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本話は… 井嶋少佐と竹中少尉 お二人の視点から物語の進行する 二部形式となります。 お楽しみくだされば幸いです。
時を遡りましょう…
1946年六月某日
井嶋少佐視点
竹中と… あの夜以来話す事がなくなって… 俺はあいつの真意というものを汲み取れずにいた… 生きたいのか… それとも死にに行く覚悟で望んでるのか… せめてそれだけでもはっきりさせてくれたなら…
そう思い…竹中の奴が乗る魚雷の訓練機を眺めた…
整備士
近くにいた訓練の補助をする整備士が備え付けの有線電話でそう告げていた。 おそらく、アイツの練習機と繋がっているんだろう
井嶋少佐
整備士
井嶋少佐
整備士
井嶋少佐
整備士
井嶋少佐
整備士
だが、整備兵の言葉は正しい… 少なくとも…あんな片道切符の鉄の棺桶の中で死なせていいわけが無い…
井嶋少佐
整備士
そう言い残し…俺はその場を後にする。 去り際、遠くから竹中の乗った練習機に備え付けられた鎖が巻かれ埠頭に挙げられるのが見え…中から竹中が出てくるのが見えた…
井嶋少佐
竹中少尉
あいつと目が合った… 遠巻きだがよく見える… 目が腫れていた… それも少し泣いたくらいの腫れ方じゃない… きっと毎晩、やり場のない悲しみを人知れず抱え込んでいるんだろう…
竹中少尉
敬礼してきた後、何も言わず練習機にまた乗り込む…
井嶋少佐
自然と…言葉が口から出ていた…
その場を後にする…
それから10日後…
井嶋少佐
竹中少尉
俺は401号艦の乗組員と共に作戦会議室で明日行われる迎撃戦闘の概要を説明し… 竹中のやつに…今一度、意志を確認した… が、やはりその顔は優れない…それどころか顔もどこかひきつり…生きてるのに死んでるような顔をしていた…
おそらく…もう涙すら出ないんだろう…
井嶋少佐
作戦会議室を後に…自室へと急いで向かった
時刻は既に夜の10時… 明朝0400時をもって401号艦は小笠原へ向けて進水予定… であればここからは時間との戦いに勝たねば… 部屋の鍵を閉め、自室に備え付けられている電話の受話器を取る。 黒電話の相当する番号に指を入れて回して行く…
かけた電話先は…
楯無機関士長
井嶋少佐
楯無機関士長
井嶋少佐
楯無機関士長
井嶋少佐
その後1度受話器を下げ…今度は別の場所へ繋げる
井嶋少佐
その後…ひとしきり関係各所に通達を終え… 自艦…401号の元へ走った
翌明朝…0800時 小笠原諸島、南の孤島沖… 乗組員を載せた伊号ロ型401号艦は予定通り…待機地点にて敵艦隊の進駐を待ち構えていた…
井嶋少佐
水測士 門倉
井嶋少佐
航海長 後藤
井嶋少佐
一度艦長席に備え付けられた艦内の有線電話をとり、上部甲板で待機している竹中に繋いだ
井嶋少佐
竹中少尉
井嶋少佐
竹中少尉
竹中少尉視点
その後…井嶋さんからの有線電話を聞いた僕は、双眼鏡を使った周囲警戒を続ける… とてつもない緊張感… これが実戦前の静けさ… それらを五感で感じ取りながらまだ見ぬ敵を警戒する。
竹中少尉
…一瞬見えた…! 見間違いようのない… 気配が全く違う灰色の大小兼ねた無数の船団… 後方甲板…敵味方を識別するための旗は旭日ではなく星条旗…!!
敵の艦隊だ!
有線電話を取り、勢いよく告げる
竹中少尉
井嶋少佐視点
水測士 門倉
井嶋少佐
続けざま…上部甲板から…
竹中少尉
でたか…いよいよだ…!
