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うちよそ&よみきり集

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1 - 1. 早朝、祝いの花束

♥

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2025年11月25日

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メゾンワンダーの朝は忙しい けれど、この日はいつも以上に騒がしかった

時間大丈夫?!

大樹

よくない!

朝からてんやわんやしているのは、大樹と葵だ 両者ともに主将を務める剣道部の朝練に出かけるところだった

ついでに言うと、大樹は朝練の前に立ち寄るところがあり なおのこと急いでいた

雪彦

ちょっとぉ?
朝っぱらからうるさいんだけど

大樹

うわっ!

大樹

雪彦!
そんなとこ寝転がってんな!

大樹

俺、ケッタで行くから
葵ちゃん先行ってて!

間に合うの?

依頼所って
反対方向だよね?

大樹

間に合わせる!

大樹

行ってきます!!

行ってきます!!

バタンッ!

雪彦

……

雪彦

騒がしいやつ

雪彦

……ん?

雪彦

おいおい、嘘だろが

雪彦

プレゼント忘れるとか、

雪彦

アイツほんとバッカじゃないの?!

ところ変わってひまわり依頼所。

まだ陽も昇らない時間帯。 11月も後半のこの頃、毎日最低気温を更新し すっかり寒くなってきた。

ふぁ…

うぅ、寒かね

ん?

馬のいななき…?

玄関を開けると、上着を羽織ったラゼが道に出ていくところだった

ラゼ

おや

ラゼ

おはよう
早いね、百

おはようございます

ラゼさんこそお早いですね

ラゼの傍らには、大きな黒い馬が控えるように立っていた。

ヴォルケーノも
おはようございます

ラゼの愛馬、ヴォルケーノだ。 艶やかな黒い肢体に炎のように揺らめくたてがみの賢そうな駿馬だ。

これから出かけられるんですか?

ラゼ

うん、今日は休みだからね

ラゼ

少し遠くまで行こうと思ってるんだ

ラゼさんがお休みなんて
珍しいですね

ラゼ

有給が溜まりに溜まっててね

ラゼ

一定の休みを摂るようにって、人事に言われてしまったんだ

ラゼ

そろそろ監査も行われるだろうからね

あぁ

企業にとってコンプライアンスは大事ですからね

法律の勉強をしていると、コンプライアンスの問題は嫌でもよく目にする。

ラゼさんは身軽にヴォルケーノに乗ると、優しく首筋を撫でた

ラゼ

よろしく頼むよ、ヴォルケーノ

ラゼ

そうだ、百

ラゼ

今日の朝食は用意しなくていいと、晴也に伝えておいてくれるかい?

分かりました
伝えておきます

ラゼ

ありがとう

ラゼ

それじゃあ、行ってくるよ

早朝ということもあり、ヴォルケーノは静かに走り出し あっという間に見えなくなった。

(さすがは英雄騎士)

(かっこいいな)

新聞をとって、中に戻ろうとした時だった

??

おーい!

声のする方を見ると、物凄いスピードで自転車がこちらに走ってくるのが見えた

依頼所の目の前で、音を立てて止まる 被っていたヘルメットを取ると、見知った顔が現れた

大樹

びゃっくん、おはよう

え、大樹さん?!

自転車…形からしてロードバイクだろうか それに乗ったまま肩で息をするのは、ここ最近、親しくしている一之瀬大樹だった

こんな朝早く
どうしたんですか?

なにか急ぎのご依頼でしょうか?

……って

半袖じゃないですか!
大樹さん寒くないんですか?!

大樹の衣服は武道用の道着に紺色の袴だった しかしその道着は半袖で、見ているこっちが寒くなる格好をしていた

しかし本人は

大樹

いや、特に寒くないかな

大樹

ケッタ漕いできたし

と、ケロッとしていた

大樹

依頼とかじゃないんだけれど

大樹

ラゼはいる?

ラゼさん、ですか?

ラゼさんなら、ついさっき
ヴォルケーノと遠出に出て……

大樹

あーっ!マジかくっそ、
タイミング悪ぃ!

大樹

相変わらず朝早ぇなあの人!

ラゼさんに御用でしたか

大樹

うん

大樹

今日、ラゼの誕生日だろう?

あ、そういえばそうでしたね

すっかり忘れていて、祝いの言葉を伝えるのを忘れていた

大樹

渡したいものがあったんだけど

大樹

あの人、いつも朝早いから
早く出てきたんだけど……

大樹さんなら、今から追えば
追いつくと思いますが……

大樹

それが……

大樹

部活の練習試合があって

大樹

朝練で後輩の面倒を見るって
約束しちまって

大樹

正直、時間がないんだ

大樹

そうだ、びゃっくん!

大樹

これ、ラゼに渡してくれる?

そういって大樹は、持っていたものをこちらに差し出した

差し出された途端、ふわっと花の香りが辺りに漂う 大きなユリを初め、ガーベラやフリージアやカスミソウと 白色をメインにした大きな花束だった

えぇ、構いませんよ

大樹

助かる!

両手で花束を受け取ると、すぐさま大樹はロードバイクの向きを変えた

大樹

ありがとう、びゃっくん

大樹

今度、味仙の台湾ラーメン奢らせてくれ

いえ、これくらいなら

間に合いますか?
バイクで送りましょうか?

大樹

これ飛ばして行くから大丈夫

大樹

それじゃあ!

それだけ言って、大樹はロードバイクを漕ぎ出し、あっという間に遠ざかってしまった

(毎度思うけど、)

(大樹さんってタフだなぁ)

普段は面倒見がよくて気前のいいお兄さんって感じだけれど 今回は年相応の高校生みたいに見えた

普通の高校生って、こんな感じなんだろうな、とか思いながら 新聞と花束を持って中に戻ったのだった。

ざん、ざん、と波の音が響く

遠くまでいくとは言ったけれど まさか海まで来てしまうとは ヴォルケーノも久々に長距離を走って嬉しかったのだろう

ラゼ

張り切ったな、ヴォルケーノ

ラゼ

お疲れ様

労いと感謝を込めて首筋を撫でてやると いつも静かなヴォルケーノが珍しくそっと顔を寄せてきた

ラゼ

ん?

ラゼ

え、大樹が来たのか

ラゼ

ふふっ

これから大樹が教えてくれた喫茶店に行こうとしてたのだけれど

ラゼ

こんな書き方されたら
気になってしまうじゃないか

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