辰哉
今日もイチゴ?
オレはチョコのやつでも食うかな

由紀
あっ、栗原君

由紀
また来てたんですね

先週と同じ店の前、もしかしたらと思って待っていたら、案の定彼は来てくれた。
辰哉
どうした?
またオレと遊びたくなったのか?

辰哉
清水の方こそな

由紀
いいえ、違います

由紀
今日は、直接話したくてきました

辰哉
何?お説教なら聞かねーぞ

由紀
そうじゃないんです

由紀
委員長として、クラスメートのことを知るため…

由紀
いいえ、こんなのは建前で…

由紀
なんて言ったらいいのかな

辰哉
話すことないならオレは遊び行くぞ

由紀
ま、待ってください!

由紀
知りたいんです、なんで私を誘ってくれたのか

由紀
学校ではあんな感じなのに、こっちでは違くて…

辰哉
それは…

辰哉
まあ、お前ならいっか

彼はクレープを購入し、私の向かいの席に座ると、それを頬張りつつ、おもむろに話し始めた。
辰哉
ここでお前を見かけた時、最初は嫌なやつに会ったと思った

辰哉
…でも、お前の目を見たら気が変わった

辰哉
学校で委員長している時よりも、クレープ食べてる時の方がイキイキしててさ

辰哉
なんだか、似てるって思ったんだ

由紀
似てる、というと?

辰哉
オレと、清水が似てるって話

由紀
えっ、どこがですか?

辰哉
お前、別に委員長やりたくないんだろ、本当は

由紀
そ!そんなことは、ないです

虚を突かれて、ついどもってしまう。
こんなこと、初めて聞かれたから。
みんな当たり前のように私を「委員長」というふうに認識していたから。
辰哉
オレも一緒だよ
本当は不良なんてやりたいわけじゃないんだ

由紀
栗原君も…?

辰哉
昔オレはいじめられていた

辰哉
腕っぷしは弱いし、成績も良くないし、性格も良くないから、何をしてもダメだった。

辰哉
それにウチでは両親が毎日喧嘩ばかりしてた

辰哉
酒飲んで暴れる親父に、オレとお袋は殴られっぱなしだった

辰哉
だからオレは、強くなることに決めた

辰哉
弱ったく見えるからいじめられる
だから見た目とか態度とか、舐められないように頑張った

辰哉
オレが喧嘩強くなるたびに、他にいじめられてたやつらが「もっとやれ!」「すごい!」って言ってくれるのが嬉しくて

辰哉
いつしか、親父も逆に殴り倒せるくらいになっていた

辰哉
もう後戻りできなくて、とにかくオレはみんなが求めるオレであろうとし続けた

辰哉
お前もそうなんじゃないか?

辰哉
求められた姿でいようとして、もう本当の自分がわからなくなってるんじゃないか?

辰哉
少なくともオレの目から見たお前は、そういうやつだ

由紀
わたし…うぅ…ぐずっ…

辰哉
お、おい、どうした?

由紀
ごめんなさい、あなたのこと、誤解してました!

由紀
そうです…本当は私

由紀
もっとみんなと、馬鹿みたいなことして遊んだりしたいっ…!

由紀
でも、お父さんもお母さんも、私は真面目に勉強して、立派に育って欲しいって

由紀
勉強も習い事もたくさん増やして、どんどん私の時間はなくなっていく

由紀
何より成績が落ちると私のことで両親が喧嘩するのが耐えられなくて

由紀
優等生でいようとして、学級委員に立候補したりして

由紀
自分はこうでなくちゃっていう義務感だけで毎日学校に行って

由紀
私思ったんです、あなたのように不良として生きれたらどれだけ楽かって

由紀
でも違った、あなたは不良であることに苦しんでいた…!

辰哉
…オレも、清水みたいになんでもできる人になれたら、こんなことやらなくてよかったのにって思ってた

由紀
やっと意味がわかりました
確かに似たもの同士ですね、私たち

辰哉
ああ、だからこそ、オレはお前に興味を抱いた。それでお前を誘ったんだ

由紀
ありがとうございます、私に、声をかけてくれて。私じゃない私を見せてくれて

辰哉
…オレの方こそ、付き合ってもらって…ありがとう

辰哉
今日は帰る。じゃあな

由紀
あっ、待ってください、まだ聞きたいことあるのに!

辰哉
後にしろ、この前Teller交換したろ?

由紀
…そうですね
では、また後で!
