ベッドからの転落に俺を巻き込んだことを
詫びているわけではないのか
だとしても
ベッドに入ってきたくらいで怒らねーよ?俺
謝る必要なんて……
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いるま
あー
それはそうだ
俺は納得した
同じベッドで寝なければ
彼が驚いてバランスを崩すことには ならなかったはずなのだから
確かに
謝罪されて然るべきかも…
自分でも驚くほどの
見事な手のひら返しだ
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俺はなつに睨まれた
どうやら俺は
無意識のうちに頷いていたらしい
なつは少しばかり頬を膨らませている
かわい
いるま
いるま
自分で言うのは平気なことでも
他人に言われると腹が立つ、ってのは
よくあることだよな
彼が拗ねるのも無理はない
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膨らませた頬を元に戻し
彼は話し出す
だが俺にとって
その話の内容なんてどうでも良かった
いるま
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いるま
いるま
なつはきょとんとした
口が無造作に開いている
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
俺はそう言って、彼に微笑みかけた
言いたくもないことを
無理に言う必要はない
ちょっとからかいたかっただけだし((笑
開いたままだった彼の口が
だんだんと閉じてゆく
表情も緩んでいき
彼はドサッと
椅子の背もたれにもたれかかった
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彼の小さな呟きは
正午の鐘音に掻き消され
俺の耳に届くことはなかった
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いるま
いるま
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暇72
いるま
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俺の視界を
右に左にと横切る少年
水の流れる音と
ドタドタと走り回る足音が
なんともうるさい
こんなに騒がしいのは
一体何年ぶりだろうか
でも、悪くない
俺は洗い終わった食器を
食器棚に立て掛けていく
いつもなら面倒だと感じる家事も
昨日からはなんだか楽しくできている
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暇72
いるま
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いるま
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いるま
いるま
いるま
何か今
さらっと重要なことを言わなかったか?
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なにー?じゃねーよ!!
呑気なやつだな
いるま
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彼はのんびりとした口調で
返事をしたが
俺は慎重に言葉を選ぶ
いるま
いるま
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思っていたよりも
あっさりとした回答が返ってきた
声のトーンが何一つ変わらない
それどころか
俺を見てすらいなかった
重要度はこちらのほうが高いはずだが…
さっき謝ってきたときのほうが
真面目だったぞおい
まあ、結果オーライ
一緒に調べられるのならなんでも良いか
こうして俺たちの
長いようで短いような
調べ物の旅が始まったのだった
と、まあ
俺となつの出会いは
こんな感じだろう
今ではお互いに
冗談を言い合える仲にまで発展した
変化は他にもある
この3年間で
10cm以上あった身長差は
縮まるどころか追い越され、
身長と反比例するように
なつの可愛げが無くなっていった
手も俺よりなつのほうがずっと大きい
これが成長ってやつか…
そんなことをしみじみと感じながら
大通りを歩く
しばらく歩くと
生い茂る木々の間から
大きな建物が現れた
目的地の大図書館だ
周囲の人間が一気に増えたように感じる
俺たちと同じ平民もいれば
高級そうな布を身に纏(まと)っている
お貴族様もいたり……
様々な身分の人間が
同じ道を歩いて
同じ場所を目指している
それもこれも全部
この図書館の館長のおかげらしい
この図書館はもともと
他国の建造物と同じく
身分が高くなければ
立ち入ることのできない場所だったそうだ
ところが数年前
急に身分の制限が撤廃されたらしい
噂では
館長が国に直談判した、とか
力技でゴリ押しした、とか
あられもないことが言われている
まああの人ならやりかねないよなぁ
大図書館の正面入口をくぐり
俺は館内を見渡した
ここには毎日のように通っているが
来るたびに思うことがある
天井のステンドグラスが
なんとも幻想的だ
図書館の持つ
独特な雰囲気と相性抜群である
とても静かで落ち着いた空間
身分絡みのいざこざがない
平和な空間
話し声はほとんどせず
聞こえるのは、紙の擦れ合う音だけ
俺はここが好きだ
どれ程の年月が経っていたとしても
昔馴染みのある空間というのは
やはりいいものだ
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俺の名を呼ぶ声の方へ顔を向ける
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そう言った彼は
俺の方へ手を差し伸べた
俺がその手を取ると
彼は俺の手をぎゅっと握り返し
奥の方へと歩き始める
今なつが立っているのは俺の右手側
彼はいつも
絶対に俺の右側しか歩かない
麻痺の症状がひどい俺の右半身を 気遣ってくれているのだろう
なんだかんだいい奴だ
今日もありがたく
体重を預けさせてもらうことにしよう
暇72
いるま
俺たちは互いに愚痴をこぼしながら
館内の最奥にある階段を上っていた
一歩ずつ
ゆっくりと__
いるまに合わせるのも 慣れたものだ
最初こそペースを合わせるのに苦労したが
今となっては
目をつぶった状態であっても
彼と足並みをそろえることができる
しかし何故俺達は
こんなに疲れてまで
階段を上らなければならないのだろう……
それもこれも
あの館長のせいだ
あの人がこんな遠く離れた場所に
館長室を設置したからだ
毎日ここに通っているせいだろうが
館長とはほぼ毎日顔を合わせるため
自然と仲が良くなった
ここ1年は
調べ物を始める前に
必ず挨拶に行くようにしている
あと1段……!
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いるま
ようやく階段を登り終えた俺たちは
息も絶え絶えに膝(ひざ)をつく
だがこんなところで ゆっくりはしていられない
時間は有限だ
俺は重い足を持ち上げ
館長室の扉の前に立った
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背後から声をかけられたのは
そんなときだった
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ここで新キャラ登場…! 続きが楽しみ!