廻リ巡ル。

目を覚ますと、僕は知らない川辺に寝転がっていた。

上には澄み切った空が広がっている。

すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

立ち上がるのに全然力がいらない。

……体が凄く軽い。

どこかも分からない、何も覚えてない。

……どうしたものか。

先程の川辺と打って変わって、今僕達が進んでいる森はとても暗い。

…………暗い。

……というかこんな森、あの川辺の近くにあったっけ……？

……どうやってここまで来たんだっけ。

…………。

思い出せないや………。

見ると、進む先に小さな光が見えてきていた。

森を出た途端、目の前に広がったのは美しい空。

そして赤く長い橋。

僕が歩き出しても、3人は着いてこない。

嫌だ。

そう言って小突いてくる野薔薇。

……いつもの重みが無い。

そう言った瞬間、野薔薇の手がポロポロと崩れ始めた。

同時に、悠仁と恵の体も崩れていく。

はらり、はらり。

まるで桜が散って舞うように。

………あぁ、そうか。

……思い出した。

……やめてよ、そんな顔しないで、皆。

｢戻らない｣なんて言ったら、怒られるよね……。

同時に、頬に熱いものが流れる。

橋の方を向くと、少しずつ透け始めていた。

……黙って橋の上に立つ。

……何も言わずに走り出した。

｢んじゃ、先生。｣

｢ありがとう。そしてさようなら。｣

｢……また、逢う日まで。｣

……そんな声が、後ろから聞こえてきた気がした。

｢五条先生を守る。｣

もう見えなくなった背中に呼びかける。

｢五条先生／五条さん／馬鹿五条へ。｣

｢俺達／私達が"そっち"に送り届けて繋いだ命を｣

｢どうか生きて。｣

……なんだ、ここ？

病院………？

ｺﾝｺﾝ

ｶﾞﾗｯ

家入が走って五条のベッドに駆け寄る。

五条が起き上がろうとする。……が、力が入らない。

ｶﾞﾗｯ

朦朧としていた意識が段々はっきりしてくる。

思い出した。

……あの日、僕は任務で珍しく怪我をした。

でも任務に行った悠仁達が心配で、そこに向かって………。

目の前には溢れかえる程の呪霊に、血を流して倒れている3人。

その呪霊の内3体、推定特級相当。

7体、1級相当。

それ以外(準1級相当含む)数十体。

2人とも頭から大量の血を流している。

五条がゆらりと立ち上がる。

そこから記憶は途切れている。

ｶﾞﾗｯｯ!!

―――時は流れ、数ヶ月後。

五条は持っていた花束を3つのお墓に供え、線香をあげる。

そっと手紙をお墓の前に置く。

五条の携帯が鳴り響く。

そう言って振り返り、出口までゆっくり、名残惜しそうに歩いていく五条。

後ろで3人が笑った気がしたのは内緒。

伏黒が手紙を取る。

伏黒が手紙を開く。

そこには、五条の意外と几帳面な文字が並んでいた。

悠仁、恵、野薔薇へ。

やっほ〜、みんな元気してる？ って言っても、もう死んでるんだったねー。あちゃ〜。

こちら、グレートティーチャー五条先生だよん。 初めての3人宛のお手紙、スペシャルバージョンでお送りしますっ！

てかさ、みんなさぁ……。死ぬの早すぎじゃない？ 僕がちょっと目離したら、全滅してるとかさぁ。 いや〜〜〜、ほんと、先生泣いちゃうよ？マジで。 ……うん、泣いたんだけどね。

あのときさ、僕はただ"最強"なだけの呪術師に戻ってた。……いや、"最強"でもなかったかな。教え子の命を救えなかった。 怒りとか悲しみとか、そういう感情じゃなくて、ただただ真っ白だった。

で、気付いたら僕、めちゃくちゃ呪霊祓ってたわけ。 ……僕が自我失って暴れてるところ想像してみな？僕でもホラーだわ。

――――――――――――――――――――――――

悠仁。 君はさ、ほんっと最後まで"他人のために"動くやつだった。 それで救われた人が何人もいる。僕も、含めて。 でも先生ちょっと怒ってるよ？ 自分のことも、もっと大事にしてよ。 ……まあ、そんな君が悠仁であって、悠仁のいい所でもあるんだけどさ。

恵。 ずっと冷静で、賢くて、でも本当は誰よりも繊細だったでしょ。 君の強さと優しさ、ちゃんと分かってたから。 僕はさ、恵のこと誇りに思ってるよ。

野薔薇。 うるさくて、強くて、怖くて、最高だった。 でもそれだけじゃなくてさ、 誰かの痛みに、誰よりも早く気づける子だった。 それってすごいことだよ。うん、ほんとに。

――――――――――――――――――――――――

みんな、本当に、ありがとう。 教えてくれて。 僕が"先生"として何を大事にすべきなのか。 "最強"よりも、"誰かの味方"である事の方が、ずっとずっと難しいってことを。

でさ、ひとつだけ、文句あるんだけど。

――置いていかないでよ。

って言ったらダメかな？先生っぽくないかな？ ……でも、本音だから許して。

みんなのいない日々は、すごく静かで、すごく苦しい。 でも、その静けさの中にも、 ちゃんとみんなの声が残ってる気がしてさ。 だから、僕はもうちょっとこっちで頑張るよ。

みんなが繋いでくれた命、絶対に無駄にはしない。

だからそっちはそっちで、楽しくやっててよ〜？ たまには喧嘩してもいいけど、あんまり騒ぎすぎないこと！(特に野薔薇)

みんな大好き五条先生より☆

P.S.悠仁、泣いてるでしょ。 ほら、鼻すすってるの聞こえてるから。 ティッシュあるから、ちゃんと使いなね。

五条の目が1つの店に留まる。

普段の五条なら間違いなくスルーしている。

でも今は……

店の中はどこか幻想的である。

〜𝑭𝒊𝒏〜