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第1話 - あ

2023年07月30日

#恋愛

結城真矢

ナオ

タイセイ、結婚が決まったってね。おめでとう。お姉ちゃん嬉しいわ

タイセイ

ん、そりゃどうも

ナオ

あんなに小さかったタイセイがねぇ…月日が経つのは早いわぁ

タイセイ

感慨に耽ってるところ悪いんだけどさ、俺今日で姉ちゃんとは絶縁するから

タイセイ

結婚式にも来るんじゃねぇぞ

ナオ

えっ！ちょっと何よいきなり！冗談よね

タイセイ

冗談なもんかよ

タイセイ

今まで我慢してたけどさ、高卒で水商売してる汚れた女が姉とか誰だって嫌だっての！

タイセイ

友達にも恥ずかしくて言えなかったし、ずーっと惨めだったんだぜ

ナオ

何言ってるのよ！私が高卒で水商売してるのは、両親が早くに事故で他界して、

ナオ

年の離れたあんたを育てる為だったのよ！

タイセイ

あー出た出た。ビッチの悲劇のヒロイン気取り

タイセイ

そういう恩着せがましいところも嫌なんだよ

タイセイ

自分が無能で水商売でしか稼げなかったってだけだろ

タイセイ

俺のせいにしないでくださーい

ナオ

そんな…あんたを大学まで出してやるお金を稼ぐには、これしかなかったのに

タイセイ

はいはい。いーよなー女は。水商売で楽に稼げるんだからさ

ナオ

楽に！？私が高卒でこの道に飛び込んで、

ナオ

どれだけ苦労したか知らないの！？

ナオ

そのおかげで、あんたは部活だってできたし塾にも行けたし、

ナオ

大卒で就職だってできたのよ！？

タイセイ

あのさぁ、部活でレギュラーに入れたのも、名門大学受かったのも、

タイセイ

一流企業に入れたのも全部、俺の力なの。俺自身の努力なの

タイセイ

姉ちゃんのお陰なんじゃないからな。うぬぼれんなよ

タイセイ

ヘラヘラ笑って女使って楽に稼いでる姉ちゃんこそ、俺の努力わかってんの？

ナオ

なんですって！？

タイセイ

俺の婚約者のユメって、会社の社長の娘なんだよね

タイセイ

水商売の姉ちゃんと違って、育ちが良くて上品なお嬢様タイプ

タイセイ

きっと姉ちゃんのこと、同じ女として軽蔑するんじゃないかな～

タイセイ

ユメの両親や親族だってエリート揃いなんだ

タイセイ

水商売の女が姉だなんて知れたら、結婚反対されちまうよ

タイセイ

だから絶縁な。俺の姉は両親と一緒に死んだってことで

ナオ

酷いよ。可愛がって育ててきた弟に、こんなこと言われるなんて…

タイセイ

何を言われても変わらないから。この結婚は出世のチャンスなんだ

タイセイ

俺を想うなら、俺の人生のチャンスを潰さないでくれよ

タイセイ

あ、ここまで漕ぎつけたのも勿論俺の実力だからな。思い上がるなよ

ナオ

いいわ。もうこっちから連絡しない

ナオ

ただこれだけは言わせて。私は水商売で稼ぐにも、職場の人達に助けられてやってきた

ナオ

あんたも、一人でやって来たなんて思わないことね

タイセイ

水商売女のくせに俺に説教すんなｗじゃーな、もう俺の人生に関わってくんなよｗ

～数日後～

タイセイ

姉ちゃん、どういうことだよ！

ナオ

私はあんたの姉ちゃんじゃありません

タイセイ

それどころじゃねぇよ！俺、社長に婚約破棄を告げられたんだ！

タイセイ

なんか、姉ちゃんのこと知ってるみたいで、恩知らずに娘はやれんって…

タイセイ

それに、ユメとの連絡もつかないんだ。お前、一体何したんだよ！

ナオ

それはあなたの元婚約者さんに聞いた方が早いんじゃない？

タイセイ

だから連絡付かないんだって！

ナオ

今連絡付けさせてあげるね

タイセイ

へ？

（【ユメ】が追加されました）

ユメ

タイセイ、今私、あなたのお姉さんのナオさんと一緒にいるよ

タイセイ

どういうことだよ…なんでユメが、姉ちゃんと一緒に！？

ユメ

実はね、私とナオさんってSNSで知り合ったオタク友達だったの

タイセイ

は？オタク友達…？

ナオ

そう。あんたが自立してから私、オタ活にハマり出してねぇ

