サン
綴りなんて聞いてなかったな
サン
サン
サン
一体
《 何 》だったんだ‥?
贖罪
ソニア
ソニア
サン
ソニア
ソニア
ソニア
サン
ソニア
最近ずっとそんな調子じゃないか
サン
サン
ソニア
サン
サン
サン
ソニア
ソニア
意味無いぞ
サン
‥分かってるけどさ
サン
サン
‥《セカイ》は 地球の様子が映し出される 小瓶のような物体だ
ソニア
ソニア
サン
空が晴れてきたけど
サン
かなり荒れてる
ソニア
それは仕方ないだろう
サン
実際に見たんだよな‥?
サン
地球を焼き尽くした業火を
ソニア
ソニア
鮮明に思い出せる
‥それは20年前 突然発生した
大地の怒りとさえ 呼ばれるほどの業火は
世界を瞬く間に 焼き尽くした
‥らしい
サン
《船》の中で
生まれたから‥)
サン
‥とある国際機関は そんな非常時に備えて
前もって開発してあった この《船》に 生き残った人々を乗せて
宇宙に漕ぎ出した
…らしい
サン
ソニアからの
又聞きだけど‥)
ソニアの横顔を ちらりと盗み見る
ソニア
サン
いや‥
サン
ジロジロ見て。
気に障った?
ソニア
ソニア
慣れてるよ
サン
どういう意味?
ソニア
好きに見ていろって事だ
サン
‥止めていた手を 再び作業へと戻す ソニア
《船》の管理人として 各所を周って 修理を行うソニアに
俺も同行している わけだけど
サン
サン
サン
‥ソニアの気持ちは 分からない
でも 俺は‥
貴方が 俺の運命を変えた あの日から
ずっと‥
バキッ
薄汚い子供だね!
良いから盗みを働いて来い!
飯にありつくのはそれからだ!
サン
サン
それに
サン
サン
盗んでこなきゃ
サン
サン
殴られちゃう
サン
どこに行けば‥
サン
サン
ドアが少し開いてる
サン
《船》の修理をしてて
部屋に居ないって
サン
言ってた‥
サン
ギィィ
サン
サン
ぬすむもの‥
サン
なんだろう?
サン
綺麗‥
サン
お母さんもきっと‥
ソニア
気に入ったのか
サン
‥気づいたら 後ろに男の人が 立っていた
寝起きみたいな声で 気だるそうに 頭をかく
サン
ごめんなさい
サン
ください‥
ソニア
どうし‥
おもむろに手をかざす 管理人に対して ‥反射的に体が跳ねた
サン
なぐらないで
サン
ソニア
ソニア
顔をよく見せてみろ
サン
ソニア
ほら
管理人は 屈んで 顔を覗き込んだ
ソニア
サン
サン
怒ってるのかな)
サン
ごめんなさい
サン
盗もうとしました‥
サン
ごめんなさい‥
ソニア
欲しいのか
サン
ソニア
と聞いてる
サン
サン
はい
サン
ソニア
ソニア
お前にやってもいい
サン
サン
いいんですか‥?
ソニア
ソニア
サン
ソニア
俺の手伝いをしろ
サン
サン
どういうこと?
ソニア
とても価値のあるものだ
ソニア
その分働いて返してもらう
ソニア
住み込みで働かなければ
採算が取れん
サン
で、でもそれは‥
ソニア
今日からお前はここにいろ
サン
管理人は伸ばした手で ‥そっと 頬を撫でた
サン
サン
気づかれた)
ソニア
サン
ソニア
サン
ソニア
そう言うと管理人は フフッと頬を緩めて
ぽんぽんと 俺の頭を軽く叩いた
‥ドクン
サン
サン
この気持ち‥)
ソニア
サン
サン
おじさん
ソニア
ソニア
‥この船の修繕をしている
ソニア
サン
サン
無いよ
ソニア
サン
拾われた子供だから
サン
サン
ソニア
ソニア
サン
ソニア
お前をサンと呼ぶよ
サン
サン
っていう大きな星と
同じ名前?
ソニア
‥ああ
ソニア
ソニア
そういうことになるな
サン
サン
ソニア
サン
この名前大事にする
ソニア
ソニア
良かった
あの日
俺の頬を撫でた その華奢で角張った手に
ろくに整えていない 柔らかそうな癖毛に
メガネ越しに微笑む 切れ長の目に
不健康そうな 白い肌に
落ち着いた声音に
俺を救った その暖かさに
貴方の全てに
恋をした
サン
想いを引き摺ったまま
10年近く経ったけど)
サン
貴方のことが)
修繕作業に没頭する ソニアの横顔は
出会った時より 少し老けたけど 凛としていて綺麗だ
サン
サン
俺の事をどう思ってるのか
分からないけど)
サン
ソニア
サン
サン
ソニア
サン
笑う顔を見せるのは)
サン
サン
もしかしたらって)
サン
良いよな‥?)
