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桃赤 〜もう一度君の名を〜

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桃赤 〜もう一度君の名を〜

1 - 桃赤 〜もう一度君の名を〜

♥

1,210

2022年04月04日

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桃赤 感動系だと思います

目が見えない君

人とは違ったオッドアイで開かれた瞳には光が宿っていない

普通の人はそんな莉犬を怖がったり、嫌ったりするだろうけど俺は違う

俺は莉犬を見た時からとても綺麗だと思ったよ

15分ある昼休み

俺は階段を降りて中庭にある一本の大きな木に向かった

中庭に続くドアを開けると木の下で誰かが木にもたれ掛かっている

それが誰か分かっている俺は足音を立てないように近づく

__....さとちゃん?

木に手を置いた瞬間莉犬の犬耳が動いて振り返り俺の名前を呼ぶ

俺だよという意味で肩を2回叩くと莉犬の口角が上がり八重歯が見えた

さとちゃん!

肩に置いた手を辿って俺に抱きつく莉犬は世界で1番可愛らしいと思う

近くにはるぅとも居て眉を下げて笑っている

今日もバレましたねw

るぅとの言葉に手話で返して、お腹あたりに頰を擦り寄せてくる莉犬の頭を撫でながらしゃがむ

ふとあの日のことを思い出した

莉犬とは10歳の時病室で出会った

その時の俺と莉犬はそこまで悪くはなかった

病院先生

此処がさとみくんの病室だよ

先生に勧められて中に入ると4個のベッドが置かれていてまだ誰も使っていない様だった

1つを除いて

奥の窓際のベッドはカーテンが閉められている

シャッと音が鳴って出てきたのは女の人

赤~母~

あら、新しい子?

閉められていくカーテンの隙間から見えたのは同い年ぐらいの小さな男の子

病院先生

はい今日から暫く入院する事になったんです

赤~母~

そうなの、こんにちは私は赤鬼って言います

目の前でしゃがんだ女の人は顔が整っていて淡い赤の髪色に黄色の瞳をしていた

……ぁ…っ

赤~母~

…?

少し漏らした声に女の人は首を傾げる

病院先生

あ、この子喉の病気なんです

赤~母~

そうだったの…ごめんなさい、無理に喋らないでいいわ

赤~母~

でも莉犬に新しいお友達が出来て嬉しいわ。これからよろしくね

そう言うと女の人は先生に軽く挨拶をして病室から出ていった

病院先生

さとみくんのベッドは莉犬くんの隣だからね

後で荷物持って来るねと言って先生も病室を出ていった

閉ざされた扉を見つめた後俺は歩いてカーテンを開けると視界に入ってきたのは

窓の外を見つめる1人の男の子

ゆっくりと振り向かれて露わになった顔はあの女の人と似ていた

……だぁれ?

瞬きをする瞳には2つの色があってその瞳に惹きつけられる感覚を覚える

全体的に可愛らしさと何処か儚い空気を纏う君に目が離せなかった

さっき話してた新しい子?

ぁ………ぅ、ん

そっか!これからよろしくね!

俺の名前は莉犬っていうの!

君の名前は?と聞かれて俺は下を向く

声が出なかった

病院先生

さとみくーん、あ莉犬くん!

こんにちは先生

病院先生

ごめんね。この子はさとみくんって言って今日から莉犬くんの隣で過ごす事になったの

病院先生

それでさとみくんは喉の病気であまり声が出せないから無理させないでね

うん!分かった

病院先生

さとみくんも、莉犬くんは目の病気だから無理させないでね

その声に頷いて彼に視線を戻す

気づいたのかコテっと首を傾げる姿に親子だななんて思いながら頭にぽすっと手を置いた

彼は目を見開き固まった

わしゃわしゃと撫でれば我に帰ったかのようにキャンキャンと吠えている

なんだか不思議な奴

それが第一印象だった

_さとちゃん?

ハッと我に帰り莉犬に視線を向ける

もしかしてボーッとしてた?w

してたねw

早くしないと昼休み終わっちゃうしお弁当食べましょ

そんな会話をして弁当を食べていると他3人が合流してみんなでご飯を食べた

そろそろチャイム鳴るね

わんわんまたねぇ〜

気ぃつけてなー

僕先生に呼ばれてたから先に行くね

遠のいていく4人に手を振っていると莉犬が何かを探し始める

不思議に思って右手を頭に置くと

!!!

と何かを見つけたかのように頭に置いた手に自分の手を重ねた

すると自分の左手を俺の手と合わせて絡めてくる

よし、じゃあ行こ!

