ひろと
ばあちゃん、山で山菜採ってくるね。

幸
いつも悪いね。気をつけてね。

ひろとは17歳で、これでも村にいる若者の中でも最年長だった。
海
ひろにぃ!

ひろと
あ、うみか!また大きくなったか??

海
そー?これから花ちゃんの家に行って遊ぶの!!ひろにぃも遊ぼ!

ひろと
ごめん、俺これから山に行って山菜採ってくるから遊べないの。

海
じゃあ、俺も山行く!!

ひろと
だーめ。山にはイノシシとか熊がいるから、危険なんだよ??

海
えー。じゃあ、今度絶対に遊んでね??

ひろと
うん、約束な。

村は1つの山に囲まれてたため、山菜などの作物が豊富に採れて、食物には困らなかった。
ひろと
ばあちゃん。帰ったよ。

幸
おかえり。疲れたでしょ??今夕飯作るからね。お風呂入ってきちゃいなさい。

幸
ひろとくん。

ひろと
何?

幸
明日、村の広場で会議があるのよ。

ひろと
そっか。

幸
私は隣の村まで用事があるから、会に参加出来ないのよ。

ひろと
分かったよ。大丈夫。俺が行くから。

幸
ありがとうね。

村長
女性は帰ってもらっても構わない。今回の件は男性のみに話がある。

村長
男性1人を「生贄」にする。

ひろと
(生贄……??)

村長
この村を囲う山には人間を餌とする狐の神が住んでいる。

村長
そして、この村の住人は無断で狐の神の山の作物を採って食らっている。

村長
狐の神は怒っているだろう。

村長
だから、人間を1人生贄にして狐の神に捧げるのだ。そうすれば、狐の神の怒りはおさまって、また山の作物を恵んでくれるはずだ。

村人1
生贄になった者はどうなるんだ??死ぬのか?!人を餌とする狐の神って……。

村長
生贄は山に放り出す。つまり、生贄は村から追放する。帰ってくることは許されん。なにせ生贄なのだからな。

ひろと
(そんな……山でどうやって生きるんだよ…。)

村人2
神が本当にいるのか分からないのに、なんでそんなことするんだよ!!

村人3
そうだ!山には熊がいるんだぞ?!一晩もしないうちに死んじまう!!山の上は気温だって低いんだぞ?!

村長
神は必ずいる。遡ること70年前、山の木々が一斉に枯れ、白命村は危機に陥った。山の作物に頼って生活していたからな。そこで、「第八代の村長」がある男を生贄にして神に捧げた。すると、山は元気に生き返った。これが、「生贄の伝統」の始まりだ。男は追放された翌日、無残な形で亡くなっていた。

ひろと
(生贄の伝統…??男は死んだってことだよな…??)

村長
まぁ、生贄に選ばれた者はそうなる運命なんだ。

ボディーガード1
おい。何をしている。

ボディーガード2
村長を傷つけることは許されない。

村長を守る体の大きな男2人組が殴りかかろうとした男達を返り討ちにした
村人1
くそ…!!

村人2
俺たち、まだ60代だぞ?!まだまだ働けるんだ!!

村人3
生贄ならもっと年寄りにしろ!

村長
………。

村長
よし。彼にしよう。

ひろと
お、俺……??

村長
彼を取り押さえろ!!

すると、ひろとはボディーガードに身を取り押さえられてしまった
ひろと
痛っ!離せよ!!

村長
手錠をかけろ。足には鎖で重い鉄球を繋げろ。

ひろと
くっそ!ふざけるな!!神なんて本当にいるかわかんねぇだろ!

村長
そのような考えが駄目なんだ。神は必ずいる。お前のような若者を1人の失ったところで、まだ幼いが、2人の若者がいる。神も若者の栄養たっぷりの肉を食べたがるだろう。

ひろと
そんな…!!考え直せ!!生贄なんか出しても無駄だ!!俺には祖母がいるんだ!!

村長
もう関係ない。お前は永久追放されるのだから。誰もお前の声は聞かない。

村長
お前達、山へ捨ててこい。

ボディーガード達はひろとを抱えると、言われるがままに山へ入っていった。