カタタッ
サン
サン
あれ‥
ソニア
サン
《セカイ》が突然 ひとりでに震えながら 青く輝き始めた
サン
ど、どういうことなんだ?
ソニア
サン
サン
だって今までこんなこと
ソニア
ソニア
早かったな
サン
ソニア
ソニア
ただ地球の様子を
映すだけの物じゃない
ソニア
住める環境になった時
ソニア
吐き出す装置でもある
サン
ソニア
地球に人間を《転送》する
抜け穴みたいなものだ
サン
サン
ってことか?
ソニア
サン
《セカイ》が震えてるのは‥?
ソニア
生成している
準備段階なんだろう
ソニア
《転送》はまだ
開発途上の技術だ
ソニア
不安もあるが
サン
サン
サン
サン
動いているのだって)
サン
ソニアのおかげなんだ)
サン
間違いなんてない)
サン
それより)
地球‥ どんな場所なんだろう
サン
行けることになるなんて)
サン
ずっとこの時を
待ってたのかな)
サン
なんて
歴史に残る大仕事だ)
サン
気苦労が多かっただろうな‥)
サン
サン
ソニアにこの気持ちを伝えよう)
サン
サン
サン
その時になったら)
サン
責務から解放されて)
サン
楽になってる
だろうし‥)
ソニア
そうだ
ソニア
他の人間には
伏せておいてくれ
ソニア
《船》の現状は
好ましくないのに
ソニア
混乱を招きたくない
サン
わかったよ
サン
船の管理に不満を唱える
ヤツも多いもんな
ソニア
頼んだぞ
サン
今はまだ)
サン
貴方だけの秘密だ)
‥いつか二人で 地球に降り立って
《太陽》を見たいという 夢が
これできっと叶う__
バキッ
許してくれ!
あの時は 仕方なかったんだ
もう 関わらないから
誰か!!助け‥
バキッ
ソニア
ソニア
こういう事例が多いな
《船》内での犯罪を 取り締まっている組織からの 報告書に目を通す
ソニア
行動不能の状態で発見‥
ソニア
手が使えず筆談にも応じられない
ソニア
犯人の手掛かりが
掴めない
《船》が地球を発って以来 軽犯罪は少なからず 横行していたが
こんな立て続けに 暴行事件‥それも
殺人未遂が 起こったのは初めてだ
ソニア
想定していなかった
‥というよりは
ソニア
なかったんだがな‥
何せ 地球を共に脱して来た 運命共同体なのだ
ソニア
ソニア
家族のようになれる
とは思っていないが)
ソニア
なってしまうとは)
サン
サン
ソニア
ソニア
巻き込む訳にはいかない)
素直なサンの事だ
きっと俺が困っていると知れば すぐに突っ走ってしまうだろう
ソニア
ソニア
サン
サン
事件でもあったのか?
サン
ソニア
そんなところだ
サン
この書類全部ソニアが
読まないといけないの?
ソニア
より広い範囲で情報を
網羅しなきゃいけないんだ
ソニア
考えないといけないしな
サン
ソニア
ソニア
《セカイ》の方はどうだ?
サン
カタカタ言ってるよ
サン
ソニア
ソニア
俺はもう少し作業があるから
ソニア
サン
子供扱い?
サン
子供じゃないんですけど
ソニア
サンのままだよ
サン
成長してないってこと?
サン
ソニア
ソニア
俺にとっては今も昔も
変わらず
ソニア
サンのままだ
サン
サン
いいの?
ソニア
サンがおもむろに近付き たどたどしい手付きで 指に触れる
サン
どう思ってるの?
ソニア
熱っぽい眼差しに 紅潮した頬
ソニア
サン
サン
子供じゃないよ
サン
言葉の意味がわからず 固まっている俺の頬に
そっと キスを落として
サンは 足早に去っていった
ソニア
ソニア
サン、という呼称を 口にするのが
はばかられる
ああ
Son(息子)よ
一体 どうして こうなった?
ソニア
どうにか 落ち着こうとする 意志とは裏腹に
自分の鼓動は 煩いほど高鳴りを増す
ソニア
その音をかき消すように バサバサと 報告書の束をめくった
ねえ ソニア
ソニア
ソニアには 想ってる人はいないの?
ソニア
良いじゃん
たまには こういう話も
ソニア
ソニア
ソニア
の方が正しいかな
いた?
ソニア
ソニア
どうして?
