コメント
1件
めっちゃいい話!!! とっても面白かったです! これの続編もみてみたいです😬
目覚めると見られない景色
嗅ぎなれない匂い
窓からは光が射し込んでくる
昨日は上司との飲み会だったはず
そういえば無理やり飲まされて…
そこからの記憶がない
──頭痛い…
──とりあえずこの部屋から出よう
ガチャ
肌寒い廊下
──マンション…かな
まるで誰も住んでいないかのように 全く生活感がない
ガチャ
リビングにはソファーとテレビ
カーテンは全て閉まってしまっている
テレビにはホコリが被っていて 使ってなさそうだ
キッチンのカウンターテーブルには ポツンとパンケーキと置き手紙が 置いてあった
置き手紙にはこう書いてあった
どこかのだれかさん
──助けてくれたのか
誰かわからないけど パンケーキまで作ってくれて 彼の優しさを感じる
しかし、どこか引っ掛かる
──“どこかのだれかさん”
あなたは本当の名を名乗らない
──お腹空いた
訳のわからないまま 彼が作ったパンケーキを机に運ぶ
少し冷めているけれど ふわふわとした生地と シロップのほんのりした甘さが 口のなかに溶ける
──なぜ助けてくれたのか
──なぜこんなにおいしい パンケーキまで つくってくれたのか
──なぜ名を名乗らないのか
なぞなぞを解くみたいに すごく頭を使う
とりあえずなにかあったときのために カバンの中にあるスマホを 探さなきゃ
──そこまで怪しい人では なさそうだけど…
パンケーキを食べ終えて お皿を洗いカバンを探す
玄関、クローゼット、リビング、 ダイニング、寝室、トイレ、お風呂
しかし、カバンはどこにもなかった
リビングに戻り、 テレビをつける
──カバンがないと帰ろうにも 帰れないじゃん
頭が痛くてソファーに寝転がり、 そのまま眠りについてしまった
1:36
目覚めても私はまだ ”どこかのだれかさん“の家の中
どこかのだれかさん
すると見知らぬ男の人の声が
どこかのだれかさん
体を起こすと キッチンにたっている男の人の姿
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
俺様すぎて少しムカついたから この人みたいに嘘をついた
川上愛 / カワカミアイ
少し困ったような顔をしたけど それから笑って
どこかのだれかさん
──本当に変わった人に 助けてもらわれちゃったなぁ
川上愛 / カワカミアイ
──あっ。でもカバン…。
どこかのだれかさん
──やっぱり
この人は最初から 私を返す気がなかったんだ
でもそれくらい私もわかってた
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
お金に困っていたから 少し心が揺れた
固く守られていた私の心に 突き刺さったのと、 この人へのうざさが突き刺さった
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
そして彼はニヤッと笑った
どこかのだれかさん
部屋を出る前に聞こえたこの一言
──絶対惚れてみるもんか
一人、お風呂であっかんべーをした
どこかのだれかさん
川上愛 / カワカミアイ
どこかのだれかさん
この上から目線。 本当にムカつく
どこかのだれかさん
私が前に座ったのに 何も話さない“どこかのだれかさん”
ただ私をジーーっと見つめてくるだけ
川上愛 / カワカミアイ
それでも話さないから 私もジーーっと見つめるけど 彼は全く動じない
──惚れたなら照れるくらいしろよ
それでもダメだから 私は目をそらした
そしたらやっと彼が口を開いた
どこかのだれかさん
急に話し始めたと思ったら 彼も目をそらした
どこかのだれかさん
──だからパンケーキが あんなに美味しかったんだ
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
俯いて話を止めた “どこかのだれかさん”
自分がわからない “どこかのだれかさん”
普段はあんなに生意気なのに 裏では一人で抱え込んでる
そんな"どこかのだれかさん"の背中を 黙ってさすってあげた
すると一滴、彼の涙が 私の膝に落ちた
きっと、今まで誰にも 頼ってなかったのだろう
数分経って、
どこかのだれかさん
川上愛 / カワカミアイ
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
川上愛 / カワカミアイ
どこかのだれかさん
川上愛 / カワカミアイ
どこかのだれかさん
川上愛 / カワカミアイ
2:04
日付がとっくに過ぎてても このやり取りはなかなか終わらなそう
ベッドはシングル
私がベッドで 敷き布団がないから “どこかのだれかさん”はソファー
それから、“どこかのだれかさん” っていいにくいから最終的には “どこちゃん”になった
絶対いやだって言われたけど なんか上から目線な呼び名だから こっちは満足
そしてどこちゃんが 寝る前に話してくれたこと
どこかのだれかさん
嬉しそうだったけど、 部屋を出る前に私の目に映ったのは
悲しそうな顔だった
どこかのだれかさん
そんなどこちゃんの声で目覚めた朝
今日でどこちゃんの家に住み始めて 二週間
喧嘩ばかりの毎日だけど
なんだかんだ楽しい
毎日作ってくれるご飯は 本当にコックになりたかったんだなぁ と毎回思わせられる
だからおいしいって言ってるけど 最近気がついた
おいしいって言うと 悲しそうな顔をするんだ
だから今日、毎日昼から ホストの仕事に出かけるどこちゃんに家を出る前に聞いてみた
川上愛 / カワカミアイ
