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なごみさんの作品本当に大好きです... 感動小説探していた所友達に紹介されたのですが...感動しすぎて泣いてしまいます... 表現の仕方が凄く好きなんですよ... 心情とかも多くて人物の気持ちに切なくなったり嬉しくなったりするので凄く読みやすく感動します...! これからも頑張ってください!
いやもうなんか主さんの作品ほんとに凄いんですよ!(語彙力低下中)もう感動しました…もう目が真っ赤で…
『手放した君を、愛してると思った』
中編_______
C.
必死にコンクリートを蹴って
もがいて
大好きだった家から遠ざかる
昼間の太陽が眩しくて
神無月に吹く風が痛くて
肩にかけたバックが
異様な程に重くて
苦しくて
苦しくて
それでも走り続けた
明るい視界がじわりと滲む
瞬きをする度、脳裏に浮かぶ
彼の最後の表情
走る勢いで涙が乾くほど
倍の量の熱いものが
頬を伝う
こんな時ですら
いつもと何一つ変わらない
真っ青な空に
神様は最低だ、と
理不尽なことを考えた
走って
走って
走って
走って
ぼんやり記憶している
目的地に向かう
途中で通った公園から聞こえた
子供のはしゃぐ声ですら
槍のように耳に飛び込んできて
僕は耳を塞いだ
いつの間にか着いた
目的地の階段を駆け上がり
一番端の部屋に走る
着いた瞬間
すがるように
インターホンを押した
ガチャッ
N.
C.
N.
ドアが開いた瞬間
目の前が紫でいっぱいになって
僕は安堵したように
その場に崩れ落ちた
そんな僕を
なーくんが、慌てて支える
N.
N.
C.
N.
C.
N.
なーくんは
心底びっくりしたような声をあげた
それでも
僕の一言で
全てを悟ったようで
N.
N.
そう言われて僕は
彼に支えてもらいながら
家に入った
久しぶりに入った
なーくん家の中は
前に比べて随分と
物が減っていた
きっと仕事に使うもの以外は
捨ててしまったのだろう
N.
リビングのドアを静かに閉めた なーくんの
低い声が部屋に響く
N.
ある意味殺風景とも言える部屋は
今の自分の気持ちを表しているみたいで
一気に感情的になってしまった
N.
その言葉が
ぎゅっと心に沁みて
今日何度目か分からない涙が
込み上げてくる
C.
N.
今度はそう言いながら
僕の体を優しく抱きしめてくれた
こうやって
誰かに抱きしめられたのは
すごく久しぶりな気がして
その温かさにもまた
僕は涙する
C.
C.
N.
C.
C.
体を彼に預けて
僕は声をあげて泣いた
さとみくん以外
答えの分からない問いを
たくさん繰り返して
なーくんは何も言わずに
ずっと話を聞いてくれて
優しく背中をさすってくれた
ひたすら口を動かして
溢れてくるものを
全て吐き出す
今まで押さえ込んできたものを
全て解放した時
気づいたら僕は
眠りについていた
静かな玄関に
遠くから聞こえる着信音が響く
少し手を動かすと
玄関の冷たい感触がかえってくる
今まで眠ってしまっていたことに気づいて
固くなってしまった体に
力を入れる
そのまま立ち上がって
おそらくスマホがあるだろう
自分の部屋に向かった
画面を確認すると
『なーくん』という文字が
表示されていた
少し迷ってから
応答のボタンをタップする
S.
N.
想像とは違ったテンションの低さに
何となくこれから言われることが
分かった気がした
N.
何が、とは
言わなかった
でも俺にとっては
その一言だけで
なーくんがなんの話をしているのか
わかってしまって
きっところんに聞いたのだろう
心配をかけたくない
その一心で
気づかれないように
すぅ、と息を吸う
S.
S.
返事はない
なーくんに
自分に
言い聞かせるよう
精一杯
いつも通りの声音を作る
S.
S.
それでも
声が少し震えてしまう
なーくんは
それに気づいたのか
気づいてないのか
N.
そう聞いてきた
S.
一瞬、言葉に詰まる
でも
俺は
ころんを突き放した側なのだ
何を思っても
何をしても
もう全部
今更なのだと
自分に言い聞かせる
S.
S.
これ以上話していたら
もう隠しきれなくなりそうで
じゃあ、と言って
通話を切ろうとする
N.
