第四章〜初恋〜
袖を引っ張られる。
振り向く。
そこには、背丈が僕の肩の高さくらいの女の子が、
なぜか悲しそうな瞳でこちらを見つめて立っていた。
少女
少女
初対面のはずなのにどうして僕の名前を知っているのだろう。
そんな味気のない思いを抱きながら一日がスタートした。
無条さん
無条さん
無条さん
無条さんが今にも弾み出しそうな声色で僕に寄ってきた。
僕が転入早々で開始5分で決着というスゴイ結果を出してしまったことは承知済みだった。
だが、無条さんが言った「すごかった」は違うことを指している気がした。
常にハイテンションな彼女だが、
今日はより一層のクオリティを醸し出していたので、遠回しに訊いてみた。
円世
円世
無条さん
無条さん
無条さん
円世
円世
僕は焦ったいのが苦手で、すぐに結果を求めてしまうタイプだ。
彼女の支離滅裂な話し方には、少し耐え難いものを感じてしまった。
無条さん
無条さん
無条さん
無条さん
僕は、彼女の報告を聞いて、思ったことを素直に口に出す。
円世
円世
さすがの無条さんも、この言葉にはギクリときたみたいだ。
無条さん
無条さん
無条さん
円世
円世
円世
無条さん
無条さん
理解が追いつかない彼女にフォローを入れる。
円世
無条さん
円世
円世
円世
円世
無条さん
無条さん
無条さん
彼女のテンションが収まったところで、
彼女に連れられて、改めて自分の「試」の結果を見に行くことにした。
少女
少女
僕たちがロビーに着くや否や、たまたまそこに居合わせた少女に、
自分で見る前に結果をネタバレされてしまったらしい。
この学校には、無条さんと生徒A以外の知り合いがいた覚えはないが、
その声は、僕のことを知っている風な口の利き方だった。
円世
円世
僕はとっさに「貧弱モード」をつくって少し間を空けてから振り返ると、
そこにはー向こうも意外だったのかーあからさまに驚く例の女の子が、
僕の存在に気付いて、ポカンとした表情で、目をぱちぱちさせて、立っていた。
と、次の瞬間。
少女
少女
自ら謎の地雷を残して走り去ろうとした彼女に向かって、僕の背後から突然、大声がとんだ。
ロビーにいた者のほとんどが無条さんの声に驚いて、彼女の方を振り向き、
さっきまでガヤガヤしていたロビーは、しんと静まり返ってしまった。
「幸乃」と呼ばれた少女も立ち止まって、無条さんのほうを振り向く。
幸乃
幸乃
みんなに注目されて顔を真っ赤にさせてしまう彼女。
そんな予想外の展開に動揺して立ち尽くしていた彼女の元へ無条さんはあゆみ寄って行く。
無条さん
無条さん
無言の圧力。
無条さんはそんな雰囲気で彼女ん目の前に立つ。
幸乃
幸乃
それに耐えかねたかのように、彼女は何も言わずに走り去ってしまった。
無条さん
無条さん
その一声で、さっきまでの静寂が少しずつ破れていく。
生徒
生徒
生徒
僕は、どことなく聞こえてくる声を頼りに、今の状況を把握しようとしていた。
喧騒が戻っているロビーにはたくさんの生徒が自分の結果を見ようと押し寄せていたので、
無条さんが僕の元に来る頃には、もうすでに結果を知っていた僕は、その集団の外側にいた。
無条さん
無条さん
円世
本当は、気になって仕方がなかった。
さっきの少女が誰で、無条さんとどういう関係にあるのか。
しかし、さっきのことに触れられたくなかったのか、無条さんは教室に戻るように促してきた。
無条さん
無条さん
円世
僕は、教室へ向かう廊下を歩きながら、
少女と無条さんは恐らく姉妹関係にあるのだろう、と結論づけた。
結局、自分の目で結果を見ることはできなかった。
無条さんはなぜかC組の教室の前を通り過ぎて、
B組の教室の扉の前で立ち止まった。
円世
僕も彼女が見ている紙を覗き込む。
彼女はそれに気付いて、僕の方へ向き直す。
無条さん
無条さん
無条さん
無条さん
無条さん
無条さん
無条さん
無条さん
無条さん
確かに、彼女の言わんとすることはわかる。
でも、「座標」替えをしなければ「試」に生じる不都合とは何なのか、
それはこの時の僕にはわからなかった。
円世
無条さん
彼女はそう言って僕の返事を待たずに、さっさと教室へ入っていってしまった。
廊下に残された僕は、自分の「座標」を確認して教室へ入る。
