テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
自然豊かな緑に囲まれた場所に建つ歴史を感じさせる大きな洋館。
私たちはみんなここで育ち、充分すぎるほど幸せだった。
カーン、カーン、カーン...。
エマ
毎朝、決まった時間に鳴る鐘の音とともにカーテンをあければ、清々しい太陽の光がさしこんで、光がキラキラと踊りだす。
元気いっぱいの私のかけ声も手伝って、起きてきたみんなも、お揃いの白い制服に着替えはじめた。
エマ
コニー
鏡ごしに、えへへ、と嬉しそうに笑っているのはまだ小さな妹のコニー。
小さな子たちのお世話は、私たち年上の兄弟たちがちゃんとする。
でも、私たちには血の繋がりはない。
ここグレイス-フィールドハンスは孤児院で。
お揃いの制服、首元には5桁の認識番号。
色んな事情で親のいない子どもたちが、みんなで一緒に暮らす場所だ。
ハンスは、幸せな、私たちの家。
エマ
コニーの髪の毛をふたつに結びおわったところで、背中に何かがぶつかった。
驚いて振り向くと、イタズラ好きの2人の男子がニヤニヤとこちらを見て笑っている。
トーマ
ラニオン
エマ
イタズラっこの2人組が、私に枕を投げてきたらしい。
エマ
いっせいに逃げ出す2人の後ろを、私もふざけながら追いかける。
ドタバタと食堂に行くと、準備を初めている兄弟たちがもう大勢集まっていた。
ノーマン
レイ
新鮮なミルクをたっぷり入った入れ物を運びながら、私に嫌味を言ってくれたのは、つんつんとはねた黒髪で背の低いレイ。
エマ
私たちはこのグレースフィールドハウスで最年長の3人組だ。
エマ
ともくれる私にママ・イザベラが微笑みながら振り返った。
イザベラ
エマ
お皿を準備しているママに駆け寄って、私も手伝う。
私はママが大好きだ、もちろんノーマンもレイもみんなみんなママ大好き。
優しいママと、たくさんの兄弟......みんな大事な家族。
朝食が終わると勉強の時間がやってくる。
全員ヘッドホンをつけて目の前の端末に出てくる問題と真剣に向き合う時間だ。
将来のために私たちのために学校の代わりだとママは言った。
テストの結果は毎回みんなそれぞれだけど、
イザベラ
こうやってママが喜んでくれるから、私はテストが嫌いじゃない。
それに終わればみんなで思いっきり遊べるし。
エマ
エマ
エマ
コニー
みんな思い思いに森の中へと駆け出していく。
とても広いハウスの周りには緑の気持ち良いお花があって、森があって、小川があって、私たちは全力で駆け回ることができた。
ノーマン
レイ
木陰に背中を預けて読書にふけるレイはノーマンが誘ったところでいつも断る。
ハウスの敷地から外に出ることは許されていない規則だけれど、ここでの生活は私たちに里親が見つかって外の世界へと旅立っていくためだと思っていた。
エマ
コニー
それはコニーの里親が決まり、みんなで見送りをした夜のこと。
おしゃれな洋服に着替え、おめかしをした子には自分の誕生日にママが作ってくれたうさぎの人形を大事そうに抱えていた。
コニー
リトルバーニーをぎゅっと抱きしめ、コニーが無邪気に笑う。
コニー
はにかみながらそう言って、コニーはハウスから出ていった。
ノーマン
エマ
苦笑するノーマンに小さくうなずく。
ハウスでは16歳の誕生日までにみんな里親を手配されて卒業していく。
新しい家族ができるのは嬉しいことではあるけれど、別れはやっぱり寂しい。
15年間ずっと見送る側で最年長になった、私にレイにノーマン。
次にハンスを出ていくのは、私たち3人の誰かかもしれない。
でもそれは少しだけ楽しみでもあった。
私達にはまだ知らない素晴らしい世界が待っている。
そう思っていた。
だけど、──それは違った。
ここは嘘だらけの世界だった。