井嶋少佐
竹中少尉
その後、艦長席から立ち上がり…周囲の報告や乗組員のやり取りを耳にして以上がないかを慎重に聞いていく。 その傍ら…航海長の後藤へ…
井嶋少佐
航海長 後藤
井嶋少佐
水雷長 佐藤
井嶋少佐
水測士 門倉
一通りの指示を飛ばしたあと、艦長席から有線電話を取り、魚雷内の竹中と連絡を取る
井嶋少佐
竹中少尉視点
魚雷の乗り込み口を閉めた直後…潜水艦が一気に沈む音が外から聞こえた… いよいよ、覚悟を決めねばならない…
そうして、魚雷内の計器を付けていき、最終確認を完了させた直後の事…
井嶋少佐
有線電話から、井嶋さんの声が聞こえた…
竹中少尉
ここまで来たならばもう余計なことは拭いされ! そう自分に言い聞かせたあと… 一つだけの心残りを受話器の向こうの井嶋さんへ告げる
竹中少尉
井嶋少佐
竹中少尉
そう…明け方、横須賀を出航する際、井嶋さんに家族宛ての遺書を渡した。 僕はどの道もう帰れないからと…せめて最後の言葉位は家族に届けたい… そう感じての物だった
少しの沈黙の後…井嶋さんから
井嶋少佐
竹中少尉
井嶋少佐
竹中少尉
聞いたとおりに、計器横の隙間を触ると、封筒が一部、小さく折りたたまれて出てきた。 出航前の最終確認時はこんなもの無かったはずなのに…
竹中少尉
井嶋少佐
竹中少尉
せめて苦しまずに…そういう意図で用意してくれたんだと感じた…
竹中少尉
井嶋少佐視点
さっき、竹中のやつに言った成就祈願… さすがに皮肉になってしまったかと考えた… が、今はそれよりも気にすべき事がある…
水測士 門倉
井嶋少佐
これで、『有効距離での発射』だ…
受話器から竹中へ…
井嶋少佐
竹中少尉
直後受話器を置いて…後藤に静かに告げた…
井嶋少佐
航海長 後藤
何かを悟ったように…口元に笑みを浮かべてこくりと頷いた
航海長 後藤
静かだが…確実な様子で艦が左の方向へ船体を向けていくのを感じる…
それからすぐ竹中からの有線電話が聞こえてきた。
竹中少尉
井嶋少佐
覚悟を決めた声… 心を抉るものを感じた…
井嶋少佐
そして…艦の上部からスクリューの回る音が聞こえた… 竹中の搭乗する回天のものだ… すぐさま立ち上がり、俺は怒鳴る
井嶋少佐
水雷長 佐藤
佐藤が、取り付けられた魚雷発射用の操作器具を倒す。 直後、艦の上部から魚雷が発射される感触が船体を通して伝わった
井嶋少佐
竹中少尉視点
井嶋さんの激を耳にした…!回天がどんどん速度をまして前進していく。
竹中少尉
昨日の夜に聞いたとおり…進路を大きく左後ろの方へ向ける!これで暖流の影響を受ければ敵空母ど真ん中を貫ける位置まで行ける!
竹中少尉
そうして、操縦桿をゆっくり確実に倒していき、魚雷の胴体を上部の方へ向ける!あとは命中させるのみだ!
井嶋少佐視点
竹中の乗った回天が発射された!
井嶋少佐
頼む…!俺の言った通りに進め! 何も迷わずただ真っ直ぐに! 絶対間違えるな!
竹中少尉視点
静かに!着実に加速していく! かなり進んできた!
竹中少尉
備え付けられた信管を引きぬく! あとは可能な限り横合いにぶつかるだけ!
_____ッ!!!!!!
井嶋少佐視点
その後…少しの沈黙… 艦内に流れる耐え難い静けさ…
井嶋少佐
水測士 門倉
門倉が…水測計器を調整しながら…周辺の音をとにかく拾い上げる… すると、小さく…遠くの方から何か音が聞こえた…
水測士 門倉
井嶋少佐
よし!!!!
あいつは精度の高い操作を成し遂げた! 一か八かの賭け、それをアイツは見事に勝ち抜いた!
こうなれば竹中の事は心配要らない…! 命令違反と取られる行動したから本当は良くない…! 本当はこういうことしたら良くない…! だがそんなこと知ったことかと俺は両拳を握りしめて喜びを表現する
その様子に他の乗組員たちも少なからず達成感みたいな表情や所作を取っていた…
井嶋少佐
航海長 後藤
続けざま!立ち上がり乗組員全員を見る!
井嶋少佐
「「「「了解!」」」」 覇気のこもる声… そうとも、これこそ俺と401の乗組員の気概だ… 俺たちはこれまで数多くの海戦へ遠征し… その多くで味方を救いながら生き延びてきた… 今回もそうするまで!
井嶋少佐
竹中少尉視点
……おかしい… 接触した音が聞こえたはず… 信管も引き抜いているから爆発するはずだ… なのに…!
竹中少尉
その直後…回天の外側から誰かがガンガンと叩く音が聞こえてきた…
竹中少尉
???
竹中少尉
???
そうして、上部の開閉口を閉めていた手回し金具が回され…眩しい光が魚雷の中に差し込めてきた!
