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テラーノベル(Teller Novel)

皆様、あけましておめでとうございます。

昨年は大変お世話になりました。本年も私月と、その小説をよろしくお願いします。

お正月にちなんだ小説を年賀状代わりにあげておきますね。

それでは、皆様の1年が良きものとなるよう、切にお祈り申し上げます。

ss 2人だけの話 トントントン、と美味しそうな匂いとリズミカルな音が響く。 早朝3時、黒神ユウマと霊菜は、お正月の準備に勤しんでいた。 「昨日までにあらかた終わらせているとは言え、かなり時間かかりますね。」 ふわぁ、と。出そうになる欠伸を噛み殺しながら霊菜は黒神へ声を掛けた。 黒神は、先程から噛み殺している欠伸と霊菜の眠たげな表情を見て苦笑いを落とす。 「だな。まだ時間かかると思うから、眠いなら寝てきていいぞ?」 あとは1人でも平気だから。とそう霊菜に声をかけるも、霊菜は大丈夫だと返す。 先程からこの会話を一体何度しているのだろうと、黒神は考える。 「ったく…。姉貴たちも寝てるんだし俺の事なら気にしなくていいんだぞ? それに、霊菜はまだ子供なんだし。」 と、そう伝えると霊菜はムッとした顔をする。 「子供扱いしないで下さい。先輩だってまだ未成年、同じ子供です。」 たかだか、四・五歳の差でしょう。と頬を膨らませる霊菜を見て、黒神は謝った。 しかし、霊菜からすればたかだか四・五歳の差でも黒神からすれば、充分過ぎるほどの差である。子供だと思うことは、許して欲しいと思うと同時に、あの霊菜がそんなことを気にするのかと思う。 「…なんです?私が、子供扱いを気にしないとでも思っている顔ですね。」 黒神は、唐突に霊菜にそう言われ、目を丸くした。 「…。そんな、顔に出てたか?」 分かりやすいですよ。と霊菜から返答を受け再び目を丸くする黒神を見て、霊菜は珍しく笑みをこぼす。 「私だって、別に感情がないわけではありませんよ。」 普通の人間より、感情が薄いだけで。と霊菜は黒神にそう続ける。 「いや、それは分かってるんだけどさ。 霊菜って、見た目よりずっと大人っぽくて何も気にしてないって顔してるから。子供扱いとか、そんなの考えねぇと思ってた。」 料理を続けながら黒神は霊菜へそう言った。 霊菜も、黒神の方は見ない。 しばらく、ふたりが料理をするだけの音が響いた。 だいぶ経って、リズミカルな包丁の音とコトコトと煮込まれる鍋の音の隙間に、言葉が落ちる。 「…考えないわけ、ないですよ。」 本当に、小さくか細く。 普段の彼女からは想像できない弱々しい声が落ちる。 思わず、料理をする腕を止めて黒神は霊菜の方を見た。 霊菜は、黒神の方を見ない。黒神は霊菜の横顔から心情を探ろうとするも、霊菜の顔にはなんの変化もなく読み取ることは出来なかった。 「…。なんか、できる訳じゃねぇんだろうけど」 そう、黒神は前置きを置いた。 黒神の、いつになく真剣な声に霊菜は黒神の方を見た。 黒神も既に霊菜の方を向いていて。 パチリ、と目が合う。 「もっと、ワガママになってもいいと思うぞ?霊菜も、雫も。」 霊菜はぱちぱち、と目を瞬かせる。 どう言っていいか分からない、というように口をパクパクさせる霊菜を見て、黒神は思わず笑を零した。 「…充分、我儘だと思いますが?」 おねーちゃんの、こととか。としばらく考えた後に霊菜はそう言った。 黒神は、予想通りの返答にぷっと吹き出す。 「霊菜さ、甘えベタだよな?そんなの、ワガママに入らねぇよ。」 我儘に入らない。そう言われて霊菜は目を大きく見開いた。 これが我儘でなければ、なんだと言うのですか。と言いたげな顔で黒神を見ている。 愛されたことがほとんどない彼女にとって、甘えること、頼ることはしてはいけないこと。 今だって、人と一線を引いて接している。 子供だと思って、舐められては行けない。 無意識的な警戒心が、いつだって霊菜を覆っている 「…私は、護衛任務でここにいますから。」 護衛役は、甘えないでしょう。と続ける。 真面目。しかし、霊菜の真面目は度をすぎている。 「護衛役とか関係なしに、甘えていいと思うけど? 俺らがダメなら、雫にとかさ。」 合わせていた目を、霊菜はスっと逸らす。 それは、見たくない現実から目を背けるようで。知りたくないことを、遠ざけるようで。 「…間に合わなくなりますよ。料理。」 先程よりも、堅い声で霊菜はそう声をかける。 話を、強制的に終わらせるようにして、霊菜は鍋を見つめる。 黒神も、これ以上の踏み込みは不可能と判断して、切っていた材料へ目を戻す。 包丁の音が響く。 先程まで聞こえていた会話は、もうない。 チラリ、と黒神は霊菜を見る。 彼女の表情に一切の変化は見受けられない。 凪のように、彼女の感情は変化がない。否、意識的に変化させていない。 「うし、完成だな。」 結局、料理が完成するまで両者の間に会話はなかった。 「そうですね。お疲れ様でした。」 ニコリと、貼り付けたような笑みを霊菜は黒神へ向ける。 黒神は、それに気づいていて、気づかないフリをする。そこを言及しても霊菜の警戒心を高めるだけだからだ。 いつか、彼女が心から話してくれる時が来るのだろうか。 仮眠を取ります。と、去っていく霊菜の背を見て黒神はそう思った。 「これから、だよな。きっと。」 未来へ思いを馳せて。黒神はいつかの未来を想う。

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コメント

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あけおめ!ことよろ! 月の小説やっぱり面白い…!!

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