ここの空気はC組とは全く違う。
それは教室に入った時点ですぐにわかった。
何が違うのかと言われれば、 上手く言葉で表せるようなものではないが、
何かそういう雰囲気が流れていた。
ひとまず、自分の席に向かう。
木目がキレイな机の端で、僕の目がはたと止まった。
木目のそれとは正反対の「メッセージ」があった。
鉛筆で書かれたそのメッセージは、筆跡からして、恐らく男子のものであろうと推測できた。
しかし。
円世
円世
判別できなかった。
意図的なものなのか、それとも元々なのかは分からないが、
いずれにせよ、どれもこれも字が潰れていて、その記述から何かメッセージを読み取ることは不可能だった。
僕が筆箱から消しゴムを取り出したところで、後ろから声をかけられた。
生徒A
生徒A
僕はその声の方をゆっくりとした動作で振り向いて、彼にも「貧弱な光地之」を植え付け……
生徒A
生徒A
生徒A
生徒A
円世
その必要はなかったみたいだ。
彼から感じられる「神秘的な」雰囲気と同じようなものを僕は以前にも感じ取ったことがあった。
髪型こそ変わっていたが、どう考えても彼は「生徒A」に違いなかった。
生徒A
生徒A
円世
円世
生徒A
生徒A
生徒A
生徒A
生徒A
よし、いける。
つかみは悪くない。
B組に知り合いはほとんどいないから、 少しでも多くの生徒と良好な繋がりを持たなければ、「試」にも支障が出てしまうだろう。
それを踏まえた上で、思い切った言葉で弱々しく攻めてみる。
円世
円世
生徒A
想定通りの反応。
僕は無条さんの方をチラリと見るが、 彼女は鞄をゴソゴソして、何かを探しているらしかった。
円世
生徒A
円世
円世
生徒A
円世
生徒A
円世
僕はそこで言葉を失った。
理由は単純。
彼が笑っていたからだ。
円世
そんな僕の意地悪な言葉に、彼はさらに笑う。
生徒A
生徒A
円世
緊迫していた場が一瞬にして和む。
彼の言葉にはそんな「力」があった。
生徒A
西極星護
西極星護
円世
円世
西極星護
西極星護
円世
円世
「光地之」と違って、「西極」ってカッコいいよな、と思いながら、彼の名前をもう一度自分の中で反芻してみる。
西極、星護。
円世
西極星護
僕が彼の「力」の余韻に浸っている間に、彼は僕の机の横に立っていた。
西極星護
西極星護
西極星護
円世
円世
西極星護
西極星護
西極星護
西極星護
僕は彼の人差し指が向いている方に目線をやる。
その先にいたのは……
幸乃
幸乃
円世
円世
円世
僕は思わず独り言をこぼす。
僕たちが見ていたのは、教室に入ってすぐのところで、無条さんを見つけて飛びつくようにして話しかけていた「アレ」だった。
西極星護
西極星護
円世
西極星護
西極星護
西極星護
円世
円世
僕は一応、というか全力で皮肉っぽくありのままの事実を伝える。
教室で、急に大声があがる。
まだ人がほとんどいないこの教室でそんなことが起こる元凶といったら、僕には「アレ」しか思いつかなかった。
幸乃
幸乃
幸乃
予想的中。などと喜んでいる暇なんて僕には与えられなかった。
彼女は星護の方、すなわち僕がいるところを目がけて、ずんずん歩いてくる。
幸乃
幸乃
幸乃
空間がピタリと止まる。
彼女と目が合った僕は、そんな錯覚に陥る。
そして、束の間の静寂の後、彼女は顔を真っ青にして、視線を宙に泳がせる。
幸乃
幸乃
円世
西極星護
僕と星護の頭の中の疑問符が一致する。
一体、何が言いたいんだ。こいつ。 僕たちに可愛らしいウインクまでくれて、何が言いたいんだ?
しかし、星護の「力」は絶大な威力を発揮する。
西極星護
西極星護
西極星護
円世
何を見逃すのかは、さっぱりわからないまま、 とりあえず彼の意見に賛成しておく。
彼女は僕の反応を受け取って、自分の「座標」へと歩いていって、ストンと座る。
僕のところから机4つ分くらい離れたところに彼女のはあった。
円世
朝一番から僕の頭に疑問符をつくり続ける彼女に対する率直な思いを、星護に尋ねてみる。
西極星護
西極星護
西極星護
西極星護
円世
このとき、僕は何も知らないフリをしていたが、本当はわかっていた。
彼女が何者であるか、ということを。
「ウソ」の極意は、省略。
続く。