主
文化祭前夜。ここまで積み重ねてきた「秘密」と「思い出」が、少しずつ形になっていく回!
『恋なんて、知らない。』
第33話「前夜」
文化祭前日。
放課後の教室は、いつもよりずっと騒がしかった。
「飾り付け終わったー!」
「机運ぶぞー!」
「あと少し!」
みんなが忙しく動き回る中。
奏斗と冴も、最後の確認をしていた。
「こっちの飾り、少し曲がってる。」
「ほんとだ。」
奏斗が脚立に乗る。
「直した。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
二人が顔を見合わせて笑う。
気づけば。
文化祭まで、あと一日。
夏祭り、体育祭、放課後の準備。
いろんなことがあった。
その全部が、少しずつ積み重なっている。
夕方。
準備が終わる。
「今日はここまで!」
先生の声が響く。
「やっと終わったー!」
みんなが帰り支度を始める。
そんな中。
「神崎。」
「ん?」
冴が小さく呼んだ。
「少し、残れる?」
「もちろん。」
教室には、二人だけになった。
夕日が窓から差し込む。
机の上には、文化祭で使うメニュー表。
壁には、みんなで作った飾り。
「終わったな。」
奏斗が言う。
「うん。」
冴は鞄を開ける。
中から、小さな封筒を取り出した。
「これ。」
「?」
「神崎に。」
奏斗が受け取る。
開ける。
中に入っていたのは――
小さなしおりだった。
喫茶店のマーク。
そして、裏には小さな字。
『これからも、思い出を増やそう。』
「……。」
奏斗が言葉を失う。
「これ。」
「俺に?」
「うん。」
冴が少しだけ目をそらす。
「文化祭の記念。」
「……。」
奏斗はしおりを見つめる。
胸の奥が、少し熱くなる。
「……嬉しい。」
それしか言えなかった。
でも。
その一言で十分だった。
「実は。」
冴が小さく言う。
「自分の分も作った。」
「おそろい?」
「……うん。」
「いいじゃん!」
奏斗が笑う。
「大事にする。」
「……俺も。」
そのとき。
窓の外で風が吹いた。
カーテンが揺れる。
夕焼けの教室。
二人だけの時間。
「神崎。」
「ん?」
「文化祭。」
「うん。」
「楽しみ。」
「俺も。」
少し沈黙が流れる。
そして。
奏斗がぽつりと言った。
「……石川。」
「?」
「俺。」
「?」
「最近、思うんだ。」
「何を?」
奏斗は少し困ったように笑う。
「石川といると、すごく楽しい。」
「……。」
「前は、こんなこと考えなかった。」
「……うん。」
「だから。」
奏斗はしおりを見る。
『これからも、思い出を増やそう。』
その言葉が、胸に残る。
「これからも、たくさん増やそうな。」
冴が少し笑った。
「……うん。」
帰り道。
夕暮れの空。
二人は並んで歩く。
「明日。」
「うん。」
「成功するといいな。」
「絶対する。」
「根拠は?」
「石川と一緒だから。」
「……。」
冴は少し黙る。
そして。
「……俺も。」
小さく答えた。
その夜。
奏斗は机の上にしおりを置く。
隣には、体育祭の写真。
文化祭の準備メモ。
そして。
冴との思い出。
「……。」
しおりを手に取る。
『これからも、思い出を増やそう。』
その言葉を見て。
奏斗は小さく笑った。
「……うん。」
明日。
また新しい思い出が増える。
そんな予感がしていた。
第33話 おわり
次回・第34話「文化祭」
ついに文化祭当日!
喫茶店は大盛況。
忙しい一日の中で、二人がようやく見つけた「二人だけの時間」。
そして文化祭の終わり。
冴が奏斗を連れて行くのは
――
夏の日に約束した、秘密の場所。