ソニア
ソニア
仕事が忙しくて
ソニア
愛しているつもりでも
ソニア
気付けていなかったんだ
‥何に?
ソニア
ソニア
ソニア
暴力をふるっていた
ソニア
ソニア
昏睡状態で病院に搬送されるまで
ソニア
ソニア
‥娘さんがいたんだね
ソニア
ソニア
‥どうして
滅多に 会いに行かないの?
ソニア
気付けなくて
ソニア
危険に晒してしまった
ソニア
ソニア
‥ソニアは
立派だよ
俺が保証する
ソニア
娘さんはきっと ソニアに会いたがってるよ
ソニア
罪を感じているなら
会ってあげて
それが贖罪になるから
少なくとも 俺はそう思うよ
ソニア
ソニア
向き合えるようになったのは)
ソニア
押されていなかったら)
ソニア
今でも罪の意識に囚われて‥)
ソニア
ソニア
サンの屈託ない笑顔が 頭に浮かぶ
ソニア
ソニア
ソニア
なのか?)
ソニア
でも)
ソニア
ソニア
男同士だろう)
ソニア
きっと間違っている‥)
ガタンッ
ソニア
音のした方を見ると
勢い良く開かれた扉の外から 知り合いの男が
血相を変えて走り込んできた
ソニア
ソニア
カツン‥
カツン‥
冷え冷えとした 地下牢に足音が響く
灰色の鉄格子の向こうで 俯いているその姿を
とても信じることが出来ない
ソニア
サン
サン
ソニア
お前は一体
ソニア
サン
サン
ソニア
サン
無かったんだけどな
ソニア
ソニア
サン
サン
ソニアがどれだけ大変か
知ってるんだよ
サン
‥そばに居たから
ソニア
サン
その努力が報われてないのも
知ってる
サン
俺たちの生活を守って
くれてるのはソニアなのに
サン
見下されたり‥
サン
サン
‥そういう事が無いように
したかったんだよ
ソニア
サン
サン
また同じことが
起こらないように
サン
しないように
サン
受けないように‥
サン
確実に排除しようって
思ったんだ
ソニア
お前は‥
サン
サン
懲らしめて回ったよ‥
サン
サン
まだ生きてたんだ
サン
許してくれなんて
サン
命令する気なんだよ
サン
サン
俺に指図していいのは
ソニアだけだ
ソニア
サン
サン
ソニア
ソニア
ソニア
あるのか?)
ソニア
やってしまったのか?)
ソニア
ソニア
大切なものを歪めて
しまっていたのか)
ソニア
ソニア
サン)
サン
ソニア
お前は
ソニア
俺の息子だ
サン
ソニア
その気持ちは変わらない
ソニア
歪めてしまったなら
生涯をかけて償おう
サン
違うよ
サン
ソニア
ソニア
気付けなかったんだな
ソニア
サン
なんて
サン
サン
サン
父親なんて思ったこと
ないし
サン
サン
過ちなんて
そんなの
ソニア
俺のせいだ
ソニア
ソニア
ソニア
安心しろ
サン
殺人未遂という 罪を背負いながらも
精神疾患が認められ また犯人として 公表されなかったため
サンは カウンセリングを受けながら 徐々に《復帰》していった
サン
サン
結婚?
ソニア
どうだ?
サン
ミネルカは良い娘だし
ありがたいけど
サン
ソニア
ソニア
立派に社会復帰を果たした
ソニア
良い夫になるよ
サン
サン
サン
《セカイ》は
サン
ピタリと動かなくなったな
ソニア
数年前にサンが逮捕されて 以来‥《セカイ》の 管理は疎かになっていたが
《ポータル》が開くことは なかった
ソニア
作動できないのか
ただ地球の環境が整ってない
のかは知らないが
ソニア
どっちでもいいさ
サン
ソニア
《セカイ》は サンと本当の意味での 家族になるために必要だった
‥そう思えばいい
カタッ…
ソニア
ソニア‥
ソニア
好き..
愛してるよ
ソニア
ソニア
ソニア
もう‥
わかってるよ
ソニアも本当は
俺が 欲しいんでしょ?
ソニア
ソニア
ねぇ 俺に触れてよ
貴方にキスした あの日から
ずっと見てるの 知ってるんだからね
ソニア
俺は
ソニア
愛してるよ
ソニアも 同じでしょ?
