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花火大会〜今は亡き君と〜

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花火大会〜今は亡き君と〜

1 - 花火大会〜今は亡き君と〜

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2021年08月09日

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夏休み

いつもなら絶対花音と遊びに行くけど

今年は行かない

花音はずっと私のそばにいるから

七菜

ね、花音…

1か月前

花音

うるさいーー!

七菜

びっっくりした何がうるさいの

七菜

花音のがよっぽどうるさいけど

花音

セミ!

花音

なんであんな
「夏だぜベイベー調子はどうだい?」みたいな感じで鳴いてんの?

七菜

そんな受け取り方してるの
多分花音だけだと思う…

花音

え?

七菜

なんでもない…

七菜

あ、そうだ

七菜

もうすぐ夏休みじゃん

花音

うん

花音

この世で1番蝉がうるさい時ね

七菜

セミ好きかよ

花音

は?

七菜

ごめんて

七菜

夏休みといえば?

花音

セミ

七菜

ちがうっしょ

七菜

花火大会でしょ!

花音

あーね!

花音

それはもう、はい

花音

普通に楽しみです

花音

セミの存在忘れるくらい

七菜

(ここまで来るとセミかわいそう)

七菜

今年も一緒に行こー!

花音

もちろん!

花音

今年も浴衣お揃いにしよ!

七菜

うん!

七菜

あーめっちゃ楽しみ!

七菜

夏休みまだかなー

花音

ほんと早く来てほしいー!

花音

七菜

花音

あ、あのさ

七菜

あ、やば

花音

え、何、どした?

七菜

いや
めっちゃしょーもないからいいよ

七菜

花音いって

花音

私もめっちゃしょーもないし

花音

ほんとにしょーもないし

花音

がちしょーもないから

花音

どうぞ

七菜

え?

七菜

塾間に合わないかもって
言おうとしただけ…ってやば!

七菜

がち間に合わね!

七菜

ごめん!バイバイ!

花音

あ、うん、ばいばーい

私は教室を全力疾走で出た

中に花音を1人残して

花音が言おうとしてたこと

それを聞かずに

私は…

花音はなんて言おうとしてたんだろう

あの日から眠れない私は

夜中にずっと考えてる

ベットの上に寝転がって

痛かっただろうなって泣きながら

聞いとけばよかったって

ねぇ花音なんて言おうとしてたの

ほんとにごめんね

いつもは一緒に帰ってるのに

その日はたまたま補習が入ってて

だから私が馬鹿じゃなかったら 一緒に帰れたのに

私のせいだ

私のせいで花音は…

あの日、私と別れたあと

花音は一人で帰った

いつも私と歩く道

いつもは何も起きなかった道

なのに

いつもはそうだったのに

花音は死んだ

通り魔だった

血まみれだった犯人はすぐ捕まった

花音を殺した理由は

「誰でもいいから殺したかった」

「たまたまそこを通った奴が いたから殺した」

精神異常だとかで、 普通の殺人より短い刑期で 出所するそうだ

ありえない

なんで善良な花音が死んで

人を殺したあいつは のうのうと生きてるの

ねぇ花音

花音なしじゃ私生きられない

私もそっち行く…

ベランダの窓を開けると

生ぬるい風が 私の髪とカーテンを揺らした

片足を窓枠にかけて目をつぶった時

どこからか声が聞こえた

▫️

………

▫️

…な…

▫️

なな………

▫️

やめて…

▫️

いるから……私…

▫️

ここに……

▫️

ななのそばに…ずっと……

▫️

だから…やめて……

七菜

だれっ

七菜

誰が喋ってんの!

七菜

いいじゃん死なせてよ

七菜

友達がいるからいいの!

泣きながら 窓から飛び出そうとしたけれど

何か見えない力に引っ張られて

それ以上は進めなかった

気づいたらベットの上に戻されていた

七菜

なんで……

七菜

私死ぬことも許されないの……?

七菜

かのん……

七菜

ごめんね…

七菜

お願いだからそっち行かせて…

▫️

だめだよ…

▫️

ななは私の分まで生きて

七菜

なんなの!

七菜

誰なの!

七菜

ふざけてるならやめて!

▫️

ふざけてない

▫️

花音だよ

▫️

置いてってごめんね、なな

七菜

花音…?