N.
端末からはっきりとした声でそう言われて
切ろうとしていた手を止める
N.
S.
N.
N.
N.
N.
そう言ったなーくんの声は
自分のことのように震えていて
どこか願うように聞こえて
儚かった
N.
N.
N.
N.
S.
分かってるよ、
そう言いたいのに
固く閉じてしまった喉は
動いてくれない
ひたすらに
胸が苦しくて
吐きそうで
自分から手放したくせに
ころんに会いたいなんて
その言葉を言ってしまいそうで
何も言わずに
今度こそ、通話を切る
切った瞬間
俺を包み込んだのは
強い焦燥感
きっと俺はずっと前から
間違った道に進んでしまっていた
もう戻ることはできないくらい
ずっとずっと間違った道に
こんな時ですら俺は
最低なことを思う
頭ではダメだとわかっていても
今すぐにでも
切れてしまった糸を
もう一度繋ぎたかった
S.
S.
S.
受け取ってくれる人のいない
ガラス玉のような
ただただ透明な願望
その言葉を呟いてから
もう一度
どうしようもなく
ころんを愛おしいと思った
C.
どれくらいの間寝ていただろう
ゆっくり目を開けると
C.
そこには
出ていったはずの
見慣れた部屋
C.
なんで僕は
さとみくんの部屋にいるの?
記憶を辿ろうと
軽く頭を振ってみるが
眠ったあとの記憶なんて
何も思い浮かばない
記憶がないなら
僕は自分の足で
この家に来ていない?
この部屋は
多分、僕が使っていた部屋
荷物は全部端に寄せられていて
僕はベットで寝ていた
訳の分からなさに
固まっていると
突然部屋のドアを
叩く音がした
S.
ドアの向こう側から聞こえる声に
思わず
え、と声を漏らす
ゆっくりと開いたドアから
入ってきた人物は
さとみくんだった
状況が飲み込めなくて
硬直していると
S.
突然声をかけられて
びくりと体が震える
S.
C.
S.
S.
S.
C.
S.
S.
S.
突然の出来事に
理解が追いつかなかった
だけど僕は
彼に抱きしめられた瞬間
気づいてしまった
C.
C.
僕が無理だよって言っても
反論してこなかったさとみくんが
こんなことを言うわけがない
こんな風に
もう一度
抱きしめてくれるわけがない
S.
そう思っても
彼から感じる体温は
異様な程に現実感があって
久しぶりの
大好きな匂いに
鼻の奥がつんとする
いっその事
夢ならばと
彼の背中に腕を回して
肩に顔をうずめた
C.
S.
C.
S.
C.
C.
C.
彼の顔を見て
そう言ったら
彼は
少しびっくりしたような
顔をしてから
もう一度僕を抱きしめて
もちろん、と言ってくれた
自分からお願いしたくせに
優しくされる度
夢であるのが悲しくて
胸が苦しくなる
C.
S.
S.
C.
僕を撫でてくれる
大好きな手に
これが夢でなければいいのに、と
何度も思う
C.
堪えきれなくなって
すがるように泣く僕を
彼は優しく
安心させるように
ずっと抱きしめていてくれる
そんな彼の
深い優しさに沈むように
僕の意識は遠のいていった
N.
はっと目を開けると
そこには
心配そうに僕を覗き込む
なーくんの姿があった
彼にしては珍しい
「ころん」という呼び方に
さとみくんが重なってしまって
ゆるんだ涙腺から
熱いものが流れてくるのを
感じる
N.
なーくんは
焦ったように僕を起こして
涙を拭ってくれた
N.
N.
どこまでも優しい声に
少し、安心する
僕は首を振って
C.
と、遠くを見るように答えた
それから
C.
そう言うと
なーくんは
悲しそうに笑って
そっか、と言ってから
僕に目線を合わせた
N.
N.
引き込まれてしまいそうな
ラベンダーの瞳
でも
なーくんの目の下には
濃いクマができていた
ちらりと時計を見ると
もう、朝の3時を回っていて
ずっと起きていてくれたのかも、と
何となくわかった
C.
わかっていたことなのに
今更再認識して
自分ばっかり甘えてしまっていたことに
申し訳なさを覚える
涙も
言葉も
全てを押しとどめて
僕は笑った
C.
