月を追いかけて

午前7時30分

前日の23時から暖め続けた布団から抜け出せと スマホのアラームが起床を急かす

アラーム停止ボタンを押すはずが 寝起きの余韻で手に力が入らず スヌーズボタンを押してしまった

が

それを解除することさえ、めんどくさい それほど、暖めた布団を冷やすことは罪深いのだ

今日4月8日は入学式

肌触りのいいシャツに、動きにくい灰色のスラックス 紺色のネクタイと、濃紺のブレザー

リュックを背負って ローファーに足を入れ 扉を開ける

返事は来ないのに 癖になっていた

ガチャン

橋本は今日も変わらず綺麗だ

デジャブ

こう、願ったり叶ったりだと 悪いことが起きるんじゃないかって 思ってしまうんだよな

寮の入口から左に一直線、ここで7分 残りの道は歩道橋を渡ったり 坂を昇ったりで10分

そうして着いたのは 東京都立乃ノ宮高等学校 部活動推薦で入ってくる人や、頭のいい人が多い。この高校は、偏差値66と中の上 部活動では、毎年全国レベルらしい

と言っても、だ。 運動も勉強も目的はない

ただ、目の前にあるのは

「橋本奈々未」

と、言う人物への想いだけだ

こうして、色々な思いを胸に昇降口前に足を向けた

ニコニコ動画のコメントばりに羅列された名前と番号から自分の名前を探し出す

橋本も言ってた通り、この2人と同じクラスが安牌だ

G組の8番 そこに自分の名前が書いてある

クラスは3人ともG組であった

教室はS棟の2階 校門からは1番遠い教室である

担任の先生からは 入学の祝辞と今日から1週間の予定が伝えられた

あ、と1文字口に出したのは

河川敷の小さな島で寝ていたあいつが隣の席にいたからである

オウム返しである

椅子の背面には 「西野七瀬」 と書かれている

現在体育館外で待機中

入学式が始まろうとしている

教室からここまでで 「西野七瀬」 という人物についておしえてもらっていた

大阪出身で、絵を描くのが好きで、ごわごわのタオルが好きで、爬虫類が好きで、モンスター狩っちゃうゲームが好きで、と

本当はもっと情報を刷り込まれたが 長くなるのでこれくらいで勘弁だ

そしていよいよ入場だ

校長の話から始まる 入学式 司会は現生徒会

この学校の校長は15年ほど変わっていないらしい

つまり、この校長は15年も

「神様は我々を〜」

みたいなことを続けてきたのだろう

たいていの生徒は聞いていないのが坦々だが

こういうのをちゃんと聞いていたらまじめだと思ってもらえるかもしれないという浅はかな気持ちで聞いている振りをした

いつの間にか眠ってしまっていたようで

まるでお昼のスクランブル交差点みたいに生徒でごった返している体育館 同じクラスでも見つけるのは容易ではない

こういう時に名前を呼んで探せればそれはその方が早いしいいのだが、俺にはそんな勇気はない

さすがにアイドルで有名な学校なだけあって、そのための施設が学校内に作られている

そしてどうやら、部活には全員入れるわけではないみたいだ

普通の部活なら誰でも入部届けを出せば 入部できるのだが

この部活は、入る人を選抜し そこからグループを作るらしい

奈々未や飛鳥は大丈夫だろう

わからないのは俺の方だ

そもそもマネージャーを募集してもらえるのか、していたとして自分はやらせてもらえるのか

奈々未に提案してもらった 「マネージャー」 という称号

なんとしてでも手に入れたい

それは好きな人がいるから

と、言うのも小っ恥ずかしい

奈々未や飛鳥のように、七瀬のルックスならば余裕で合格であろう

七瀬との会話を済ませ 目的の教室へ向かう

アイドルを目指す彼女達とは別の部屋で マネージャーの面接が行われる

驚いたのはそこにいた人数

にではなく

マネージャーの試験方法

である

なんと「学力」「運動能力」 の調査

どうやらマネージャーをやるには体力と良い頭脳が必要らしい

主要５教科各60分テストと5kmマラソン

なるほどな

口に出して言ってしまうほど奇妙だ

とは言ったものの 合格はしたい

多くの男子の中に少数の女子

やはりガールズアイドルのマネージャーは 男子の志望者が多いのだろうか

なんて思っていたらいよいよ試験時間

まずは、マラソン

運動神経は中の上くらい

スポーツならだいたい並にはできるつもりだ

しかし卓球だけは上手くいったことがない

だが今回は長距離走

体力は陸上部の短距離走の選手よりかはある これは中学の時のはなしだが

マラソン終了

タイムは約18分

これがどれくらいの記録なのかは分からない

しかしゴールした時8人くらいは先についてた様に見えた

休む間もなく、学力調査に駆り出される

テスト終了

こちらは恐らく大丈夫であろう

間もなくして、生徒が集められた

先生…なんだろうか その人からは合格者が告げられた

俺は合格していた