信になってしまったのは、ある切なくて、本当に恐ろしい事件がきっかけだった
もともと、僕はネットの世界とは全く無関係な、ごく普通の日常を送っていた
スマホで動画を見ることはあっても、自分が発信者になるなんて考えたこともない、どこにでもいる学生
だけど、ある時期から僕の日常に、奇妙な違和感が混ざり始めるようになった
セーラー、スカート、そして、体操服が無くなっていったのだ
最初は自分の不注意だと思い込もうとしていた
自分の持ち物が誰かに狙われているなんて、微塵も思いたくなかったから
だけど、その淡い期待は、最悪な形で打ち砕かれることになる
今日も見つからなくて、憂鬱な気持ちのまま家に帰った日の夜
リビングに入ると、母がひどく強張った顔で僕を待っていた
周りに聞こえないような、でも張り詰めた、ひそひそとした低い声で、母は言った
母
母
母
母の口から語られたのは、耳を疑うような事実だった
今日の放課後、部活動の時間の出来事
部室の中で、ある男子生徒が、別の男子のカバンを悪ふざけ半分で開けて覗き込んだのだという
m o b
男子の驚き混じりの大きな声が響き、カバンの中から引っ張り出されたのが、数ヶ月から無くなっていた僕のスカートだった
カバンの持ち主であるその男子生徒は、僕のことが『好きだから』それを盗んだのだという
好意
好きだから、盗んだ
その歪んだ言葉がどうしても理解できなくて、ただただ恐怖だけが背中を駆け上がった
もしあの時、部活の男子が偶然見つけてくれなかったら
彼はそれをずっと自分のカバンの中に隠し通すつもりだったんだ
僕の知らないところで、僕の持ち物をずっと...
そう思ったら、ゾッとするような鳥肌が止らなくなった
母の言葉が頭の中でぐるぐると回り、頭の中が真っ白になる
心臓がドクン, ドクンと耳の奥で激しく跳ねて、視界が急ににじんだ
我慢しようとしたけれど、恐怖とショックの大きさに耐えきれず、僕はその場で泣いてしまった
声を出すこともできず、ただ涙がボロボロと溢れて止まらなかった
クラス中、学校中の全員がこの事件を知っているわけじゃない
大きい声で騒ぎになったわけでもない
知っているのは、見つけた男子生徒と、犯人と、僕の家族だけ
だけど、それが余計に気味が悪かった
翌日、学校に行けば、何事もなかったかのように平穏な日常が流れている
m o b
雪 村 麻 耶
そう返しつつも、僕の心は恐怖で引き裂かれそうだった
犯人の男子生徒は、すぐ近くにいる
何も知らずに通り過ぎるクラスメイトたちも、もしかしたら僕の笑顔の裏を覗こうとしているかもしれない
身近な人が、僕をそんな歪んだ目で見ていた
好かれるのって、こんなに恐ろしいことなんだ
信じていた同じ学校の生徒からの裏切りと、好意という名の執着に、僕の心は完全に閉ざしてしまった
誰かに好かれること自体が、何か悪いことをされる前触れのような気がして、恐怖でしかなくなったのだ
事件の後も、僕は学校で無理して笑い続けた
本当の心を分厚い氷で閉ざして、誰のことも中に入れないように拒絶しながら
そんな冷え切った毎日の、唯一の救いになったのが、スマホの画面の中で見つけた「テラーノベル」だった
最初はただ、現実の恐怖や息苦しさを忘れるために、読者として見ているだけでよかった
文字を追っている間だけは、あの不気味な事件のことを思い出さずに済んだから
まさかその場所で、僕の冷え切った運命をじんわりと溶かしてくれる『温かい光』に出会うなんて
この時の僕はまだ、1ミリも想像していなかったんだ――
これは実際にあった話です
フィクションではありません
雑 談
#作者の実話
コメント
6件
思わず、泣きそうになりました。私も、軽いいじめのようなものは経験しましたが、好意からというのは友達などに裏切られるよりも、私には想像もつかない、深い恐怖の中だと思う。 どうか、そんな中でもとまとちゃんが、ありのままの自分をまだ見失っていませんように。
そうなんだ、 浸からったね(わかった風に言ってごめんね💦)
わあ…第1話からすごく重くて、でも丁寧な心理描写に引き込まれました。「好かれるのって、こんなに恐ろしいことなんだ」って台詞、胸がぎゅっとなりました。好きだから盗むっていう歪んだ好意、本当にゾッとしますよね。無理に笑って仮面を被るしかなかった主人公の気持ち、すごく伝わってきました。テラーノベルが救いになるっていう伏線、これからどう温かい光に出会うのか続きが気になります…!