ふと、見慣れた後ろ姿に手を伸ばした。
かつて、俺がずっと追っていた大きな大きなあの背中。
青井 らだお
ミン ドリー
青井 らだお
ミン ドリー
声を聞いてハッとした。
ナツメさんではなかった。
そもそももう今は先輩でもなんでもない。
青井 らだお
青井 らだお
青井 らだお
ミン ドリー
ミン ドリー
ミン ドリー
さっき対応していた銀行強盗のチェイスで、俺はヘリに乗って犯人をブレードキルし、「切り刻んじゃったよ〜ん」なんて言う煽り文句まで繰り出した挙句……
いざヘリを降りて護送しようとするタイミングで、いつの間にか近くに来ていたらしい犯人の仲間に車で轢かれた。
その時に右膝を挫傷してしまった。
おまけに頭部からの出血があったらしく、松葉杖を突いて頭に包帯をグルグルと巻かれている。
もちろん、その上から鬼の面も被っている。
青井 らだお
青井 らだお
青井 らだお
ミン ドリー
ミン ドリー
青井 らだお
青井 らだお
自分でも分かっていた。
ヘリ以外は特に誇れるところがない。
そのヘリが使えなくなった今、俺に人望はない。
青井 らだお
それだけを伝え、返事を聞くこともなく無線を切り、タブレットを操作し退勤する。
そして本署から逃げるように飛び出した。
外は雨だった。
無能な俺を警察署に縛り付けておきたいとでも言いたげな雨。
傘もささずに宛のないまま、ただひたすら歩く。
歩く…
歩く……。
基本空しか飛んでないから下からの景色は案外新鮮だ。
青井 らだお
青井 らだお
クシャミの余韻で身体をぶるぶるっと震わせる。
気が付くと、雨だということもあり、少し暗くなってきていた。
青井 らだお
いつしか足はレギオンへ向かっていた。
癒しのサン 酢やデ ヤンスはいないだろうかと期待に胸を膨らませたが、生憎の雨。
着いた先には人っ子一人居なかった。
青井 らだお
息苦しい。
俺は雨の下で鬼の被り物を外した。
青井 らだお
レギオンを進み、奥の屋根があるところへ向かい、壁に凭れてそのまま座った。
ぽたぽたと髪を伝って滴る、雨粒の落ちる音が駐車場内に反響する。
ぽつり…
ぽつり…
ぽつり…
その一定のリズムで弾かれる雨音にいつしか眠気を誘われ、憔悴しきった身体はすぐに眠りについた。
ぽつり…
ザァーザァー…
………ぴちょん
ズキ…
ズキリ
青井 らだお
気づけば夜は更け、雨は止んでいた。
青井 らだお
月明かりだけが頼りの夜の暗さに目が慣れてくると、見えてくるのは自分の周りに滲む赤い水たまり。
青井 らだお
頭痛で頭を押さえていた手を確認すると、そこには血がべっとりと付いていた。
青井 らだお
頭から流血する大怪我をしていたにもかかわらず、雨に濡れたまま硬いコンクリートに頭を押し付けて寝ていたため傷が開いてしまったのだろう。
とりあえず手持ちの包帯に付け替える。
普段からヘリに乗り続け、大型犯罪の取り締まりをハシゴして居るような人間だから包帯の扱いも、もう慣れたものだ。
雨が上がって人が集まってきたのか、レギオンから楽しそうな話し声も聞こえる。
青井 らだお
ハク ナツメ
その中でひときわ特徴的な声が聞こえた。
青井 らだお
そこにいたナツメは、ヘリを背もたれにして楽しそうに仲間と語り合っていた。
青井 らだお
急に立ち上がったからか立ちくらみで一瞬、目の前が真っ白になった。
バランスが取れず、その場に再びしゃがみ込む。
右膝の挫傷、頭部からの出血、そして貧血、オマケにびしょ濡れのまま寝たからか発熱もしているようだ。
青井 らだお
リフレッシュするはずが、余計に悪化させている。
青井 らだお
青井 らだお
いつもの青鬼を被ってレギオンへ足を踏み出した。
左手で松葉杖をつきながら右の壁を伝って進む。
警察の服装でこんなボロボロなら否が応でも周りの視線を集める。
ハク ナツメ
ハク ナツメ
案の定、一番最初に声をかけてきたのはナツメさんだった。
青井 らだお
ハク ナツメ
怒っているかなんて、そんなこと聞かれなくても……
青井 らだお
青井 らだお
青井 らだお
青井 らだお
ハク ナツメ
ハク ナツメ
視界は地震でも起きているのかと錯覚するほどゆらゆらと揺れ、頭には鈍器で殴られたような痛みが襲った。
積みに積み重なった体調不良で体が悲鳴を上げているのだろう。
三半規管が狂った身体で直立なんて出来るはずもなく俺はその場に倒れ込んだ。
ハク ナツメ
ナツメさんの心配を滲ませた声色がまた俺を泣かせに来る。
青井 らだお
青井 らだお
ハク ナツメ
もう、意識が朦朧としてきていて、息をすることで精一杯だ。
でも、この瞬間を逃せば、もう普通に話せる日は来ないかもしれない。
青井 らだお
俺の記憶はここで終わった。
コメント
4件
うわぁぁぁ!! 好きだァァ♡
…凄い……血ドバドバ…好き…負傷最高…