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桃side
ステージ全体を照らす、 様々な色が交差したライトアップ。 沸き上がる観客達は 黄色い声援を発しながら、 大きな歓声をライブハウス内に広げる
いふ
汗水を垂らしながらも、 笑顔とファンサを絶やさない君。 誰よりも輝くその姿に、 俺は一瞬で視線を奪われた。
『家の事情で行けなくなったから』と 大学の友人から譲り受けた、 とある地下アイドルのライブ。 興味は一切無かったものの、 折角当てたのに勿体ないという精神で 財布とスマホだけ、 ほぼ手ぶらの状態でこの日を迎えた。
ないこ
ふと、ステージの上で難しそうな 英語の歌詞を完璧に歌う 彼と視線が合う。 彼は一瞬驚いた様に目を開いたが、 すぐに視線を逸らし また違うファンへと手を振った。
ないこ
いつ見たのか、 どこか見覚えのある雰囲気を纏う彼。 結局ライブが終わってからも、 俺は彼に対する見覚えは勘違いだったと思うほどに 全く思い出す事ができなかった。
スタッフ
スタッフ
友人はどうやらCDも購入していたらしく、ライブのチケットと同封されていた握手券を手に持ち、 看板に書かれた名前と同じ者を探す。 そのメンバーの列に並び 前の人の握手会が終わって、 俺の番がきた時__
彼は俺の顔を見て暫く硬直すると、 強い力でいきなり俺の腕を掴んで 声を、出した。
いふ
ないこ
ないこ
ないこ
いふ
彼はベッドの上で軽く伸びをすると、 布団を抱き枕の様に抱え 寝ぼけた瞳で俺を捉える。 そして再び目を閉じると スマホのアラームを長い指で止め、 枕に顔を埋めた。
いふ
ないこ
朝から怒鳴り声を上げる俺に、 彼は『うるさい...』と掠れた声で言いながら横目で俺を見た。 夜空の様に青い瞳に見透かされ、 俺は一瞬肩をピクリと震わせる。
それから布団を抱いていた腕を 俺の方に伸ばし、 俺の右腕を掴むと自分の体に ぐいっと引き寄せた。 ...小さく唇と唇が触れ合う。
いふ
ないこ
ライブハウスで人気を博している 地下アイドルグループのセンター、 "青尾いふ"。 俺の幼馴染であり、 アイドルとして許されない俺の恋人である彼は...悪戯っ子の様に微笑んだ。
いふ
ないこ
焦った様に急足で玄関を飛び出して いったまろに、 俺は「いってらっしゃい」と 軽く手を振る。
ないこ
まろも出かけ、 静さだけが残ったリビングで 俺は嬉々とした気持ちの中 棚からとある物を取り出す。 早起きのせいで眠気が覚めない 目を擦り、 ソファに飛び込んだ俺は 取り出した物を機械にセットし そっと瞳を閉じた。
いふ
ないこ
ないこ
と寝そうになっていたのも束の間、 俺は音楽が聴こえてきたと同時に 外まで聞こえてしまいそうな声量で そう叫ぶ。 __そう聴いているのは、 まろが所属するアイドルグループ 『iris』のCD。
ライブハウスで再会を果たした 俺とまろは、最終的にまろからの告白で恋人関係になったのだが、 他にももう一つ変わった事があった。 それは、俺が『iris』の大ファンになってしまった事。
勿論日常のまろも好きなのだが、 正直『iris』の時のまろがかっこよく見えてしまって、 仕方がない。 ライブも行きたいし、 グッズも欲しい。
ただ前にまろの前でCDを聴いていた事があったのだが、 その時に『俺が目の前にいるんだから、あんまりオタクムーブしないで』 と注意を受けてしまった。 つまりアイドルとしての俺の事は あまり見ないで、ということ。
しかし、いくらまろからのお願いであるにしても、 俺は辞められる訳が無い。 そんな時から始まったのだ、 まろが出掛けてからのお楽しみが。
ないこ
音楽プレーヤーを持ち、 次に流す曲を考えていると... ふと、視線に一つの物が入った。
猫と犬の柄をした巾着袋。 それから、細長い筒の形をして、100均で買ってきたカバーを纏う 黒い水筒。
ないこ
ないこ
あれから、自転車を走らせて ライブハウスまで行った俺は、 建物の前でスマホを取り出す。 家を出る前にまろへ送った、 『弁当忘れてる!』というメッセージにはリハーサルで見ていないのか、 既読が付いていなかった。
ないこ
中に入っても案の定、 スタッフは誰一人としていなかったが だからといって勝手に建物へ 入る事も躊躇われる。 それに入った所で、 俺にはまろの楽屋なんてわかりもしないのだ。
ないこ
しかしここから動かなくても、 側から見たら"関係者でも無いのに、 建物の裏口の前で彷徨く不審者" でしか無くて。 お先真っ暗の状態で立ち尽くしていると、ふと俺の肩を誰かが 優しく叩いた。
ないこ
いよいよ警察かと驚いた俺は、 反射的にそう声を出した。 しかし返ってきた返事は、 どこか聞き覚えのある声で。
?