莉犬は右手で白状を持って歩き始めた

……………

え、可愛すぎるのだが

普通に繋がれた手だったが指をずらして恋人繋ぎをする

莉犬は照れたように頰を赤く染めてはにかむ

こんな幸せな時間が続けばいいのに

神様は意地悪だ

ある日告げられた言葉

病院先生

癌が進んでいて…っこのままでは……命を落とすかもしれません

桃~母~

そんな……っ

病院先生

手術することを勧めます

桃~母~

ですがそれって成功率がとても低いんでしょ?!

桃~母~

失敗したら即死んじゃうんでしょ!

いやよ!そんなの!と泣き崩れる母さんを見つめることしかできなかった

病院先生

これは本人のさとみさんが決めることです

先生は泣き声が響く白い空間の中でそう冷たく言い放った

さとみくんは…?

いつもの場所

皆んなで昼食を食べている時ずっと感じていた違和感を口に出す

えっと……さとみくんは…

………家族で旅行行く事になったんだって

…………そっか!俺に教えてくれればいいのに〜!

…ねぇみんな

俺すぐ分かったよ

それが嘘だって事

…おみあげ買ってきてくるかなー

明らかにいつもより声が低いよころちゃん

変なの買ってきたりしてな…w

上手く笑えてないよジェルくん

真っ暗な視界の中俺は残りの飲むゼリーを食べた

あれから数日後

サッと言う草を踏む音に振り向く

肩を2回叩かれた

…さとちゃん!

いつものように抱きついてまた皆んなで昼食を食べた

さとちゃん、ちょっと行きたいところがあるんだよね

そう言うと俺の手を握ってくれる

図書室に行きたいの!

ゆっくり、優しく引っ張ってくれてそれについて行く

着いたのか立ち止まった時俺は手の主に話しかけた

………もういいよ、ころちゃん

もう、いいんだよ

…っごめん…っ

その声は予想してた通りさとみくんじゃない

今にも泣きそうな声をするころちゃんに微笑んで

もう…騙さなくていいんだよ

告げた言葉にころちゃんはとうとう声を押し殺して泣いて俺を抱きしめた

何度も謝るころちゃんに「いいんだよ」と背中を摩る

…………さとみくんは、?

…うぅ、今っ病院で…ぁ…っ手術中…っひぐ…って事だけ、わかっ、てて

嗚咽を吐きながらも話してくれるころちゃんに相槌を打ちながら聞いていく

手術しないと………っ死んじゃうかもって…ぇ…っあぁう…でも手術、してっも成功する確率が…0っに等しくて……

………それでも手術を選んだんだね。さとちゃんは

コクコクと頷くころちゃんの頭を撫でる

大丈夫。きっと大丈夫

死んじゃったらどうしよぉぉ

ころちゃんは耐えきれなくなって声を出して泣いた

いゃあだぁぁああああ…っうぁああん

そんなころちゃんを強く抱きしめることしか俺には出来なかった

ころちゃんが泣き止んだ頃には5時間目が始まって2人屋上でサボる事にした

ズビ…っグス

泣き止んだ?

自販機でころちゃんの好きなバナナオレを買って差し出す

この学校の自販機は点字が付いていて良かったとつくづく思う

…ズビ…莉犬くんは、泣かないの…?

んー……ただ、今が泣く時じゃないって思ってるんだと思う

今辛いのは、頑張ってるのはさとちゃんだから

……強いね

……慣れてる、から

昔の2人の友達

亡くなった2人の友達

………わんわん

…なぁに?めぇめぇ

成功、すると良いね

…そうだね

案外ピンピンして戻ってきたりしてw

それだったら俺が怒るわw

ころちゃんあんなに泣いてたんだぞー!って

それは恥ずかしいからやめて!w

えー?w

久しぶりに楽しい空間ができた

…俺さぁ

うん?

一回だけさとみくんに名前呼ばれたんだよね

『受けます』

どうして言ったのかわからない

成功しない確率が99以上なのに

勿論母さんには猛反対された

「少しでも長く生きてほしい」と

それでも手術を受けたいという気持ちの方が強かった

どうしても受けたかった

ギシッとベッドが軋む

久しぶりの病室は偶然なのか昔と同じ病室だった

そういえばころんは上手くやってくれているだろうか

みんなは黙っててくれているだろうか

もし成功して、今までのことを知ったら莉犬はどう思うだろうか

怒るかな…それとも泣くかな

逆に冷静だったりw

喉元に手を当てる

最近焼けるように痛い

本当に悪くなっているんだろうと思い知らされる

病院先生

さとみさん。お時間です

その言葉に俺は立ち上がった

カッ、カッと小さく靴音を鳴かしながら階段を降りる

あれから5年が経った

同じ飛行機に乗り合わせた人達に交ざって空港内を歩く

手術は成功したのに、いざとなったらどんな顔して会えばいいか分からなくなって親に勧められて1人で外国に行った

外に出るとメッセージに送られてきた車があり、それに乗り込むと久しぶりに会った両親

桃~母~

ハァい!帰国子女!