──ほら。悲しそうな顔した
川上愛 / カワカミアイ
すると黙ってドアに手をかけた どこちゃんの腕を掴んだ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
そんなこと思ってなかったけど 勝手に口が動いた
思ったなかったっていうか 普段うざいから。
すると、どこちゃんは無視して 家を出ていった
どこちゃんが作ってくれたお昼ご飯を 食べようと思い、キッチンに向かった
ふと、棚にあるダンボールが 気になった
なんだかホコリまみれなのに 物がたくさん入ってる
川上愛 / カワカミアイ
──ほんっとどこちゃんったら…
普段あまり家にいないから 何もかもホコリっぽい
中にはぐちゃぐちゃに 本が入っていた
しかも、その本は全て 料理本
そしてその本の1ページ1ページに メモ紙が張られていた
コックになりたいと本気で思ってた どこちゃんの努力
──私が惚れたら、どこちゃんは もう一度夢を追いかけてくれるのかな
川上愛 / カワカミアイ
頭の中のどこちゃんを 書き消すように言ったけど
どこちゃんは頭から離れないみたい
1:25
どこかのだれかさん
どこちゃんが帰ってきた
ガチャ
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
そういって疲れた顔して 荷物を置いた
どこかのだれかさん
その瞬間どこちゃんは固まった
どこかのだれかさん
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
そう。カバンは段ボールの中に この料理本と一緒に入っていたのだ
でもどこちゃんはカバンを 見つけたこと、それよりも料理本を 見付けたことに驚いてるみたい
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
そういって私が読んでいた料理本を 段ボールに片付けだしたどこちゃん
そんなどこちゃんに 私はカチンときた
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
叫んだ
どこちゃんの頭に 叩き込まれるように。
どこちゃんは下を向いている
どこかのだれかさん
そして私のほうを見て笑って
どこかのだれかさん
って。
普段はにやけるどこちゃんが ニコッと笑うのは初めてみた
──そんな顔されたら照れるじゃん
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
どこかのだれかさん
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
ポンポンっとカバンの ホコリをはらった
どこかのだれかさん
聞こえたのか気のせいなのか わからないくらいの声で呟いた
──気のせいだよね…
どこかのだれかさん
──本当にそう思ってるの?
だって悲しそうだもん
寂しそうだもん
正直、どこちゃんのそばに いてあげたいと思った
──この人なら……
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこちゃんも私も 照れてるみたい
どこかのだれかさん
まだ名前を教えていなかった私
川上愛 / カワカミアイ
どこかのだれかさん
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
どこかのだれかさん
川上愛 / カワカミアイ
どこかのだれかさん
何回も繰り返すから 少し恥ずかしくなって
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
どこちゃんは少し 考えたようだったけど
どこかのだれかさん
なんて言って
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
戸部龍吾 / トベリョウゴ
まさか教えてくれるなんて 思ってなかったからついびっくりして 黙り混んでしまった
戸部龍吾 / トベリョウゴ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
そう言ったらクスッと笑って
戸部龍吾 / トベリョウゴ
なんて言って 私の頭をクシャッっとしてきた
川上愛 / カワカミアイ
戸部龍吾 / トベリョウゴ
川上愛 / カワカミアイ
戸部龍吾 / トベリョウゴ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
戸部龍吾 / トベリョウゴ
やっぱり私
龍吾のことが好きみたい
そして最後の日が来た
この日は龍吾は 仕事が休みだった
戸部龍吾 / トベリョウゴ
川上愛 / カワカミアイ
まだ眠たい私だけど 龍吾は真剣な顔
戸部龍吾 / トベリョウゴ
そう言われて ダイニングのイスに座った
言われることはわかってる
答えも決まってる
戸部龍吾 / トベリョウゴ
戸部龍吾 / トベリョウゴ
戸部龍吾 / トベリョウゴ
戸部龍吾 / トベリョウゴ
──不器用な私の答えを 聞いてくれるかな
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
ギュ
その瞬間 龍吾の匂いに包まれた
戸部龍吾 / トベリョウゴ
戸部龍吾 / トベリョウゴ
でも私は龍吾の腕をほどいた
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ
川上愛 / カワカミアイ