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銀色の月光が、街の石畳を無慈悲に照らし出す
太陽という重石を失った世界で 月の引力は人の理性を容易く引き剥がした
広場のあちこちで、人々が頭を抱え蹲る
「月光中毒」
脳裏に焼き付く銀の残像が 恐怖と破壊衝動を増幅させていく
ある者は意味のなさない言葉を叫び あるものは自分の爪で自らの肌を
その狂気の波が、もっと濃く もっと暗い場所に集まっていく
そこに立つのは、夜舞 皐月
皐月は両腕を広げ、街に充満する「毒」を その身に吸い寄せていた。
皐月
皐月
皐月の白い喉が、苦痛に大きく波打つ
彼女の役割は「器」
人々の狂気を一時的に肩代わりし その精神を安寧へと導く調律師
だが、それは皐月自身の魂を 他人の濁った悪意で塗り潰す作業に他ならない
皐月の瞳から、少しずつ生気が失われていく
月の光を吸いすぎたその瞳は 人としての温度を失い、冷たい銀色に染まっていた
星那
星那
傍らにいた星那が、震える声でその名を呼ぶ
皐月の指先は、既に真っ黒に変色していた
吸い取った狂気が、実態を持った「毒」として 皐月の身体を蝕んでいるのだ
このままでは、彼女自身が月の光に焼き切られ 内側から壊れてしまう
皐月
皐月
皐月の声は掠れ、焦点が定まらない
皐月は自分の存在を削り、街の静寂を買っていた
星那にとって、その姿はあまりに尊く そしてあまりに痛ましかった
星那
星那
星那
星那
星那は決意し、自分の左手を見つめた
肘の辺りまで、すでに背景に透けて見える
「透明化」
それが星那の寿命 星になるためのカウントダウン
その寿命を「削る」ことで 星那は唯一の対抗手段を講じることができる
星那は、毒に侵され冷えきった皐月の手を 強く握りしめた
皐月
皐月
皐月
星那
星那
星那がより強く手を握りしめた瞬間
彼女の透き通った指先から 淡く、けれど力強い光が溢れ出した
それは月光のような冷たさではなく かつて失われた太陽の欠片を思わせる 暖かな浄化の光
その光が皐月の腕に伝わり 皐月の中に溜まった黒い毒を 一粒ずつ弾けさせて消していく
皐月
皐月の表情から、苦悶の色が消える
狂気という泥沼に沈んでいた意識が 星那の放つ光の道標によって
こちら側へと引き戻されていく
けれど、その代償は残酷だった
光を放てば放つほど、星那の腕はより深く より広範囲にわたって「透明」へと変わっていく
服の袖が虚空に浮いているように見えるほど 星那の存在は希薄になっていった
皐月
皐月
星那
皐月
皐月
星那
星那
星那は微笑む
星那にとって皐月は、この暗い宇宙で唯一 自分を「見ている」と確信させてくれる 神様だった
その神様が狂うくらいなら、自分は喜んで光る石になり 皐月の足元を照らし続けたい
星那
星那
星那
星那は透き通った唇で囁いた
それは、終わらない夜を生きる 二人だけに許された
歪な愛の誓いだった