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ある夏の日、 プールの授業に参加できない私は、 水面にうつる海月を、 覗き込むように見つめていた。
ツキミ
問いかけても返事はない。
試しにプールに足を入れると、 ピリピリと痺れてくる感覚に襲われた。
ツキミ
実体はなく、 ただそこにうつっているだけの、 透明な海月。
私以外の生徒には見えていない、 私だけを拒む不思議な海月。
ツキミ
私はふと上を向いた。
一瞬、 夜空に月が浮かんでいるように見えたが、 慌てて目を擦ると、 そこには果てしない青空と太陽があった。
ツキミ
覗き込むのをやめ、 プールから距離をとって辺りを見回す。
生徒は私を気にせず、 先生の話を真剣に聞いている。
再びプールに目をやると、 そこに海月の姿は見えなかった。
私は驚き、 急いでプールを覗き込む。
ツキミ
私が覗き込むときだけうつる海月。
この海月も、 私に優しくしてくれない。
ツキミ
プールだけが私の居場所だったのに。
教室でも家でも、 感じるのは冷たい視線だけだ。
自由を感じたのは、 プールを見ている時だけだった。
ツキミ
頭痛がする。
何か忘れているような気がして、 必死に思い出そうとする。
私の目にうつったのは、 プールの飛び込み台だった。
ツキミ
私はこうなった原因の夜を、 鮮明に思い出す。
夜、綺麗な満月が浮かぶ日、 私は飛び込み台に座って、 プールを見つめていた。
女子生徒
それは聞き覚えのある、 私の嫌いな声の一つだった。
女子生徒
私はそんな声を無視し続ける。
女子生徒
後ろからの衝撃で私はプールに落ちた。
泳ぎたくても泳げない、 私は生まれつき、 下半身不随の障がい者なのだから。
女子生徒
嫌いな人たちは私をあざ笑い、 遠くへ行ってしまった。
水面にうつる月と同化するように、 私は夜空の満月を見ながら、 水に沈んでいった。
動かないはずの足が動いていたのは、 もう私が、 私ではなくなっていたからだった。
私が終わったあの日を思い出し、 全ての違和感がなくなったその時。
ツキミ
水面にうつっていたのは、 反転した『月海』だった。