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#ネタ系
ひた、ひた、ひた……。
わざと足音を立てて近付いてくる“それ”に気付かれないよう、永遠達は必死に口元を手で覆っていた。
降りしきる雨音が、やけに耳元で響き渡る。
湿った草の匂いが鼻をつき、思わず顔を歪めた。
少しでも存在を消したくて、ぎゅっと目を瞑って耐えているのだから、聴覚や嗅覚が過敏になるのも無理はなかった。
5分。10分。1秒1秒が、妙に長く感じる。
そうやって建物の影に隠れてから、何分程経っただろうか。
阿山永遠
凩天
気が付けば“それ”の気配は無くなっていて、辺りにはざあざあ唸る雨音だけが残されていた。
建物の影から顔半分を覗かせ、 軽く辺りを見回す。
__うん、大丈夫。 見える所には居ない……筈。
ほっと息を吐くのも束の間、永遠は思い出したかのように、慌てて二人の友人へと向き直る。
阿山永遠
日向アリス
凩天
日向アリスと凩天。数少ない永遠の友人だ。
二人の安全確認が済んだところで、永遠はさあどうしたものか、と溜め息を吐く。
先程、唐突に襲ってきた“あれ”は__永遠には、同じ人間だとは到底思えなかった。
カサついた肌に、 あちこち跳ねたボロボロの髪の毛。
剥き出しの歯は、泥でも口に含んだかのように汚れていた。
決定的だったのは爪だ。何年間切らなければあそこまで長くなるのか。
まるで魔女のように伸び切った爪は、明確に悪意を持って振り下ろされた。
獣だ、と思った。知性もない、ただ本能のまま行動する__獣。
間一髪で避けたが、もしもあの爪が肌に当たっていればどうなっていたのか……想像するだけで身の毛がよだつ。
阿山永遠
いつまたここにあいつが来るか分からない。 あれが完全に消えたと確証が持てるまでは、警戒を解かない方が良さそうだ。
日向アリス
凩天
阿山永遠
今の状況がまともではない事は、永遠も薄々察していた。
午後7時。雨のせいで空気が淀んでいて、外はぽっかりと闇に沈んでいる。
余程の事が無ければ、こんな状況で外出する馬鹿は居ない。当たり前だ。
ただ__先程から車が一台も見かけない事に、強い違和感を覚える。
雨が酷いとはいえ、仕事帰りのサラリーマンなど、車を使って帰宅する人はいくらでもいる筈だ。
そして、時折誰かの悲鳴らしき声も聞こえる。
大方、建物の軋む音が悲鳴のようなものに聞こえているだけだろうが__だからと言って、永遠の恐怖が晴れる訳ではない。
何とも言い表せない不気味さが、永遠達の心を徐々に重く沈めていった。
しっかりしなさい、阿山永遠。 桃李先輩や恒星先輩のように、きちんと後輩達を守り抜くのでしょう?
