そして今日は お客様が少なくもうそろそろ店を閉めようかと片付けをしていたら ある男の人がお店に入ってきた。
冬弥
すみません、まだ……やってますか…?

凛月
あ、…はい!大丈夫ですよ。いらっしゃいませ。

男の人の涙なんて初めて見たから… 少し戸惑ったけれど ニコッと微笑んで私はカウンター席へと誘導した。
冬弥
っ…ごめんなさい…男の涙なんて見苦しいよね…。

凛月
いえ、大丈夫ですよ!

凛月
今日は幸いお客様が少ないので 落ち着くまでゆっくりしてください。お水、どうぞ。

冬弥
えへへ…ありがとう。

蕩けるような笑顔に 胸がきゅんっとしたけれど仕事に集中しなきゃ!と私は首を横に振りグラスを拭く。
何十分経っても 男の人の涙は止まらない。ボロボロと涙を流して 顔をクシャクシャにして泣いてる。
…泣いてる顔も美形だなぁ。こんな人初めて…見た気がする…。
凛月
あ、…あの…!

凛月
私でよければ話聞きますよ!

凛月
何も知らない赤の他人ですけど…話をすれば きっと楽になりますし。

凛月
私のことは 空気とかそんなふうに思ってもらって構わないので!

一方的にこういった私に 男の人は 目を丸くしたあとに 涙を拭いながらくすくすと肩を震わせて笑った。
冬弥
いいの?優しいね。ありがとう…。

男の人はそう述べた後に ぽつりぽつりと話し始めた。
冬弥
俺ね、彼女に振られたんだ。 確かに最近 彼女が素っ気ないのには気づいてたんだけど…

冬弥
まさか、浮気してるなんて思わなくて。

冬弥
学校終わりの帰りに たまたま駅で見ちゃったんだ。 彼女が 他の男と歩いてる所、でもそれなら男友達かな、って割り切れたんだけど。

冬弥
ホテルに入ってったから… 嗚呼、これは浮気だって。俺は捨てられたんだって思ったんだ。

凛月
そんな…

冬弥
でも、…俺も悪いってわかってるから。 彼女から告白してきたんだけど 俺が知らない子だったから 先ずはお互いを知ろう?って 彼女じゃなくて女友達、の感覚で接してたから。

冬弥
だから、きっと彼女が痺れ切らしたんだろうね。

でも、いいな。それほど好きな人だったって事だもんね。
凛月
その場面を見て…感情がコントロール出来ないくらいに 傷つく程彼女が好きだったんですね。

凛月
そんな恋愛 うらやましいですよ!私なんて 彼氏なんていた事ないし!

薫
凛月(りつき)ちゃんは年齢イコール彼氏いない歴だものね~?

凛月
か、薫(かおる)さん…!やめてくださいよ~!

冬弥
ふふっ、俺はいいと思うよ、それも。 本当に好きで結婚したいと思う相手と付き合うのが一番だもんね。

にこりと微笑んだ彼の印象は とても優しく…かっこいい。
こんな男の人…普通なら皆 放っとかないと思うんだけどなぁ。
薫
あら、いい男の子が来てるじゃない。サービスで1杯出してあげるわ~

凛月
薫さん!?裏の仕事は終わったんですか?って…サービスって、

薫
ええ。終わったわよ。それに、裏で話は聞いてたから、傷ついてる人にお金取るなんてこと あたしはしないわ。

薫
それに、ここに来たのも 何かの運命だものね。 こんな可愛い男の子…逃がすのが勿体ないわ…!

冬弥
逃がす…?あ…ありがとうございます、優しいんですね えっと…凛月ちゃん?と、薫さん。

凛月
薫さんは気にしないで下さい…。あと…そんなことないですよ。私は話を聞いただけなので。では、何を飲みますか?

冬弥
えっと…おすすめとかは…

薫
やっぱり、カクテルといえば定番はマティーニ。 でも カクテルの女王のマンハッタンもおすすめよ。

薫
女の子に人気なカクテルは アレキサンダー。甘めで飲みやすいわ。

凛月
アレキサンダーはブランデーに カカオと生クリームが入ってるんですよ。

冬弥
そうなんだ、…悩むなぁ。

凛月
私がオススメするのは ソルティ・ドッグです!さっぱりしてて お客様にも人気なんです!私もこれが一番好きと言っても過言じゃないですね、

冬弥
なら、それで…お願いします。

そのまま私は カクテルを作りながら男の人と薫さんと お店を閉めるまで話した。
話していくうちに男の人の涙は止まっていて その代わりずっと笑っていた。
冬弥
あ…もうこんな時間。遅くまでごめんなさい…!

薫
あらほんとね。大丈夫よ。あとは片付けするだけだもの。

薫
凛月ちゃんも今日は帰っていいわよ 片付けはあたしがやっておくわ!

凛月
いいえ、片付けはちゃんとして行きます、仕事だから…!

冬弥
凛月ちゃんはしっかりしてるね、俺も見習わなきゃ。

薫
ふふ、でも男の子は 少し弱いくらいでもいいと思うわよ?強いだけが 男じゃないものね。

冬弥
ありがとうございます、薫さん。では、俺はこれで失礼します。

冬弥
今日は本当にありがとう。凛月ちゃん。すごく助かった!

凛月
いいえ!大丈夫です。頑張ってくださいね!

凛月
あ…名前聞いてなかった…、
