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藤塚 太陽
64
48
#優勝
#バドミントン部
K
K
20XX年、6月。湿度を含んだ蒸し暑い体育館の中、湿湿と重い空気が肌にまとわりついていた。 俺、亘光魔(わたるこうま)は、中学最後の中体連、男子ダブルス県大会準決勝のコートに立っていた。隣にいるのは、中学3年間ともに汗を流してきたペアの男だ。 コートの向こうから放たれたシャトルが、放物線を描いてこちらのコート深くへと落ちてくる。
モブ
モブ
隣からの叫び声。俺の身体は直感的に反応していた。167cmの小柄な体躯を極限までしならせ、床を蹴る。空中で体勢を整え、バックコートの頂点でシャトルを捕らえた。右腕を一閃する。完璧な打点、完璧なフォーム。魂を込めたジャンピングスマッシュだった。 ――パンッ! 心地よい打球音が体育館に響き渡る。だが、コートの反対側にいた相手の後衛は、その軌道を完全に読んでいた。余裕を持って踏み込み、鋭い低軌道のドライブで俺たちのレシーブの死角――前衛と後衛の間、絶妙な「お見合い」の空間へと正確に差し込んできたのだ。
亘
声にならなかった。 俺はまだ着地の体勢から体勢を立て直せていない。本来なら前衛のペアが反応して叩くべき球だった。しかし、相手の強烈なプレッシャーに呑まれていたペアの足は完全にすくみ、シャトルは誰のラケットにも触れられることなく、木製の床へ無情に滑り落ちた。 キュッ、と虚しい音が響く。
モブ
審判の声が、まるで遠い世界のことのように耳に届いた。
モブ
膝に手をつき、肩で息をしながら謝ってくるペア。だが、俺はそれを責めることすらできなかった。胸を刺したのは、相棒への怒りではない。圧倒的な「自分の無力さ」だった。 俺がもっと角度のある重い球を打てていれば。俺が身長180cmを超えるようなパワーを持っていれば。俺が前衛で完全に相手の選択肢を潰し切れていれば――。結局、小ささを補うために磨いてきたはずの技術もスピードも、土壇場の圧倒的な体格差とパワーの前には無力だったのだ。 ネットを挟んで握手を交わす。相手の誇らしげな笑顔と、悔しさに震える自分の拳。 ベンチに戻り、ユニフォームの裾で顔を覆った。汗と混ざったしょっぱい涙が目元を濡らす。
亘
全中(全国中学校体育大会)への道が断たれたその日、俺の心の中で何かがパチンと音を立てて折れた。シャトルを追いかける情熱の火が、冷たい挫折の雨に打たれて消えていくのを感じていた。 コートの隅でラケットケースを強く握りしめ、溢れ出る悔しさを噛み殺す。このときの俺はまだ知らなかった。 高校で出会う、あの177cmの言葉足らずで不器用な男――庵翔(いおりしょう)の存在を。 そして、彼と共に「わたしょうペア」「灰庭埼の最強」と呼ばれることになる未来を。 ただひたすらに暗い敗北の底で、俺の中学バドミントンは静かに幕を閉じた。
そして、現在
秋原
バドミントン部員
そして、今。俺、亘光魔は高校に入ってからも、こうしてラケットを握り続けている。 進学した先は、県内でも屈指の強豪として知られる灰庭埼(はいばさき)高校。 あの中体連の暗い敗北から1年。一度は折れかけた心だったが、コートに落ちるシャトルの音を聞くたび、胸の奥でぶり返すあの悔しさを捨て去ることはできなかった。強くなりたい。あの広いコートで、体格の壁も、パワーの差もすべて叩き潰せる圧倒的な強さが欲しい――その一心で、俺はこの灰庭埼の門を叩いたのだ。 半面シングルス。コートを縦半分に区切り、限られた狭いエリアの中で1対1のラリーを繰り広げる練習メニューだ。 通常のシングルスよりもコントロールの精度と、シャトルへの反応速度が極限まで求められる。ミスをすれば一瞬でラインを割る。誤魔化しの効かない、まさに誤魔化しようのない肉弾戦。
亘
相手が放った鋭いカットショットに対し、俺は167cmの低い重心を生かして床すれすれまで沈み込む。ラケットの面を絶妙な角度で寝かせ、白帯かすめるギリギリの高さでネット際へ返した。完璧なヘアピン。相手の足がピタリと止まる。
亘
汗が目に入って沁みるのをユニフォームの袖でぐっと拭い、息を整える。 身体は悲鳴を上げているが、中学の頃のような「諦め」の感情はどこにもない。ここには、泥臭くシャトルを追いかける俺をあざ笑う者など一人もいなかった。誰もが必死で、誰もが勝利に飢えている。
庵
庵
後ろから、低く落ち着いた声が降ってきた。 振り返ると、大型扇風機の風を浴びながら汗を拭っている男が立っていた。 177cmの長身。すらりと伸びた手足に、どこか冷めたような、だが奥底に底知れない熱を秘めた瞳。 同じ1年に入部してきた、庵翔(いおりしょう)だ。
亘
亘
亘
庵
庵
淡々と事実だけを告げるような庵の言い草に、カッと頭に血が上がる
亘
亘
庵
庵
ラケットを持ち直し、コートへ向かって歩き出す庵の背中を見上げる。デカい。後ろに立たれたら、まるで壁のようにコートの奥を塞いでしまうほどの圧迫感だ。 俺の細やかなコントロールとスピード。庵の圧倒的な高さとパワー。 この時の俺たちはまだ、お互いを意識しすぎるあまり反発し合う、ただの「生意気な1年同士」に過ぎなかった。 だが、閉ざされた体育館の熱気の中、激しく打ち合い、互いの限界を削り合うこの時間の積み重ねが――やがて「灰庭埼の最強」「わたしょうペア」と呼ばれる怪物ペアを誕生させることになるのを、俺たち自身もまだ、全く気づいていなかった。
コメント
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Kさん、第2話、読ませていただきました! 中体連の敗北シーン、すごく胸に刺さりました……「自分の無力さ」と向き合う光魔くんの心情が、シャトルの描写と相まってリアルで。167cmという体格の壁を感じながらも、灰庭埼で再びラケットを握るところにグッときました。 庵くんとの「浮いてる」の掛け合い、既にふたりの空気感ができていて、これからの関係性が気になります! 「わたしょうペア」の誕生、続きを楽しみにしていますね🌷