それ女だからw

桃~父~

じゃあ帰るか我が家に

動き出す車に身を委ねて2人の会話をぼんやりと聞いた

数十分車に揺られて着いたのは変わらない俺の家

ドアに手をかけると何処か力が入って深呼吸を1つする

開けた瞬間香る懐かしい匂いに安心した

自分の部屋に荷物を置き終えた時母さんが顔を出した

赤~母~

久しぶりに散歩してきたら?後はやっておくわ

んー

財布とスマホをズボンのポケットに入れて家を出る

懐かしいっつってもあんま数は無いんだけど

あるとするならよく皆んなで遊んだ公園と

あとは、学校…か

ゆっくりと昔を思い出すように通学路だった道を歩いていく

30分ほど歩いて見えてくるのは懐かしい学校

門を開けてグラウンド、玄関、廊下と歩いて自分の教室に行こうと階段を登る

ガラッと開くと学生生活を思い出して全てが懐かしく感じる

自分の座っていた席に行くと俺が油性ペンで書いたジェルの似顔絵が残っていてこの席に座ってる奴ら可哀想なんて呑気に考えた

よく見ると所々消えていて歴史を感じる

結構堪能したし教室を出て他を回ろうと廊下を歩いてる時

俺は少し固まった後全力で足を動かした

息を切らして中庭に繋がるドアを開ける

そこにはさっき見た人そのもので

彼はあの日の様に木に体重をかけて座っていた

息を整えて近づいていく

___....さとちゃん?

木に手を置いた瞬間彼の犬耳が動いて俺の名前を呼ぶ

首を動かすことはなくて表情が見えない

何かが込み上げてくる感覚に襲われて胸が苦しくなる

目頭が熱くなって視界が滲んでいく

震える手で肩を2回叩くと彼は振り向き俺に抱きついて勢いのあまり俺も地面に座り込んだ

見えた彼の瞳には涙が今にも溢れてしまいそうな程ためていて、眉を顰めていた

声をあげて泣く彼をぎゅっと抱きしめて背中を摩る

何度も名前を呼ぶ声に歯を食いしばった

…っ…り、いぬ

っ莉犬……ごめ…ごめんな、莉犬…っ

ついに溢れた涙は止まることはなくて莉犬の肩に顔を埋めた

昔に一度だけ莉犬の名前を呼んだことがある

13歳の病院で入院してる間に病状が悪化した時ずっと手を握ってくれていた莉犬に口を動かして発した13歳唯一のひと言

それ以来なんの言葉も出なくなったのを覚えている

あの時手術を受けたいと言った時の気持ちが今なら分かる気がした

きっと、もう一度君の名前を呼びたかったんだ

俺に縋りついて声を出しながら泣き続ける莉犬の頭を撫でる

馬鹿…っばかぁ…!

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を服の裾で拭って俺が微笑むと、また更に涙が溢れる莉犬

そんな姿でさえ愛おしく感じて抱きしめる力を強くする

うぉぉぉぉおおおおりゃあああああああああああ!!!!!!

その時、遠くからものすごい声が聞こえてきて振り返る時間もなく背中に飛び蹴りが飛んできた

い''っっっっっっ!!!!

ナイス!!るぅちゃん!!

ズキズキと痛む背中を押さえながら声のする方を向くと全員がいて、凄まじい速さで俺の目の前にころんが来た

馬鹿じゃ無いの!!!!!連絡もしないでさ!!!

声の音量に後退りころんを見ると目に涙をためて眉間に皺を寄せて手を強く握っていて泣くのを我慢している様に見えた

そうだよ、さとみくん

ころんの背中を摩るなーくんは真剣な表情をしている

っごめん、なさい

……ホンマに治ったんやな

うん、

泣き止まない信号機組をあやしていたジェルが俺を見つめる

でも、何で皆んな此処に

さとみくんのお母さんから電話が来たの

そっか

よぉし、皆んなこれから食べに行こ!

此処にお財布がいるから!

なーくんは俺を指差す

やっぱここは寿司じゃ無いですか?

いやあえて高いウナギにしてもいいと思う

欲しいもん全部食お

青黄

それだ

よし決定!

いやさっきまで泣いとったやん

てか俺が奢るの

これで許すんだからいいでしょ

あぁ、まぁまぁまぁ

行くぞぉぉおおおおお

置いてくぞぉおおお!

財布置いてっちゃ意味ねぇで〜

走っていく4人を見つめる

ふふ、仲良いよねぇ

…なぁ莉犬。お前目、

さとちゃんが頑張ったから

光の宿った澄んで綺麗な瞳が微かに揺れて微笑む

早く行こ!さとちゃん!!

はいはい

~ end ~

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