麻里奈
(外にいるときに限って雨が降るなぁ…)
麻里奈
(しかも今日はせっかくの休日なのに…)
麻里奈
(しかたない、傘買って帰ろう…)
近くのコンビニへ小走りで向かい、ビニール傘を購入した。
麻里奈
最後の一本だった…危ない危ない
コンビニから出ると、さっきまではいなかったびしょ濡れの青年が雨宿りをしていることに気づいた。
麻里奈
(うっわ、私よりずぶ濡れ)
麻里奈
(雨弱まるの待ってるのかな…でもそんな格好じゃ風邪引いちゃう…)
びしょ濡れの青年は、只々憂鬱そうに外を眺めてはため息をついていた。
麻里奈
(…なんか、放っておけない)
青年
…なにジッと見てんの?
麻里奈
えっ
青年
もしかしておねーさん、俺のこと水も滴るいい男って思ったとか??
麻里奈
な、そんな訳ない!
青年
あははっ、なーんだそうじゃないんだ
話し始めたかと思えば、思いの外明るくて、拍子抜けしてしまった。
麻里奈
ただ…ちょっと雨が強すぎて、もう少し弱まってから帰ろうかなって思っただけ
青年
ふーん、まぁ確かにおねーさんの言うとおりだね
麻里奈
そ、ゲリラ豪雨だしいつかは弱くなるでしょ
青年
冷静だな〜
麻里奈
…君は、どうして
青年
ん?
麻里奈
ここで雨宿りしてるの?
青年
…
青年
そりゃ、突然強い雨降ってきたからに決まってるじゃん
質問を投げかけたとき、彼は一瞬顔を曇らせたがすぐにパッと明るくし、また元の口調で話し始めた。
麻里奈
そっか、そりゃそうだよね
青年
おねーさん、変な人って言われない?
麻里奈
え?
青年
いやだってさ、こんなずぶ濡れの男に話しかける奴なんてそうそういないでしょ
麻里奈
雨宿りするなら一人より、二人の方が楽しくない?
青年
…あはは、おねーさんには敵わない気がする
麻里奈
え?
青年
なんか優しさがにじみ出てるって言うか
青年
…大人の余裕、ってやつ?
麻里奈
まあ働いてるしね
青年
え、そうなの?
青年
俺より先輩なんだ…
麻里奈
君は学生?
青年
そ、すぐそこの大学3年
麻里奈
すぐそこって…N大?
麻里奈
へぇ、勉強頑張ったんだね!
青年
褒めてくれるんだ?嬉しい
麻里奈
そりゃすごいでしょうよ
麻里奈
君が勉強を頑張って、入ったところなんだから
青年
…
青年
あ、雨、弱くなってきたね
麻里奈
はい、この傘あげる
青年
え?
麻里奈
これで家に帰りなよ
麻里奈
私、家近いしこれぐらいの雨なら濡れて帰っても平気だから
ほら、と私は彼に傘を差し出すも彼は受け取ろうとしなかった。
麻里奈
…?
青年
いや…その、
青年
気持ちは嬉しいんだけど
青年
俺、帰るとこ、ないから
麻里奈
(…また、だ)
彼と話しているとき、何度か目に光が入らない瞬間があった。
青年
あ、そうだ
麻里奈
ん?
青年
おねーさんの家、ここから近いんだっけ?
青年
ならさ、俺のこと今日から置いてみない?
麻里奈
は、はい?
青年
家事でもなんでもするからさ、ね?お願い。
麻里奈
いや、待ってそんな急に…
青年
このままだと俺、風邪ひいて死んじゃうかも
麻里奈
風邪で死にはしないと思うけど
青年
俺が死ぬほどしんどくなってもいいの?
麻里奈
そんな、今日会ったばっかの人に言われてもなぁ…
青年
うっ…
青年
…まぁ、でもそうだよな
青年
知らない人を家に置いてくれーなんておかしな話だし
青年
ごめんねおねーさん、おねーさんとならやっていけるかもって思ったけど
青年
おねーさんと話してると楽しかったからつい調子乗っちゃった
彼はそういうと以前より弱まった雨の中へと足を進めた。
青年
変なこと言って、ごめん
青年
でも、おねーさんと話せて楽しかったよ
麻里奈
…
麻里奈
(このままで、いいのだろうか)
青年
じゃ、変なこと言う男はここから立ち去るからさ、おねーさんも早く家に帰りなよ
麻里奈
(このまま放っておいていいのだろうか…)
しかし、彼の目は決して微笑んでなどいなかった。まるで…
麻里奈
(全部諦めてしまったかのような…)
青年
バイバイ
麻里奈
(放って…おけない!)
気づいたら私も雨の中へ飛び出して、彼の濡れた袖を掴んだ。
麻里奈
ね、君
麻里奈
家に、来なよ
青年
…え?
麻里奈
あっ…えっと、ちょうど最近仕事忙しくてさ
麻里奈
料理とか掃除とか、するのちょっと面倒だなって思ってたから
青年
…おねーさん、本気で言ってるの?
麻里奈
女に二言はありません!
青年
…あははっ、何それ
麻里奈
もう!来たいの?来たくないの?どっち?
青年
…おねーさんの家に、置かせてください
麻里奈
よし、そうと決まれば…
麻里奈
しばらくはうちが帰る場所、だね
青年
…
青年
おねーさん、変なの
麻里奈
変でもなんでもいいから!
麻里奈
とにかく、ここからすぐだから。ほら、傘入って!
彼のことが放っておけないと思った、ただそれだけだった。
青年
…ありがと、おねーさん
麻里奈
…やっと、笑った
青年
…は?
麻里奈
さっきまでうまく笑えてなかったよ
青年
…まじか
青年
おねーさんには色々バレてるのかも
麻里奈
かもね
麻里奈
なんたって大人だもの
青年
俺とちょっとしか変わらないのになぁ…
麻里奈
ねぇ、君…
青年
君、って呼ばないでよ
青年
俺のことはユイトって呼んでよ
麻里奈
ユイト…くん?
青年
そうそう
麻里奈
私は、若西麻里奈
青年
じゃあマリちゃんだ
麻里奈
さん、じゃなくて?
青年
だってその方が可愛いじゃん
麻里奈
大人舐めてたら痛い目にあうぞ〜
青年
おー、怖い怖い
麻里奈
うわ、馬鹿にされた…
青年
そう落ち込まないでよマリちゃん♪
こうして、私とユイトくんの奇妙な暮らしが始まろうとしていた。