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わんく 基本水白(桃白表現有) 同棲はしてない
あの夏に覚えているのは 閉じ切った部屋に立ち込めた焼香と 絶えず燃える線香の匂いだけ。
好きだった左隣の彼が居なくなり、 掴む手が何も無くなった。 その手を強引に掴んできたのは 俺の事を好きだったらしい君だった。
僕にしなよ、って言ってくれたのは すごく嬉しかったけど 長らく忘れることは出来なかった。
それでもいい、と 君は僕を愛してくれた。 どうしようもなくかっこよくて、 申し訳なさでいっぱいになって、 別れたかったのだけれど 溢れんばかりの愛情を受けた心は 心地好く段々と埋められていった。
ほとけ
悠佑
初兎
ほとけ
いふ
初兎
ほとけ
ハンカチ、と言うには大きいタオルを 最年長の青年が軽く投げて渡してくれる。 雑に顔を拭くと、ぼんやりする頭が 少しずつ起きていく気がした。
初兎
ほとけ
初兎
いふ
ほんの数瞬前まで覚えていた内容は、 言葉にしようとしたその時 すでに煙のように消えてしまっていた。
ほとけ
初兎
悠佑
ほとけ
初兎
2人で歩いている時、 遠くに知った人影が見えた気がした。
初兎
ほとけ
初兎
ほとけ
明るい髪色の彼が居た気がする。 雑多にいる人の中に 少し頭が抜けるくらいの青年だ。
初兎
ほとけ
彼が帰ってきているとしたら、だ。 遊びに来ているんだろうか。 皆を見に来たのだろうか。 それとも俺に恨み言の一つでも 言いに来たのだろうか。
好きだと言っていたのに、 いと簡単に絆されてしまった俺を 恨んでいたとしたら、 それは許されてはいけないことだ。
だんだんと冷えていく身体、 少しだけでも幸せになりかけたことが 余計に悪いと思ってしまう。
悪い思考が駆け巡っている、 それを止めるように 横の君はぎゅ、っと強く手を握った。
ほとけ
初兎
ほとけ
初兎
一瞬見た彼はもう消えていて 人波にさらわれていた。 手を繋いだままゆっくりと歩いて、 落ち着こう、落ち着こうと 暗示するように何度も思った。
少し人が消えたあたりで君は止まる。 俺を抱き締めて、背中を撫でた。
ほとけ
触れた手は暖かく、冷えきった身体に 少しづつ温度が戻っている気がした。
初兎
ほとけ
初兎
ほとけ
初兎
ほとけ
初兎
君の髪を軽く撫でると、 ぱっと笑って歩き出した。 取られた手に引かれて、 後を着いていく様に歩いている。
2人でデートをして、 帰り際に思わしき人影を見た。 多分こちらを見ていて、 笑ってはいなかったと思う。
初兎
多分釘付けになって動きの鈍い俺を見て 君は気がついたんだと思う。
ほとけ
少々強引に顔の向きを動かされた。 両頬を掴む君は、 真面目な表情で目線を向けていた。
ほとけ
初兎
ほとけ
あまりにも間の抜けた答えが来て 思わず笑みが零れてしまう。 俺の笑った顔を見て、 嬉しそうにえへへ、と笑った君。
ほとけ
初兎
もうすぐ夕方になる道を手を繋いで、 うるさい蝉を聞きながら歩いた。
命日だから、御墓参りに行こうか。 そう言って2人、途中の公園で 待ち合わせをしていた。
風が吹いて木々が揺れ、 遠くに彼の面影を思い出す。
初兎
微かに声が聞こえた気がして、 急いで周囲を見渡しても誰も居ない。
視界が暗転する。 冷たい何かが目元にあるのが分かった。
初兎
好きだった、いや、 大好きだった声が後ろから聞こえる。 もう聞けないはずだった声が、 しっかりと耳に届いている。
初兎
ないこ
いつも通りのテンションで、 生きている時と同じ声で笑う彼。
初兎
ないこ
初兎
彼の顔が見れない。 どんな表情で喋ってるんだろう、 気になったとしても、 顔を上げる勇気がどうしても出てこなかった。
ないこ
初兎
ないこ
下を向いたまま彼の声を聞く。 温度のない指が頬を撫でる感覚があって ばっと顔を上げると、 一瞬驚き、そして笑う彼が居た。
ないこ
初兎
ないこ
初兎
ないこ
ないこ
初兎
ないこ
腕を組んで上を見上げている彼。 何個か案を呟くのだが、 いや違うしなぁ、と棄却している。
ないこ
ないこ
初兎
ないこ
ないこ
ぼろぼろと溢れた雫が頬を伝う。 ああほら、泣かないで、と 彼は冷たい掌で涙を拭っていた。
ないこ
初兎
ないこ
ふわふわと撫でられる手は冷たくて。
ないこ
ないこ
初兎
彼が言う唐突な言葉に、 俺は思わず笑ってしまって。 つられて彼もぱっと笑っていた。
ないこ
彼らはただ、なく。 それは俺のためか、彼のためか、なんて 知るよしは無かった。
また蝉がなく頃に、同じ話をしよう。
そう言って彼は居なくなった。 せっかちな彼はもう 次の年の同じ頃へと出掛けてしまったのだ
ほとけ
慌てて走ってきた君が、 少し屈んで寄り添ってくれる。
初兎
ほとけ
青い木の葉が風に揺れる。 蝉がなく夏はまた来てくれる。 彼と会うのを待ちわびながら、 俺は君と、幸せになろうと思う。