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こんかいもよかったよ!!
はあん
楪 → ゆずりは 梓 → あず
朝起きて いちばんに目に入るのは
柔く差し込む陽光 ? 鳴り始めた目覚まし時計 ?
重ねられた布団 ? 充電し忘れたスマートフォン ?
… ううん 、 僕の目に映るのは
低血圧で 、 死んでしまいそうな君の顔 。
正確には ” 死んでしまう予定の ” 君の顔 。
どうせ死ぬのに 。
毎日毎日 、 同じことの繰り返し 。
どうせ 、 死ぬのに 。
それだけは どうしても口に出せなかった 。
君の方が確実に僕よりも酷くて
君よりも僕の方が長生きしてしまうから 。
今でも鮮明に 覚えてる 。
今でも嫌なくらい綺麗に思い出すんだよ 。
きもちわるいくらいに 、 汚さを省いた情景で 。
待合室で点滴を 垂れ流す君 。
慌てる看護師 、 取り押さえるガタイのいい医者 。
叫ぶでもなく
呆れるでもなく 、 喜ぶでもなく 。
ただ 、 寂しそうに聞こえた 。
前髪で隠れて見えなかった その奥の瞳は
どんな色だったんだろう 。
静寂を切り裂く 僕の小さな声 。
ソファから立ち上がってみても
君の背丈は 僕より頭ひとつ分大きかった 。
たしかあの時の君の一人称は ” ユズ ” だったね 。
抜けていない子供っぽさが 可愛らしかったのを良く覚えてる 。
健康な男子高校生なら もっと 大人っぽい会話をするべきなのだろうか 。
君の患う病気も 、 臓器の色も 、 腫瘍も
全部知らないけど 、 僕は
多分 、 君に死んでほしくなかった 。
ただ 、 生きる意味を 見つけられそうな気がした 。
微かに頷いて 揺れた前髪の先には
ほんの少しだけ弧を描いた 君の顔があった 。
薄く味付けされた 鯵の煮付け 、 味のないお粥
少し酸味を感じる 菜の花の漬物に 具のない味噌汁 。
いつしか 全てを口に運ぶのを辞めた 。
嘘ばかり並べてみて
点滴だけで栄養を補って
そうすれば 死ねると思っていた 。
こんな苦しい世の中から
逃げられると思っていた 。
でも どうやら 、
君は僕のことを死なせたくないらしい 。
僕は君と一緒に死にたいのに
ひとりで生きていきたくないのに
君は 僕に生きて欲しいらしい 。
自分の夢を 、 僕に託したいらしい 。
君は自分の手元を見つめながら
ぽつぽつと言葉を紡いでゆく 。
僕が自分の名前を嫌いだと言ったその日から
君は僕のことを「 お前 」と呼んだ 。
僕が君の名前を呼んだその日から
柔く微笑むようになった 、 みたいな幻想 。
ふわ 、 と 君の前髪が靡いた 。
潤む君の瞳が見えた 。
「 嘘じゃない 」
自分にそう言い聞かせながら 、 君の言葉を待つ 。
紛れもない愛を言葉にするのは難しくて
君の言葉を 半分オウム返しするのがやっとで
だから分からなかった 。
いつも控えめな君が
急に伝えてきた理由が 、 わけが 、 意味が
いつも一緒にいた君の 、
すべてが 。
いい事が続きすぎたんだ 。
だから
だから 、
仕方の無い事なんだ 。
僕は死ぬんだって 、 どうして 忘れてたんだろう 。
同じように 、 君が死ぬことも 。
だけど
せめてどうか
僕の中の君は
きっと「 昔好きだった誰か 」になってしまってると
「 」
学校に通えていたら
好きな人が死ななかったら
大好きな香りの布団に包まれてたら
ただ 友達と笑い会えていたら
ねぇ 、 楪 。
どうして 君に僕の名前が嫌いだと伝えたと思う ?
それはね
君が 僕の名前を呼ぶ声が
大好きな 、 あの人に似てたから 。