テラーノベル
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鉛のような扉までの距離がとても短く感じた。今までこの部屋から出たことがなく、距離感覚さえも狂っていたのかもしれない。扉をノックしようとズボンのポケットに突っ込んでいた利き手を引っ張り出してふと思い出した。
……『あの絵』はどこだ?そもそも持って行ったのか?まだあの机の上に乗っている?あの上司に深堀りされたら面倒なことになるぞ……脳裏では次々と苦い想像が過っては消えていく。
三日月 乃愛
自分に何度も言い聞かせて震える手を扉に伸ばす。謎の緊張感と少しの恐怖………もはや恐怖を感じられる自分を褒めるべきかもしれない。そう、恐怖を感じない奴こそ異常、狂っているんだ。
三日月 乃愛
不気味なほど静寂な廊下に一人の狂人の笑い声が響く。そんな静寂を切り裂くように後ろから声を掛けられた。
???
温度の感じない声だった。恐る恐る振り向くと、そこには彼よりも背の低い男がいた。水色のインナーカラーが入った黒髪に黒いパーカーというずいぶんとラフの格好だ。右目には黒い眼帯が巻き付けてある。大人というよりは高校生ぐらいの印象を受ける。背伸びでもしているんだろうか。高校生というと一番大人に憧れる時期だろうし。いや、それよりさっきの独り言を聞かれていたら………?サッと体中を冷や汗が通り抜ける。
三日月 乃愛
独り言、聞いてましたか?と言いかけたところ、少年に唇を人差し指で塞がれた。反射的に後ろに後ずさる。本人は小悪魔のように声を押さえて笑っていた。
???
じゃあねと笑顔で手を振る彼の態度に一気に力が抜けた。……一瞬、息が止まった。首を後ろから突然掴まれたかのように抵抗できない謎の苦しさ。胸が焼けるように熱くなった。心臓を掴まれたような、全てが見透かされたような……
自分が思っている以上に世界というものは狂っている。あいつは「ジュリエ」と呼び捨てにしていたということから彼女と同年代、同じ立場…?ゲームマスター同士なのか?
三日月 乃愛
去っていく悪戯っ子の背中にまたも独り言を零して拳を握り締める。狂っている世界を正せるのは自分だけだ。この会社で正常なのは、正常だと自覚できるのはきっと自分だけだ。彼は人間の醜さが渦巻く羅生門を開けて上司の待つ閉塞空間へと足を踏み入れた。
ジュリエ・シュガー
ずいぶんとリラックスしたように椅子に座っていた彼女は、監視画面から目を逸らして彼に視線を向けた。満面の笑み、だがその笑顔の先には計り知れない『何か』があった。異常を通り越した狂気、狂気を通り越した正常……とでも言うべきか。
三日月 乃愛
ジュリエ・シュガー
今さら何言ってんだ?と言うように怪訝そうな表情をする彼女には触れず、近くに置いてあった丸椅子を彼女の側に置き、腰を下ろした。近くに人がいるというのは少し不思議な感覚だ。今まではずっとずっと独りだったから。
ジュリエ・シュガー
三日月 乃愛
彼女には救われたし感謝している。それは本心だが、彼女とは分かり合えないかもしれない。彼は一度も参加者に対して『可哀想』だとか『可愛い』だとか思ったことはない。それは今後も変わらないだろう。ちょうどゲームマスターがここにいることだし、聞いておくかと口を開く。
三日月 乃愛
ジュリエ・シュガー
ジュリエ・シュガー
浮かれた彼女の声がどこか遠くに感じた。エリアBは確かたった5日で終わった死亡遊戯のはずだ。それすなわち彼女のゲーム進行が『そうさせた』のだろう。ところでジュリエがエリアBのゲームマスターならエリアAは一体誰なのだろうか?
三日月 乃愛
ジュリエ・シュガー
三日月 乃愛
ジュリエ・シュガー
そう言う彼女の様子に少しの安心を覚え、彼女の横からカメラを覗き見た。
星羅がいなくなったことで変わったことといえば部屋の空気が少しくすんだことぐらいだった。空気が重くなり、忌まわしい笑顔も消えた。彼は少しだけ口角を上げた。悪意などではない、当然の摂理だ。
新羅 胡桃
涙を流してそう懇願するのはシンデレラ、新羅 胡桃。体育館の床にペタッと座り込んでいたため、足には斑な血がついてしまった。
星見 空
シンデレラの頭を優しく愛でるのは王子様、星見 空。九十九 星羅を殺したサイコパス。足についた手形の血はもう赤黒く乾いてしまった。まるで罪から逃れることができたように。
高梨 慧紅
独りで闘志を燃やすのは高梨 慧紅。探偵変態おじさん。と、その横では悲劇のシンデレラ気取り女、笹ヶ月 莉魔が虚ろな顔で何かを呟いていた。マイクの調整すら今はする気にはなれなかった。
新羅 胡桃
シンデレラは涙を拭い、その可憐な瞳に決意を灯した。
星見 空
……人を殺した奴が何言ってんだ。馬鹿馬鹿しい。そのとき、わざとらしい少年の声が薄暗い体育館に響いた。
???
手を口元に開けてて目を見開き、さも『びっくり』といった表情を浮かべた水色のインナーカラーが入った黒髪の男…………間違いなく廊下で会った『あの男』だった。
三日月 乃愛
ふと声に出したその言葉に再びわざとらしい声を上げたのはジュリエだった。それは数年ぶりの仲間との再会を懐かしむような嬉しさが滲み出た声色だった。
ジュリエ・シュガー
三日月 乃愛
ジュリエ・シュガー
あの見た目で34歳とは……背筋に冷たいものが伝っていった。若作りっていうレベルで済むのか?まるで時が止まってるみたいだった。足もスラーっとしてたし顔も小さいし高校生モデルと言われても全然信じるレベルなのに………
三日月 乃愛
ジュリエ・シュガー
人差し指を彼女自身の唇に当ててウインクして見せた。さすがに女性に年齢を聞くのはタブーだったか…と思っている遅れた思考が現実に戻ってきた。
三日月 乃愛
思わず漏れ出た本音を逃がすことなく、彼女は明らか不満そうに頬を膨らませた。
ジュリエ・シュガー
そのとき、突然ちょうど4回の礼儀正しいノックが響いた。聞き慣れて安心感がある。いつもより少し慌てたようなスピードだった。
コメント
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♥️100ありがとうございます。