花音

うん

花音

花音だよ

七菜

ほんと…!?

七菜

えっ花音、死んだんじゃ

花音

死んだよー

花音

だけどあんた死のうとするから

花音

びっくりして

花音

輪廻転生の列抜けてきたわ笑

花音

もーお感謝してよね

花音

私生まれ変われないかもじゃん

七菜

えっごめ…

花音

やだじょーだんだってー

花音

んな事より元気だしてよ

花音

なならしくない

七菜

うん…花音がいるなら…!

花音はずっと私のそばに居てくれる

窓から飛び出そうとしたあの日から

朝でも夜でも私と一緒

七菜

ねぇ花音?

私の頭上で目をつぶっている 花音に向かって言う

花音

七菜

あれ、花音?おーい

花音

…あ、うん、なに?

七菜

どったの

七菜

霊にも考え事があるんですか

花音

え?ないない死んでるし笑

花音

で、なに?

七菜

そーならいーけど

七菜

でさ

七菜

もうすぐ花火大会じゃんー

七菜

一緒に行こーよ

花音

私他の人には見えないよー?

花音

いいのー?

七菜

いいよ花音と一緒ならなんでも

花音

うん分かった

花音

一緒に行こう

その声がなんだか 寂しそうに聞こえたのは

きっと私の気のせいだ

七菜

屋台いっぱいあるねー

花音

七菜

花音?

花音

あぁごめん

花音

なに?

七菜

花音大丈夫?

七菜

なんかあるの?

花音

大丈夫だから!

花音

てかあんま話しかけない方がいいよ

花音

あんた宙に向かって話してる
ヤバいやつだから

七菜

そっか

七菜

やば

さっきから なんかちらちら見られてたのは それだったのか

七菜

ここなら誰もいないし
花火も見られるね

七菜

ね、花音

花音

うんなんかごめんね

七菜

夜だとセミも鳴いてないしいいね

花音

ほんとだ笑

七菜

あはは、死んでもセミ嫌いなんだね

花音

やだよセミうるさいもん

そのときだった

ひゅるひゅるひゅる…と

か細い音がなった

そして

ドーーーーーン

と一発目が打ち上げられた

それは花火のスタートの合図

そこからは空に花畑が出来ていた

花音

ねぇ、なな

七菜

なぁに

お互いに前を向いて 花火を見ながら話す

花音の声がちょっと震えてる

夜空に咲く大輪を見ると

なぜだか私も泣きそうで

光る何かが零れないよう

必死に上を向いて花火を見ていた

花音

私さ、前、
輪廻転生の列から外れたって
言ってたじゃん

七菜

うん

花音

あれさー、なんか戻れないらしくて

七菜

えっ

驚きと絶望があとからやってきて

そうだよな そんなに上手くいくわけないよな

そう思いながら

ゆっくり花音を見た

花音は私を見ない

大きな音を立てて咲く花だけ

光る目で見つめていた

花音の横顔は強くて

でも少し寂しくて

向こうで大きい音が しているはずなのに

私たちの空間は静かだった

花音

だからね、もう戻れないの

七菜

ごめん…!私のせいで、

七菜

また、私のせいで…!

花音

違う

前だけを見て、強く花音が言った

花音

違うよ

七菜

違わない!私が2度も花音を殺した!

七菜

私が…!

花音

違う

花音

大丈夫

花音

帰る方法がひとつだけある

七菜

ほんと…?

花音

うん

花音

だけどその方法は
私は言っちゃいけない

花音

ヒントは生きてる時に沢山あった

花音

私、実は死ぬの知ってたんだよね

花音

最期に言おうとして、やめた

花音

親友巻き込みたくなかった

七菜

えっ

花音

この花火が終わるまで___

花音

それが私の残りの霊としての時間

花音

ななが頑張ってくれないと、私あとはもう魂さえ残らず無になっちゃう

花音

ごめんね身勝手で

花音

お願い、人生最後のお願い

花音

来世でまた七菜と合わせて

そう言って花音は薄くなった

目を凝らしても見えないくらい

最初から そこには誰もいなかったかのように

浴衣に草履は走りにくい

なぜかわからないけど私は走っていた

何をしたらいいのかも分からないのに

花音のいじわる

1度止まって目をつぶって呼吸を整え

考える

セミがうるさい

静かにして

考えさせてよ

思い出せ

花音がまだ生きてた時のこと

花音が言ってたヒントとは何?

