早朝、僕は今日も君を見る
古いほうきで 神社の境内を掃く君
神主の娘に生まれて物心つく前からそうしていたのかな
さほ
参拝者がかけていった 絵馬を見つめてため息をつく
なにか悩みでもあるの?
君も願いをもっているの?
疑問符は沢山出てくるのに 何一つ伝わらない
さほの母
さほ
さっきまで憂鬱そうな顔してたのに 明るい顔して家へと入っていった
こんなに僕が 彼女のことを想っても
何一つ力になれないのが この世界の定法なのは変わらない
触れることすらできないのは 僕はこの世界の存在ではないから
朝食を食べ終えた彼女は 駆け足で登校していった
ソウ
ソウ
思いを乗せた言葉は 風に乗って飛んでいった
勿論、この世の誰にだって 聞こえない
僕はこの神社に祀られた しがない青帝
生まれたときから見守ってたから
君の良い所も悪いところも 何でも知ってる
泣き虫な頑張り屋さん
神主の一人娘
内気だけど、努力家
木の神様を祀るこの神社には 桜や梅、桃の木が植えられていて
満開の桜の下で入学式の日に 写真を撮ったのも知ってるよ
だからって、この想いが 届くはずないけれど。
さほ
さほ
夕方近くになると 君が帰ってくる
知ってる。
この鳥居に向かって ただいまを言うこと
まるで僕に言われている気がして 胸がいっぱいになるんだ
……なんて、思い上がってるかな?
ソウ
さほの母
さほ
さほの母
さほ
さほの母
さほ
誤魔化すように 家に入っていくさほ
何かあったのかな
──彼氏でも、できたのかな
自分の勝手な想像を繰り広げては 胸がキュッと傷んだ
『そんな現実、ありませんように』
なんて、願っても意味ないのに
人間が神様に願い事をするように
神様も誰かに願いを 聞き入れて貰えたらいいのに
草木も眠る丑三つ時
ハク
ソウ
ハクは白帝
秋を司る神様だ
僕とは同期みたいなもの
こんな真夜中に どうしたのだろう
ハク
ソウ
ハク
ソウ
ハク
ソウ
ハク
ハク
ニッ、と笑って 僕の顔を覗き込むハク
いたずらっぽくて 鬱陶しかった
ソウ
ソウ
独り言のように呟いた
ハク
ソウ
微かに笑うと ハクは真面目に言った
ハク
ソウ
ハク
ソウ
ハク
ハク
確かにそうだ。
………でも
さほへの気持ちも 今に始まったことじゃないんだ。
ソウ
ハク
ハク
「神主」ではないんだよなぁ…
密かに否定しながら さほの幸せを考える
僕が神様じゃなくなったら この神社はなくなるのだろうか
そうならば
さほが悲しむかもしれない
それなら──
ソウ
ソウ
朝焼けが焦げるように暑い
太陽ってこんなにも 熱を持っていたんだ
人間になって初めて知った
ハク
ソウ
催促するハクを横目に 僕は不慣れにペンを握った
質量のあるペンが ずっしりと手に乗り
微かな音をたてて 絵馬にインクを落とす
今書くのは、僕の夢
もう君が、絵馬を見て ため息などつかないように。
さほ
さほの母
さほ
急いだ声が聞こえてきた
丁度、最後の一文字を 書き終わった頃だ
ソウ
ハク
言われるがままに 奥の茂みに隠れる
間一髪、見られることは なかったみたいだ
さほ
急いで隠れた拍子に 落としてしまった絵馬が見られる
夢は書いた
悔いはない
さほ
さほ
さほ
さほ
ふわりと、桜が咲くように さほが笑った
ついでに絵馬を かけておいてくれるらしい
引っ掛けた絵馬が重なり合って カランと音を鳴らす
さほ
さほ
慌ただしく階段を駆け下りていった
ハク
ソウ
ハク
ソウ
ハク
ムッとした顔をされたが 僕は絵馬掛所に歩いた
そして、もう一度 僕の夢を眺める
ハク
ソウ
これが、さほの幸せだろうから
ハク
そう言って、拳を合わせて別れた
僕にはもう一つ、神様以外にも やることがあるから
ソウ
絵馬に書いた一つの夢
君の夢が叶うように これからも見守ってるからね
コメント
29件
絶対叶わない恋だからこそ 好きな人の幸せを誰よりも祈って。 そんな神様が好きです((は?
恋に人も神様もかんけいないんですね?! いや、好きです…!
恋する神様…ドラマチックで素敵です…😍