ナオ

そこでユメちゃんと知り合って意気投合したのよ

ナオ

オフで何回も会ったし、推しカプの合同誌を出したこともあるのｗ

タイセイ

お、おしかぷ…？

ユメ

タイセイには私がオタクだって、まだ話してなかったからね

タイセイ

な、なんだか知らないけど、お前姉ちゃんのことわかってんのか？

タイセイ

汚れた仕事してる女なんだぞ！そんな女と仲良くしてたら、

タイセイ

社長令嬢のユメだって同類だと思われるんだぞ！いいのか！？

ユメ

タイセイ。水商売の話は、ずっと前からナオさんから聞いてて知ってた

ユメ

でも、軽蔑どころか尊敬しかないよ！

ユメ

ご両親を亡くして、歳の離れた弟を育てるために大学を諦めて水商売で働くなんて、

ユメ

聞いた時感動したよ。あなたのお姉さんは恥ずかしい人なんかじゃない！凄い人だよ！

ナオ

そんなに褒めないでよｗ照れるじゃないｗ

ユメ

そんなナオさんが珍しくＳＮＳで愚痴ってたから、私話を聞いてみたの

ユメ

そしたらビックリ。ナオさんの弟が私の婚約者だったってことがわかったのよね

ナオ

ねぇ。世の中って本当に狭いわね

ユメ

見損なったよタイセイ

ユメ

恩を忘れて、育ててくれたお姉さんを見下して絶縁するような人だったなんて…

ユメ

ナオさんが姉だということが恥ずかしい？私は、あなたが婚約者だったことが恥ずかしいよ！

タイセイ

なんだよ！ふん、所詮ユメも社長令嬢とはいえ女だな

タイセイ

女だから、ビッチの不幸自慢に絆されて肩を持つんだろ

ユメ

何よそれ…じゃあ、私のお父さんの言うことなら聞くの？

ユメ

お父さんね、私の話を聞いて激怒してたよ

ユメ

お姉さんが気の毒だ、簡単に家族を捨てる恩知らずに娘はやれんって

ユメ

娘のことも、都合が悪くなれば見捨てるんだろうって

タイセイ

そりゃ、男なんだから下心で水商売女を擁護してるだけだ！

ユメ

呆れた…結局男でも女でも聞く耳持たないんじゃない

ユメ

それに何？お父さんのことまるでエロ親父みたいに言って

ユメ

このやりとり、お父さんに見せようか？

タイセイ

ひっ！やめてくれよ、社長にだけは！

ナオ

あらあら。タイセイったら社長さんと社長令嬢に失礼なこと言っちゃったわね

ナオ

そんなんじゃ出世は夢のまた夢ね

タイセイ

うるさい！誰のせいだと思ってんだ！

ユメ

あんたのせいでしょ！いい加減にして！それから、婚約破棄の慰謝料ももらうから

タイセイ

は？これくらいで慰謝料とることねぇだろ！

ユメ

タイセイさ、風俗通いしてるよね

タイセイ

な、なんでそれを…

タイセイ

違う！これは同僚との付き合いで…

ユメ

むしろタイセイから同僚誘ってるよね？それも、一度や二度じゃないよね？

タイセイ

それがどうした！風俗は浮気じゃない！慰謝料なんて請求できるもんか！

ユメ

それができるんだってさ。風俗も不貞行為に当たるみたいよ

ユメ

タイセイ、風俗利用しといてよくナオさんの職業を汚れた仕事だってバカにできるよね

タイセイ

当たり前だろ！風俗もキャバも汚れた底辺の仕事！

タイセイ

男はそれを利用してやってるんだ！いわば便器みたいなもの！

タイセイ

どうせ楽して稼いでんだから嬢には何してもいいんだよ！感謝しろってんだ！

ユメ

うわぁ…最低な男だね

ナオ

ほんとほんと。典型的なクソ客タイプだわ

ナオ

我が弟ながら情けない…どこで育て方間違ったのかしら

タイセイ

おい、女同士でネチネチ言ってんじゃねぇよ！これだから女は！

ユメ

とりあえずあんたとはもう無理。さよなら

（【ユメ】が退出しました）

タイセイ

おい、本当にユメに婚約破棄されたのか…？

ナオ

そうよ。もう顔も見たくないんだって

タイセイ

なぁ姉ちゃん、ユメを説得してくれないかな？

ナオ

は？

タイセイ

ユメは姉ちゃんを尊敬してるんだろ

タイセイ

だったら、姉ちゃんが「タイセイを許してあげて。社長にも告げ口しないであげて」

タイセイ

って説得すれば、ユメもヨリを戻してくれるはずだ！