C.
上手じゃない僕の笑顔が
彼の瞳に写って
思わず、目をそらす
C.
散々迷惑をかけておいて
逃げるように帰るなんて
さすがに
人として恥ずかしいと思いながらも
彼の真っ直ぐな瞳に
何かを我慢するような表情に
向き合うことが出来なくて
投げ出したままの
ボストンバッグに駆け寄る
荷物を手にして
部屋から出ようとすると
ころちゃん、と
呼び止められた
N.
彼の問いに
一瞬
口を噤む
だけど
見透かされていたのを
隠すように
僕は明るい声で言った
C.
冷たいドアノブに手を掛けて
部屋を出る
彼の
震えた声音が
強く
耳に残ったままだった
あれから俺たちの日々は
長いようで
瞬きする間に
過ぎていった
1度だけ
莉犬が俺のとこを訪ねてきて
Ri.
と泣きながら謝られたが
莉犬が悪くないことなんて
言わずも知れていた
だから俺は
S.
S.
そう、強がって言った
その言葉通り
公式放送も
普段の活動も
何も変わらず進んでいった
唯一
一つだけ変わってしまったこと
それは
俺ところんが
"相方"に戻ったこと
なーくんから
俺たちを気遣って
公式ペアを変えようか、という
提案をされたが
ころんが頑なに断ったらしい
ころんはまだ
俺と関わろうとしてくれているかもしれないと
少し期待する自分が嫌いだ
相方になっても
俺ところんが関わる機会は
格段に減った
公式放送で
流れで間接的に絡むことはあっても
どちらからともなく
話しかけることはなくなった
もちろん
コラボ放送なんて
もってのほかで
ゲームうまい組としてですら
放送をすることはなかった
スケジュールを作る人が
考慮してくれているんだろうな、と
何となく察する
だけどやっぱり
勘のいいリスナーさん達は
俺たちがあまり話さなくなったことに
気づいたらしく
Twitterで心配のリプを何度も見た
でも
俺にはどうすることも出来なかった
突き放した側が
無理やり歩み寄って
"すとぷり"からも
ころんを失うのが
怖かった
ころんが
歩み寄りたくないと言うのなら
それでもいいと思った
なんて
強がった日には
ジェルに
しかられてしまったけれど
J.
J.
と言いながら
泣くジェルを見た時は
さすがにどうにかしないと
メンバーにも迷惑かけたままだな、と
思った
だからといって
突然「話そう」なんて
やっぱり言えなくて
なんとなくこのまま
時間と共に少しずつ
戻れたらいいな、なんて
思っていた俺が馬鹿だった
弱気な俺への罰か
不幸は
少しずつ、それでも確かに積もる雪のように
ゆっくり、音もなく近づいてくる
あの日から一ヶ月後
ころんが事故にあった
その日は
ゲーム実況の撮影をしていた
イヤホンをしていたせいで
スマホの着信音に気づかなくて
俺が折り返しの電話をかけたのは
最初の着信音から
30分以上が経った頃だった
S.
S.
N.
俺の声をさえぎった
なーくんの声は
どこか焦っているようで
なにか
嫌な予感がした
N.
普段のなーくんからは
全く想像つかないような
自分を責める
焦った声
血液が逆流したような
恐怖を感じた
自分でも信じられないくらい
早く走った
なのに
そのスピードですら
もどかしく感じて
必死になって
アスファルトを蹴る
運動不足からか
すぐに息が上がってしまう
それでも体は止まらなかった
止められなかった
目の前の赤い信号も無視して
道路に飛び出す
急停車した車から
怒鳴り声が聞こえたが
そんなの気にしてる場合じゃなくて
自分が危機に晒されることより
よっぽど
ころんを失うことが
怖いと思った
自分でも不思議だった
もう俺は
彼の特別ではないのに
なぜか
俺が行かなきゃ、と
本能が言っているようだった
N.
なーくんの言葉が
頭の中で反芻する
やだ
いやだ
待って
行かないで
ごめん
1人にしてごめん
意気地無しでごめん
まだ俺は
ころんに謝ってない
本当の気持ちを
伝えてない
だから
お願い
無事でいて
S.
届くはずのない言葉を
手放した君に向かって
叫ぶ
誰もいない道路に
声が反響して
風と共に
長く余韻が残った
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ
なごみ