自分自身に鞭を打ち、震える腕を抑え付ける。
阿山永遠
阿山永遠
永遠の提案に、 アリスがおずおずと手を挙げる。
日向アリス
日向アリス
上目遣いで永遠を見上げるアリスの瞳には不安の色が滲んでいて、それにつられ、永遠も「う」と言葉を詰まらせた。
アリスとは数ヶ月前に知り合った。
アリスの他にも、天や恒星、桃李__ 偶然廃校で出会ってから、何の縁か、今日この日まで関係が続いている。
関わった期間はさほど長くはないとは言え、毎日のように放課後に集まっていれば、大体の人柄は分かる。
アリスは何事にも消極的で、何故だか、相手の顔色を伺う癖があった。
自分の言動で誰かを傷付けることを酷く恐れているようで、出会ったばかりの頃は、こんな風に自分から発言することなんてまあ無かった。
そんなアリスが、今。異常事態とは言え、自ら手を挙げて意見を主張した。
それが永遠には堪らなく愛おしく、胸の奥にじんわりとした温かさが広がる。
ただ、今はそんなことを思っている場合ではない。浮かんだ感情を慌ててかき消す。
アリスの勘は当たる。 それも、悪い予感は特に。
阿山永遠
阿山永遠
凩天
天の言葉も聞かずに、永遠は鞄から二つの折り畳み傘を取り出し、アリスと天に押し付けるようにして渡す。
凩天
日向アリス
日向アリス
アリスにぐいぐいと腕を引かれ、傘の下にすっぽりと収まる。
お世辞にも大きいとは言えない傘を二人で使う事が出来るのは、永遠もアリスも小柄だからだろう。
化け物に見つかる事を恐れ、極力足音を立てないよう身を縮めて移動する。
映画に出てくるスパイみたいだ、と、こんな状況にも関わらず目を輝かせている天に、アリスは「ばか」と呆れた視線を向けていた。
雨音は止まないどころか、 勢いを増すばかりだ。
一秒でも早く家に帰りたくて、どうにか近道出来ないかと暫く辺りを彷徨った。
阿山永遠
前方の人影が視界に入り、思わず声を漏らす。
女子が二人、男性が一人。 全員見知った人間だ。
阿山永遠
振りしきる雨の音に負けないよう声を張る。
街灯の下、振り向いた三人の顔はやはり見覚えがあり、永遠はほっと胸をなで下ろした。
張り詰めていた糸が切れる。ようやく知り合いに会えた。
日向アリス
凩天
アリスと天も気が付いたようで、ぱちゃぱちゃと足音を立てながら駆け寄った、その瞬間。
朗らかな笑みを浮かべていた太陽の顔つきが変わり、シィ、と口元に指を当てた。
「静かに」を意味するポーズのまま、数メートル先を睨み付ける。つられて永遠も視線を向ければ、暗がりで人らしき影が動いていた。
影だけでは性別や年齢が判断できない。
ただ一つ分かるのは、あの影が先程永遠達を襲った人もどきと同じような存在だと言うことだ。
首の据わっていない赤子のように頭をガクガクと揺らしながら、乱暴に地面を踏み付ける。まだ永遠達には気が付いていない。
楠山希李菜
山田ランネ
足音を立てないようジリジリと後ろに下がりながら、希李菜とランネの会話を耳で聞く。
永遠を襲ったものといい、家に忍び込むものといい、やはり__いるのだ。化け物が。
永遠達が住むこの町に、何か得体の知らないものが流れ込んでいる。
いや、得体が知れないのはどちらだろう?
自分が狂っていないと本気で言えるのか。 言えたとしても、それを証明できる何かはあるのか。
“あれ”が異常なのか、それとも自分達が異常なのか。今の永遠に知る由はない。
為す術もなく俯いた。せめて夢であれ、と。
夢ではないことは、雨に打ち付けられた肌の痛みが証明している。
やがて人の影が見えなくなり、辺りに雨の音だけが残される。
丹羽太陽
凩天
それまで黙っていた太陽が口を開く。
丹羽太陽__永遠の友人の丹羽恒星の兄だ。 恒星の家にお邪魔した時、数度話したことがある。
彼の性格を一言で表すと、とにかく喧しい男だった。
特徴的なのは何と言っても声だ。
鼓膜を震わす大音声。 通常時ですら声の大きい彼の声は、例えるならば近所で行われている工事現場。
そんな彼に付いたあだ名は“ショベルカーサンシャイン”らしい。
予備の傘を何本も持っていたらしく、彼から傘を手渡されアリスと離れる。
