???
お前とはもう遊ばねーから。
そう言われた男の子は、桜の木の下でうずくまって泣いていた。
桜の木
どうしたのだろう?喧嘩でもしたのかな?
桜の木
この子、慰めたいな。どうすればいいだろう。
桜の木
そうだ!この子に桜の花を落としてあげよう!きっと元気が出るはず····
桜の木
僕は、風に吹かれて、身体を揺らし、花びらを落とした。
桜の木
伝わったかな?
???
わぁ!なんてきれいなんだろう!僕を慰めてくれたんだね。ありがとう!
???
僕、ケンっていうんだ。よろしくね。
桜の木
笑ってくれた。良かった。元気出してくれたみたい。
桜の木
ケンにもう一度会いたいな。人間って美しいな。
先生
では、2年生の皆さん、今日は桜の観察をします。4年生の体育の邪魔にならないように、静かにしましょうね。良いですか?
生徒たち
はーい!
その時、いきなり2年生の子が、桜を蹴り始めた。先生に怒られていらついていたらしい。
桜の木
痛いよ。やめてよ!
先生
コラ!翔太君、やめなさい!桜だって生きています。桜が悲しむわよ。
桜の木
何?この人。こんなこと言ってるけれど、今の言葉には、僕を大切にしようなんて思いは感じられない。
桜の木
どうせ、口だけなんだろ?
桜の木
環境を守れとか言っている奴等も、優しい自分に酔っているだけなんだ。
桜の木
もしかしたら、良い人もいるのかもしれない。
桜の木
あっ。
桜の木
ケンが来た!
桜の木
放課後になったから、ついでに校庭にいる僕のところへ来たのかな?
ケン
ねえ。君が慰めてくれたおかげで、陸君と仲直りできたよ。
桜の木
熊っていう動物の、ぬいぐるみかな?
ケン
これ、おばあちゃんが、僕が5歳くらいのときに作ってくれたんだ。もう、死んじゃったけどね。
ケン
僕のとっても大切な宝物。
ケン
君にあげる。
桜の木
えっ。僕に?
ケン
僕と君の、友情の証。
ケンは、ニッコリして、桜の
根元に熊のぬいぐるみを置いた。
ケン
ぐすん。ぐすん。
桜の木
ん?もしかして、泣いてる?
ケン
気にしなくていいよ。ただ、ちょっと悲しくなっちゃって。
桜の木
無理して笑顔、作ってたんだ。ごめんね。気づいてあげられなくて。
それからは、毎日毎日ケンは放課後に桜に会いに行った。雨の日も、風の日も、雪の日も、ずーっと。
桜の木
今日は風がやけにひどいな。ケンは来れないだろうな。
桜の木
風がさっきよりも強い。
桜の木
やばい!風が強すぎる!!このままだと倒れる!!!
ケン
大丈夫!?
桜の木
えっ。ケン!?
桜の木
なんで外に出てるの!
桜の木
ここに来たら危ない!逃げて!
桜の木
僕の言葉が通じたらいいのに。
ケン
倒れる!!今、先生呼んでくるから!
先生
何してるのケン君!
ケン
だって先生、木が!木が!
先生
そんな事より自分の心配をしなさい!
先生
さっさと行くわよ!
ケン
嫌だ!
先生
いい加減にしろ!!
とうとう先生は怒ってケンを引きずって学校の中へ入れた。
桜の木
ありがとう。ケン。そんなに僕の事を思っていてくれたんだね。う···れしい···よ。
桜の木
あぁ。良かった。倒れてなかった。
桜の木
一回倒れそうになって気を失ってたのか。
ケン
良かった。倒れてなかったんだ。嬉しいよ!
桜の木
僕も嬉しいよ。
桜の木
今日は、どんな話をしてくれるんだろう?楽しみだなぁ。
桜の木
まだ来ないな〜
桜の木
どうしたのだろう?
桜の木
まぁいっか。明日は来るだろう。
桜の木
おかしいな。なんで来ないんだろう?
桜の木
明日こそは来るでしょ。
桜の木
大丈夫。大丈夫。
桜の木
大丈夫。大丈夫。
桜の木
きっとケン
は来る。
それでも、桜は諦めずに何年も何年もケンが来るのを待っていた。
桜の木
もう、ケンは来ないのかな?
桜の木
僕の事を忘れたのかな?
桜の木
もう、ケンからもらった友情の証はボロボロになってる。
桜の木
病気?交通事故?それとも···もうこの世にはいない?
もう、桜は、ケンが来るとは思っていなかった。希望をすてたのだ。
桜の木
痛!
桜の木
蹴らないでよ!
桜の木
ん?こんなこと、前にもあったような気がする···
???
コラ!!やめなさい!
???
そんなことをしたら、桜が悲しむよ!
桜の木
あぁ。これ、一年前2年生が僕を観察しに来たときと同じだ。
桜の木
でも、1つだけ違う。
桜の木
それは、注意した言葉に、心がこもっていたことだ!
桜の木
居たんだ!ケンのように、植物のことを、本気で考えてくれる人間が。
???
僕は、今日からこの小学校の用務員になった山崎です。よろしく。
桜の木
山崎さんは、僕の方を見て、にっこり笑った。
桜の木
それからというもの、山崎さんは毎日僕のところへ来て、楽しい話をしてくれる。
桜の木
山崎さんってすごくケンに似ているな〜
桜の木
喋り方とか。話す内容とか。
桜の木
ケンが居なくても、山崎さんが居
ればすごく楽しい。
桜の木
ケンが居れば、もっと楽しいのに···
桜の木
悲しい知らせを聞いた。
桜の木
この学校は、廃校になり、会社ができるらしい。
桜の木
つまり、僕は切り倒されなければならない。
桜の木
きっと山崎さんの足音だ。
山崎さん
この学校は廃校になるんだ。君のことも、切り倒さなければならない。
桜の木
山崎さんは、チェンエソーを持っていた。
山崎さん
君を切り倒す前に言っておこう。
山崎さん
僕がケンなんだ。
桜の木
えっ。嘘···だろ。
ケン
小学校卒業して、埼玉県に引っ越したんだ。それでずっと会えなかったんだ。
ケン
僕が君にあげたぬいぐるみ、まだあ
ったんだね。
桜の木
ケンだ!それを知っているのはケンしかいない。
桜の木
やっと会えたんだね。ケン。
ケン
こうしてまた福井県に戻って君に会うことができて本当に良かったよ。
桜の木
僕も良かったよ。ケンに会えて。
ケン
でも···さようなら!
ケンはチェンエソーの電源を入れて桜の木を切り始めた。
僕···ケンになら···切ら····れ··てもい··いよ。もう··少し···生きたっ
桜の木
長い眠りについていた気がする。
桜の木
見渡してみると、そこは学校の校庭では無かった。
桜の木
そもそもなんで僕は生きているんだ!?
桜の木
切り倒されたはずなのに。
桜の木
見上げると、そこにはケンがいた!!
桜の木
というかなぜ僕は小さくなっているんだろう?
桜の木
前はケンより大きかったのに。
ケン
やっと発芽したんだね。
桜の木
えっ。どういうこと?
ケン
新しく公園ができてね。
ケン
ちょうど桜の木が欲しかったようでね。
ケン
君の体の一位部分を取って、この公園に埋めて、復活させたんだ。
桜の木
そうだったのか。ありがとう。ケン。
桜の木
お礼の代わりに、僕はまた、あのときのように、君に初めて出会った日のように、風に吹かれて、体を揺らした。