竹中少尉
???
竹中少尉
???
目の前の人が周りに向かって「ずらかるぞー!」「早くしろぉ!!」と掛け声を飛ばすと、そのまま魚雷の中から僕を引っ張り出した
???
竹中少尉
回天を脱出し…浜辺を走り抜けている時、沖合で艦艇同士の撃ち合いが始まった。 凄まじい轟音と共に… 何十発もの砲弾が飛び交いながら、海の向こうは苛烈な戦場とかした… そうして激しい打ち合いの後…星条旗を掲げた艦隊がどこかの方角へ向かって進路をとって言った… 生憎その方角がどうにも分からない…
僕を引っ張り出した人に言われるがまま、避難壕に潜り込み… 一連の騒ぎが納まった時には空には星が登る夜… この島にある飛行機基地も砲撃を受けており…周りの人が撤廃作業をしている中、僕は目の前の焚き火を前に蹲る…
???
そうして僕の横に座り… 肩を強引に掴んでくる
竹中少尉
???
竹中少尉
思い切り背中を引っぱたかれる… 結構痛い…
???
竹中少尉
その後栗原大尉は懐から「旭」と書かれた軍用タバコを取りだし、焚き火を使って火をつけ…そのまま一服始めた
栗原大尉
一気に吸い込み…口元で煙を舌で転がしたあと…味わいながら深く吐いていく
栗原大尉
竹中少尉
栗原大尉
竹中少尉
そんな…ここに来て死ぬ事は愚か戦うことまで出来ないなんて…そんなのなんの冗談だ…!
竹中少尉
栗原大尉
竹中少尉
死にかったか…? あれ…? 僕…死にたかったから特攻に参加したんだったっけ? 矛盾が一気に押し寄せてきて僕は頭を抱えた…
栗原大尉
竹中少尉
栗原大尉
竹中少尉
そういえばそうだ…お守りって言われてたから思い切りずっと握りしめてたんだった… 力入れすぎてて感覚無くなってた…
栗原さんに言われるまま…僕は手に握る封筒を広げ…中に入っていたものを取り出す。 そこには一枚の折りたたまれた手紙が入っていた…
竹中 お前がこの手紙を読んでいるということは、飛行隊基地にいる栗原さんの所に辿り着けたという事だ。 生き延びれた事を喜ぶ。 まず、あの夜お前に伝えた暖流の話… あれは、お前を砂浜に打ち上げるための嘘だ。 素直なお前なら、俺の言う通りにすると思った。 回天が爆発しなかったのは、出航前夜に整備班と共に細工したのが原因だ。 お前のせいじゃない。 あとから回収されても分からないようになっているから安心しろ。 お前が士官学校の馬鹿教官からどんな高尚を吹き込まれたか、それは分からない。それでもこんな事で死ぬなんざ間違っている。 お前の命、決して魚雷の部品なんかにさせない… 命の使い所を誤るな… そんなお前に2つ大切な命令を伝える。 1つ…御国なんかのために命を捨てるな。 たとえ誰に何と言われようと… 2つ…その拾った命で親御さんに孝行しろ。 万歳三唱で送り出されたとしても、本心では生きて帰ってきてほしい…そう願ってるはずだ。 敵は俺たちが何とかしてやる。 だからお前は心配せずに… 先に死んでしまった連中の分まで、精一杯生きろ 最後になるが…お前が沢山苦しんでいたにも関わらず いい言葉ひとつかけてやれなくてすまなかった… だが、お前が無事帰れる事… それが、今の俺にとって… 何にも替え難い大事な事だ お郷の皆によろしくな 達者で暮らせ 井嶋幸次郎
そこに書かれていたのは… 郷に送られてきた井嶋さんの字だった… 気がつくと…大粒の涙が僕の目から沢山こぼれ落ちていた。 抑えることも出来ないほど沢山溢れ… しまいには嗚咽まで盛れる程に僕は泣いた…
栗原大尉
竹中少尉
その後…井嶋さんの乗る潜水艦伊号ロ型401号艦が帰還したという話を聞かず… 艦長、井嶋幸次郎少佐を初め乗組員は戦死扱いとして処理された… その後の数ヶ月間…栗原さんの助けを受けながら終戦まで孤島で過ごし 終戦後…本島に生きて帰ることが出来た… 「恥ずかしながら帰ってまいりました…」そんな言葉を口にした僕を、母さんは何も言わずに泣きながら抱きしめてくれた… そして数十年たった今も…僕はまだ生きている… あの日、手紙で教えてくれた命の使い所を…僕なりに探すために…