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紅葉が綺麗だなんて、思った試しが無い。

そんな俺が、『季節屋』だなんて店に辿り着いたのは、神さまの冷やかしか何かなんだろうか。

その店は、葉が赤く、所謂"紅葉"している紅葉が立ち並ぶ並木道を歩いた先にあった。

アンティークの扉を押すと、店の天井にぶら下がったランプが暖色の光で俺を照らす。

ゴテゴテと色んなものが所狭しと置かれた店内の奥にあるカウンターには、背の丸まった老婆が一人。

軽く会釈だけすると、老婆は何も言わず無言で俺に『秋』とラベルが貼られた赤い缶を手渡した。

家に帰ってその缶を開けてみると、中には「あなたに素敵な秋が訪れますように」とだけ書かれた小さな紙だけが入っていた。

なんだこれ、と缶を裏返してみると、底に無駄に達筆な字で「要返却、ただし返しに来る時はじっくりと行き道の景色を見ておいで下さいませ」という文字が目に入った。

一層「なんだこれ」という気持ちが膨らんだが、まあ……"要返却"と書かれてしまってあっては仕方がない。

俺は缶をジャケットのポケットに突っ込み、あの『綺麗な紅葉の並木道』の果てにある店へと、足を進めた。

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