ほら 来なよ
ソニア
ソニア
ははっ‥
やっぱり そうだよな
愛してるよ ソニア‥
ソニア
ソニア
夢‥か‥
ソニア
だな
サンに迫られて以来 毎晩のように見る夢
毎回毎回 同じ内容で
最後は決まって 俺の方から
ソニア
ソニア
こんなの
ソニア
ソニア
社会復帰したというのに)
ソニア
このザマだ)
ソニア
あの細い首筋に 噛み付いたなら
一体 どんな顔を するだろう
ソニア
ソニア
考えているんだ)
ソニア
早く)
ソニア
俺の手を離れてくれ)
ソニア
保っていられるうちに‥)
ソニア
サン
ソニア
サン
変じゃない?
ソニア
サン
ってそれだけ〜?
サン
ソニア
ソニア
何も無いよ
サン
ソニア
サン
ちゃんと言いたいから
ソニア
ソニア
サン
本当にありがとう
サン
俺が何もしても
サン
救い続けてくれたよね
サン
ソニア
サン
サン
最高の父親だよ
ソニア
どうして
その言葉で ‥胸が痛むんだ
ソニア
‥自分では呼び続けておいて)
ソニア
ソニア
サン
ソニア
いや
ソニア
カタ____
サン
ソニア
その時《セカイ》が 一際大きく揺れたかと思うと
人間が1人通れるほどの 《穴》が 瓶の口から投影された
サン
ソニア
まさかだ)
ソニア
サン
サン
ソニア
ソニア
不安定な状態で出現して
ソニア
持続するか怪しい
ソニア
ちゃんと地球に飛ばされる
かもわからない
ソニア
下すのは
危ない‥
サン
それこそ
サン
分からないなら
サン
ないんじゃないの?
ソニア
ソニア
タッ
サン
サン
俺は《セカイ》に歩み寄り
《ポータル》に 片足を踏み入れた
ソニア
ソニア
ひとつ謝らなければ
サン
ソニア‥
サン
一人で行くつもり?
ソニア
ソニア
誰よりも望んでいると同時に
ソニア
幸せになる姿を見るのは
耐えられない
サン
ソニア
ソニア
ソニア
ソニア
ソニア
サン
ソニア
ソニア
お前の気持ちを知るより
ずっと前から
ソニア
お前が欲しかったんだ
サン
だろ‥?
サン
そんな‥
サン
勝手だ
サン
サン
病気とか
サン
扱ったくせに
ソニア
きっと
ソニア
持っていたことに
罪悪感があったから
ソニア
知らず知らずのうちに
お前を歪めてしまったんだって
ソニア
思ったんだよ
サン
ソニア
済むような事ではないのは
ソニア
ソニア
ソニア
サン
教えてくれる?
ソニア
サン
サン
《息子》って意味
だったんだよな
ソニア
サン
サン
ソニア
サン
ソニア
ソニア
ソニア
俺の人生を
照らし続けてくれた
ソニア
なんて
ソニア
ソニア
お前の存在だ
サン
サン
俺は‥
ソニア
《ポータル》に踏み出した足を 見やって目を伏せる
ソニア
消える事にする
ソニア
ソニア
サン
ソニア
宇宙の果てでも
ソニア
ソニア
ソニア
サン
サン
サン
サンが言い終えるより 先に
俺は
あれから
どのくらいの 歳月が経っただろう?
結局あの装置は 正常に作動したようで
ソニア
ソニア
信じられなかったほど)
ソニア
荒れ果てている)
予想した通り 焼き尽くされ 不毛となった大地
食糧を探してなんとか 食いつないでいるが
今後を考えると どうにか 再生させなければならない‥
ソニア
この辺りで)
ソニア
照りつけるような太陽の元
拾い集めた植物の種を 植えようと 地面を見やった時
ソニア
ソニア
小さな‥芽が出ていた
たった一つではあるが しっかりと太陽に向かって 背を伸ばしている
ソニア
つい最近植えたばかり のようで
ソニア
ソニア
咄嗟に辺りを見回す
誰の気配もしない
塵の交じった風が 吹きすさぶ荒野で
ただ1人 立っているのは俺だけだ
ソニア
ソニア
『サンが俺の後を 追ったとしたら__』
ソニア
一人で生きていたとしたら)
ソニア
希望的観測)
ソニア
ずっと可能性は考えていた)
ソニア
もしかしたら本当に‥)
考えれば考えるほど
辺りは静けさを増して
孤独が のしかかってくる
ソニア
ソニア
芽が出ていただけで
ソニア
ソニア
ソニア
自然に再生に向かっている
だけかもしれないのに
ソニア
ソニア
願ってしまう)
ソニア
ソニア
絶望と孤独を謳う この大地で
たった一つの希望に 縋りながら
ソニア
この地を離れて
しまったのか?)
ソニア
これを見守った方がいい)
ソニア
それでも
お前を探し求めて
追い続ける
それが俺の
贖罪 なのだから
fin