阿山永遠
阿山永遠
阿山永遠
山田ランネ
凩天
窓ガラスを割ってまで侵入されるのなら、屋内に居ても安全だとは言えない。
家に居た希李菜達がここまで逃げてきていることが何よりの証拠だ。
かと言って、この雨の中いつまでも彷徨っているわけにもいかない。
雨で全身が濡れている中、長時間冷たい風にさらされては風邪を引いてしまう。
丹羽太陽
日向アリス
凩天
楠山希李菜
楠山希李菜
山田ランネ
山田ランネ
阿山永遠
丹羽太陽
全員分の答えを聞いた太陽が考え込む。
永遠は、 訳あって親戚の家に身を寄せている。
叔母は永遠に対しても優しく、度々声をかけてくれるが、従姉妹はそんな永遠を疎ましく思っていた。
話しかけても無視をする。 足を引っ掛けて転ばせる……そんな陰湿な嫌がらせを繰り返す従姉妹のことを、永遠の方もまた、好ましく思っていなかった。
それ故に、今家に従姉妹がいるのかは永遠には分からない。今日は友人の家に泊まっている可能性だって十分にある。
しかし、もしも家に従姉妹が居たら。また嫌がらせをされるのは目に見えている。
なんとなく家に帰りたくなくて、永遠は咄嗟に嘘を吐いた。と言うより、はぐらかした。
丹羽太陽
丹羽太陽
阿山永遠
丹羽太陽
阿山永遠
出かかった言葉は、 雨音と太陽の声にかき消された。
しょ、正気? この人数を、全員家に上げるつもり? 親に連絡もせず、一人で勝手に決めちゃってもいいの?
いくら見過ごせないとは言え、 太陽の寛容さ__無鉄砲さとでも言うべきか__には驚かされる。
永遠だったら、危険だとは思いつつも自分の家に上げることは出来なかっただろう。
優柔不断で利己的……永遠の自己評価は、そんなものだった。
丹羽太陽
楠山希李菜
楠山希李菜
山田ランネ
丹羽太陽
雨。夜。突然永遠達に襲いかかった人もどき。
こんなにも奇妙な状況なのに、 どうしてか空気は軽い。
恐らく丹羽太陽の影響だろう。いつ如何なる時も辺りを照らす、その名の通り、“太陽”のような存在。
いいなあ、丹羽さんは。優しくて、眩しくて、暖かくて。それでいて、誰かの為に尽くせる強さを持っている。
__永遠は、そんな 強い人間にはなれない。
地面に落ちた視線が、落ち着きなく辺りを彷徨った。
視界も悪い。きちんと前を向いて歩かなければ、誰かにぶつかってしまうかもしれない。
それでも、顔を上げることは出来なかった。唐突に生まれた劣等感のせいで、鼻がツンと痛くなる。
こんな様子では駄目だ。太陽の次に年齢が高いのは永遠であり、後輩であり友人のアリス達を守るべきなのも永遠なのだ。
慌てて顔を上げ__ そして、絶句した。
阿山永遠
居ない。太陽が、ランネが、希李菜が、アリスが__天が、居ない。
“置いて行かれてしまった”と理解するのに数秒もかからなかった。
馬鹿だ。到底笑える状況では無いと言うのに、引きつった笑いが喉から漏れる。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
阿山永遠
一人ぼっちの可哀想な少女の呻きは、雨に飲まれて消えていった。
コメント
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中人)じっくりじっくり曲聞きながら読ませて頂いたよ……地の文俺は好きだよ状況の恐怖と心が伝わってきて…… 太陽さんがパパに思えてきた。あんまりにも保護者。元気な保護者。……パパ……パパ…… 雨の日嫌いなのにバケモン居るとこで一人ぼっちになっちゃったね…… このストーリー凄い好きだな、マイリストします。よろしいですね?
永遠さんが恒星さんと桃李さんの背中を見ているって感じがしてとても好きです…めちゃくちゃ先輩してる 見知った顔が居ると分かった時の安心感 しかも大人だから安心感が段違いですね… ええええええ!?!?最後!!最後!!
アリスに母性が刺激される永遠ちゃんに萌えました 太陽の安心感すごい やっぱすごくない やっぱすごいかも… 一人ぼっちの「可哀想な」少女… 雪とイチャコラすんなリオンめ