ハァハァ言ってると周りが すごくこっちみてくる

だけどそんなこと気にしていられない

親友の来世がかかってるんだ

花火の音はまだ聞こえる

まだ

まだ鳴り止まないで

お願い…!

祈りながら泣きながら

走り出す

その時えらくのんびりした声が響いた

おばあちゃん

あれぇななちゃんじゃないか

おばあちゃん

どうしたんだいそんなに慌てて

七菜

あ、あの…えっと。

おばあちゃん

その謎の安心感に

涙は堪えられなかった

七菜

おばあちゃぁぁぁん!

そう言って思い切り抱きついた

この祭りの花火は長い

ここでおばあちゃんと

去年の夏死んだはずのおばあちゃんと

出会わせてくれたことは

きっと花音の言うヒントに繋がる

私は一気に話した

親友が死んだこと

その霊がいること

転生出来ないかもしれないということ

親友を転生させるためには 何をすればいいのか

全く分からないということ

おばあちゃんはゆっくり聞いてくれた

おばあちゃん

そうけぇ

おばあちゃん

セミさね

七菜

セミ?

おばあちゃん

中国かどっかの古い古いお話でね

おばあちゃん

セミはサナギの時死んだように
動かないだろう?

七菜

うん

おばあちゃん

でもその後孵化して立派に鳴いて

おばあちゃん

そして死ぬ

おばあちゃん

これを生まれ変わりと見たんだな

おばあちゃん

昔の人は

おばあちゃん

セミは死ぬ時どっちを向いて死ぬかな

おばあちゃん

思い出してみてごらんな

おばあちゃん

セミは腹を向けて死ぬ

おばあちゃん

その時目はどこを見てるだろうねぇ

七菜

腹を向けて…目は…上?

七菜

空?

七菜

天空!

七菜

天国か!

おばあちゃんはもう何も言わなかった

ただニコニコ笑って

そしてさっきの花音のように

静かに消えた

七菜

セミ…

七菜

セミって、夜は静かよね

七菜

今、夜よどうやって探せって言うの

そう言いながらもキョロキョロ

セミを探しながら走る

七菜

待って

七菜

夜なのにさっき鳴いてた

七菜

さっき、考えたいのに
セミがうるさいから
黙ってって思った!!

七菜

さっきのとこじゃん!

クルッとUターンして私は走った

七菜

ハァハァ…

七菜

見つけた

太い幹にへばりつくように

小さな体全体を使って

命を震わせて

それは鳴いていた

透明なセミだった

花火がドーンと上がる度

セミは七色に輝いた

そっとセミを掴んで手のひらで広げる

うるさいって思っててごめんなさい

あなたの命の叫び声を

七菜

かのーーーーん!

ダンダンダンダンダン

大きい花火が連続で上がっている

花火大会の終わりは近い

なのに、花音がいない

七菜

かのーーーーん!ねぇ見つけたよ!

七菜

かのーん!

花音

……るよ

花音

いるよずっとここにいたよ

七菜

あっ

本当に本当に小さな声だった

七菜

花音、ほら

七菜

これ!

花音にそっと透明なセミを渡す

花音がそれを大切そうに受け取った

花音

ありがとう

手のひらで一生懸命鳴くセミを 見ながら花音が言った

花音

セミなんだよ

花音

私が生まれ変わるのに必要なもの

花音

あんなにうるさいって言ってたのに

花音が自虐的に笑う

それでもそれは花音の手のひらの中で

生命力を見せつけていた

その姿は 弱々しい花音とまるで対象的だった

花音

いままでありがとう

花音が薄くほほえむ

滲む私の視界に 打ち上がる花火が見える

金色の柳が夜空いっぱいに広がる

遅れて地面を震わせる音が聞こえた時

夜空に咲いた1番最後の

花の音

それが私の耳に届いた時

花音は七色に輝いて

そして消えた

七菜

花火は死者を弔うためのもの…

おばあちゃんが言ってたこと 思い出した

ちゃんと弔えたかな

また、来世で会おうね

それまで、ちゃんと生きる

花音の分まで

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