タイセイ

だから頼むよ！

ナオ

なんでそんなことしなきゃならないのよ。ユメちゃんが嫌がってるのよ

ナオ

私はオタク仲間として、ユメちゃんの意志を尊重する

タイセイ

そんな！オタク仲間だか知らないけど、その前に俺の姉ちゃんだろ！

タイセイ

ユメと俺がヨリを戻したら、仲のいいユメと義理の姉妹になれるんだぞ！

タイセイ

悪い話じゃないだろ！

タイセイ

そしたら絶縁解消してやるからさ！お願いだ、出世がかかってるんだよ！

ナオ

あんたは自分の実力だけで成功してきたのよね

ナオ

だったらユメちゃんや私に頼らなくても自分の力で出世しなさい。それじゃ

～数か月後～

タイセイ

どうしてくれんだよ…

タイセイ

姉ちゃんのせいで警察呼ばれて、接近禁止命令食らって、

タイセイ

会社クビになっちまったじゃないか…

ナオ

私のせいにしないでちょうだい

ナオ

社内でユメちゃんにヨリを戻そうとしてストーカー繰り返したあんたが悪いんでしょ

ナオ

私はユメちゃんに警察行ったりお父さんに相談するよう勧めて、付き添っただけ

タイセイ

なにが『だけ』だよ！ユメは大事にしたくないって我慢してたのに！

ナオ

それでも、最終的に決めたのはユメちゃんよ

ナオ

ユメちゃんが我慢してるのを知っててストーカーしてたんだ。最低だね

ナオ

そんなことでヨリを戻せるわけないのに…

タイセイ

お前！弟を警察に売るのかよ！

ナオ

私達は縁が切れたからもう姉弟でもなんでもないわ

ナオ

それより、妹みたいな子を守る方がずっと大事

タイセイ

だから絶縁解消してやっていいって！姉ちゃん、相変わらず水商売で稼いでんだろ

タイセイ

ちょっとだけでいいから仕送りがほしいんだ。クビの上に慰謝料払わされたし…

ナオ

水商売は汚れた底辺の仕事なんでしょ

ナオ

それなのに、汚れた底辺の仕事で得た金で育ってきたうえに、

ナオ

大人になってまでそのお金を要求するんだ？

タイセイ

それは…

ナオ

あんたは自分の実力で成功してきたんでしょ

ナオ

だったらこれからも自分の実力でやりなさいよ。成功してみなさいよ

ナオ

まずは就職し直さなきゃならないわよね。できるかしらねぇ

ナオ

タイセイ、本番に弱くて面接カミカミで全落ちだったじゃない

タイセイ

でもあの会社には入れたんだ！

ナオ

タイセイの面接後のあたりにね、会社の採用担当の方がうちの店に来てたのよ

タイセイ

え？

ナオ

私の境遇に感動したその方に、タイセイが会社の面接に行ったって伝えたら、

ナオ

そういえば顔立ちが似た子が来たって言われたわ

ナオ

あの子は入社さえすれば出来る子だから、よろしくお願いしますとも言ったような…

ナオ

でも思い上がっちゃいけないわよね。タイセイが会社に入れたのは、

ナオ

タイセイ自身の実力だもの！

ナオ

きっとこれからもタイセイ自身の実力でやっていけるはずよ。私がいなくても、ね

タイセイ

そんな…待ってくれ姉ちゃん、もう一度その人を説得してくれ！

タイセイ

もしくは姉ちゃんのコネで就職させてくれよ！

ナオ

私はもうあなたの人生には関わりません。あなたのお望みどおりにね

～後日談～

ナオ

その後、タイセイはどこの会社の面接もうまくいかず、

ナオ

バイトを掛け持ちして必死に働いているのだそうです

ナオ

そのバイトも次第にミスだらけになり、毎日叱られているのだとか

ナオ

タイセイは何度も私に復縁要請してきましたが、着信拒否しました

ナオ

私も弟を甘やかしすぎたかもしれないと反省しています

ナオ

ユメちゃんと私は前よりも頻繁に、一緒にイベント等に出かけるようになりました

ナオ

たった一人の家族だった弟と縁が切れてしまいましたが、

ナオ

今では妹みたいな子がいるので、寂しくはありません

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結城真矢

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