ないこ
ないこ
恐る恐る振り返ると、 そこには__『iris』のメンバーの一人である、白石初兎がいた。 予期せぬ出会い人に 俺は思わずいつも呼んでいる愛称で 彼の名前を叫んだ。
?
ないこ
初兎ちゃんの後ろから、 今度は同じくメンバーの一人である "相水ほとけ"が姿を現す。 ここまで走ってきたのか、 呼吸を整えながら二人は俺に不思議そうな表情で言った。
初兎
ほとけ
初兎
ないこ
ほとけ
なにか勘違いをされていそうだと 察した俺は、初兎ちゃんの言葉を遮って首を横に振る。 そして紙袋に入れられた弁当を 二人の前に出すと 事情を説明し始めた。
ないこ
いふ
ないこ
説明を終え、どうやら納得してくれたらしい二人は、『リハーサル途中のまろを連れてくる』 と言って建物へと入っていった。 暫く外で待っていると、 本番さながらの衣装を纏ったまろが 焦った様な表情で走ってくる。
いふ
ないこ
「はーい...」と苦笑したまろに釣られて、俺も思わずため息では無く 笑いがこぼれ落ちる。 するとまろの背後から小さく、 赤い髪の男の子と黒い髪の男性が顔を覗かせた。
?
ないこ
ないこ
彼は『iris』のメンバーの一人、 "赤崎りうら"。 どうやら彼もリハーサルの途中だったらしく、まろと色違いの衣装を 身に纏っていた。
?
ないこ
俺の顔をマジマジと見つめるのは、 同じく『iris』のメンバー "黒松悠佑"。 ぴよにき、と呼ばれるペアを 思わぬ形で見る事ができた俺は 鼓動がびくんと跳ねた。
ほとけ
初兎
ないこ
ないこ
まろの恋人だとわかった瞬間、 興味が湧いたのか俺に段々と近づいてくるメンバーの皆さん。 俺は整ったその顔を見つめる事ができなくて、思わず視線を逸らした。
いふ
ないこ
俺を庇う様に メンバーの間に立ったまろは、 俺の方を振り返って 「弁当、ありがとう」と囁いた。 その言葉が「早く帰れ」と言っている様にしか感じなくて、 俺は冷や汗の中一礼して その場から去った。
りうら
ほとけ
悠佑
いふ
俺が弁当を届けてから数時間、 ライブで疲れ果てたのか はたまた別の理由か、 まろがくたびれた様子で帰宅してきた
いふ
ないこ
「お風呂沸いてるよ」、 そう言う前にまろは玄関まで迎えにきた俺の肩を掴み__ 床へと押し倒した。
ないこ
いふ
耳元で囁かれる声に、 俺の体はびくっと震える。 しかしまろは止めることをせず、 寧ろその反応を楽しんでいるかの様に さらに囁き続けた。
いふ
ないこ
突如彼の口から出てきた"iris"という 単語に、俺は思わず顔を上げて 聞き返す。 手首も身体も固定されていて動かない、もう逃げ場は無かった。
ないこ
いふ
まろはそう呟いたと同時に、 俺の口元に優しく口付ける。 あまりに前の言葉と繋がらない行動に俺は思わず顔を赤くした。
ないこ
いふ
重く聞いているだけで心地よい低音は 俺の言葉を遮って 話を紡ぐ。 小さく頬を膨らませる彼の様子は、 どこか幼さがあった。
いふ
いふ
ないこ
羞恥心で耳まで熱を帯びる。 もしかしてあの後、 メンバーに揶揄われたり したのだろうか。
申し訳ない気持ちにはなりつつ、 俺は突如変わったまろの言い分に そっと問いかけをする。
ないこ
いふ
弱々しい声でそう話すまろ。 今の彼にはアイドルとして 堂々たる姿でステージに立ついふの面影は、ほぼ無かった。
それは決して悪い意味ではなく、 なんだか完璧でいるアイドルの彼とは違う一般人としての姿で。 本当に少しだけだけど、 親近感を感じた。
ないこ
いふ
首を傾げるまろの胸の服を引っ張って、俺の体とまろの体を密着させる。 そして驚いて目を開く彼の唇に... そっと触れ合うだけの口付けをした。
ないこ
ないこ
彼は不意をつかれた様に、 驚いた表情の中、 顔を赤く染まらせた。 そしてもう一度、 今度は互いを感じ合う様に キスを、する。
いふ
ないこ
カプチーノの様に甘ったるい空気感が 玄関の前に充満したのが、 自分たちでもわかった。
うらら
うらら
うらら
うらら
うらら
うらら
うらら
うらら