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湯呑みから立ちのぼる湯気を、アカリはじっと眺めていた。

アカリ

……ほう。人の家の茶というのは、こうも香るものかの

ユイカ

普通のほうじ茶ですが……神様は、もっと特別なものを飲まれているのかと

アカリ

特別なもの? うむ。雨水とか、朝露とかじゃな

ユイカは一瞬、言葉に詰まった。

ユイカ

……それは、飲み物というより自然ですね

アカリ

神じゃからの。口に入れるというより、取り込む感じじゃ

そう言って、アカリは湯呑みに口をつける。

数秒後

アカリ

……熱い

 ぽつり、と。

ユイカ

アカリ

これは……思った以上に、攻めてくるのう

耳が、ぴくりと揺れた。

ユイカ

すみません、普通に淹れてしまって……冷ましますか?

アカリ

いや、よい。神は多少の熱さには耐えられる……多分

多分。

ユイカは思わず口元を抑えた

ユイカ

……可愛いですね

アカリ

今、何か言うたか?

ユイカ

いえ。神様は大変だな、と思いまして

アカリは少しだけ不満そうに鼻を鳴らす。

アカリ

ワシを子ども扱いするでない。見た目はこうでも、千年は生きとる

ユイカ

そうなのですね。では、その千年で、猫舌は治らなかったのですか?

アカリ

……

アカリは黙って、再び湯呑みを見つめた。

アカリ

……人の子よ

ユイカ

はい

アカリ

余計な事を言い過ぎると雨を降らせるぞ

ユイカ

それは困りますね。洗濯物が乾きません

即答だった。  アカリは、きょとんとした顔でユイカを見る。

アカリ

……恐れぬのか?

ユイカ

恐れても、どうにもなりませんので

 そう言って、ユイカは自分の湯呑みにも口をつける。

ユイカ

…それに……

少し間を置いてから、続けた。

ユイカ

今のアカリ様は、雨を降らせるより、舌を火傷しないようにする方が先かと

アカリ

ぬぅ……

狐の尻尾が、むず、と動いた

アカリ

……ユイカ殿

ユイカ

はい

アカリ

ワシは、そなたが思っているほど、万能ではないぞ

ユイカ

存じています

 あまりに自然な返答に、今度はアカリが言葉を失った。

アカリ

……ほう

湯気の向こうで、金色の瞳が細められる。

アカリ

それでも、ここに居てよいと言うのじゃな?

ユイカ

はい。居たいのでしたら

少しだけ間が空く。

アカリ

……では、世話になるとするかの

 そう言って、アカリはまた湯呑みに手を伸ばす。  今度は、ふーふーと息を吹きかけながら。

ユイカ

……本当に可愛いですね

アカリ

だから、今のは聞こえておると言っておるじゃろう!

その声に、ユイカは小さく笑った。  神と人。  けれど、その境界は、ほうじ茶一杯分だけ、確実に薄れていた。

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