幼児期健忘。
幼少期の記憶を忘れてしまう症状。
これは誰もが起こる症状で
起こらない人の方が少ない。
なのに私には、それが起こらなかった。
ジリリリリリリリリリリッ
ピッ
かなで
はぁ。
かなで
朝か。
毎日同じ朝。
毎日同じ目覚め。
小さい頃からずっとそう。
ずっと……。
2004年4月9日。0歳
暗い、狭い牢獄から
眩しくて、広いくて
知らない人が沢山いるところに
私は釈放された。
みんなマスクをしていて
私の後ろにいた2人は泣きながら抱き合っていた。
これから、明るい未来が始まるのかな。
そう思った矢先……。
2005年10月2日。1歳6ヶ月
母と父が喧嘩をした。
いつもの事、そう思って私はベットで目をつぶった。
けど、この日は違った。
母
こんな時間まで、どこで、何やってたの?
父
いいだろ、何やってたって。
母
はぁ。いっつもそうじゃない!
母
あなたは私が朝起きたらもう居ないし、夜遅くに帰ってくる。
母
この子の世話がどれだけ大変だかわかってるの?!
母
毎日朝から晩まで1人で、まだほとんど会話もできない子を相手にしてるのよ?
母
少しはあなたもこの子の世話をしてよ!
父
俺はお前が働かない分、3人分稼いでるんだ。
父
俺が働かなかったら食べ物も食えない。
父
家賃も電気代も電話代も、何も払えない。
父
生活が出来なくなるんだ。
父
家にいて、毎日ゴロゴロ子供と遊んでるお前が
父
偉そうな口を聞くんじゃない!
母
な……何よその言い方!
父
そんな偉そうなことを言うなら、その子を誰かに預けて
父
お前も働け。
母
ふざけないでよ!
父
お前こそ、ふざけるなよ!
母
もう、いいわ。
母
私は出ていく。
父
はぁ?
母
その子の世話。
母
よろしくね。
父
おい、ちょっと待てよ!
バタンッ
父
はぁ。
父
お前なんて産まれて来なければ良かったんだ。
父
この世の中に必要なかったんだよ。
父
だからお前は、死んで苦しむ(4んで9るしむ)、なんて縁起の悪い日に生まれてきたんだよ。
母は家を出て、父はほとんど家にいない。
だから家で1人。
話す相手もいない。もちろん心の内を明かす相手もいない。
私の人生は真っ暗だ。
2020年4月9日16歳。
かなで
おはよう。
父
自分でご飯、適当に食べろよ。
かなで
うん。
父
今日は入学式だからな。
遅刻するなよ。
遅刻するなよ。
かなで
うん……。
かなで
い、いってらっしゃ……
バタンッ
かなで
はぁ。