テラーノベル
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コニーがハンスを出してから少し後。
エマはノーマンと2人でハウスの廊下を歩いていた。
ノーマン
エマ
ノーマン
エマ
即答したノーマンに、エマは唇を尖らせる。
そんなエマを励ますように、ノーマンは優しい笑顔を向けた。
ノーマン
エマ
それはとってもいいことだ。
それでもハンスを旅立った兄弟達を思い出すと、ちょっと寂しい気持ちになる。
と、ノーマンがゆっくりと足を止めた。
エマ
ノーマン
ノーマンの優しい瞳がエマをうつす。
エマもノーマンを見た。
今まで手紙をくれた子はいない。
だけど、ノーマンが言うならきっとううん、ノーマンなら絶対に書いてくれると信じられる。
エマ
もしかしたら自分の方が先にハンスを出ることになるかもしれないのだし、そうなったらエマだって、ノーマンやレイに絶対書く。
約束だ。
すっきりとした気持ちで顔を上げたエマは、ふと、食堂のドアが少しだけ開いてることに気がついた。
なんの気なしに視線を向ける。
エマ
誰もいない食堂のテーブルに見覚えのあるウサギのぬいぐるみがあった。
あれは──今夜ハンスをでたばっかりのコニーのリトルバーニーだ。
エマ
エマは慌てて駆け寄った。
リトルバーニーを忘れたことに気がついたら泣いてしまうに違いない。
どうしよう、とエマは思った。
レイ
レイ
ふと後ろでそんな声がして振り向くと肩にタオルを引っ掛けたレイがいた
風呂上がりのようでまだ少し髪が濡れている
エマはすぐに
エマ
とリトルバーニーを抱き上げた
ノーマン
今にも走り出そうとするエマにノーマンが冷静に待ったをかけた
ハウスの規則はもちろん、エマだって知っている
外へと通じる「門」と森を囲う「柵」には近づいてはいけない
それがルール
今までずっと守ってきた
エマ
あんなに大事にしていたリトルバーニーだ
ハウスの思い出になる大切なぬいぐるみ
悩むエマの様子を見てノーマンはくすりと微笑んだ
ノーマン
エマ
その言葉にエマはパッと笑顔になった
ママにはきっと叱られる。でもコニーのためだと説明すればきっと許してくれるはずだ
エマ
お風呂上がりのレイの横を風のように通り過ぎ、エマとノーマンは2人でハンス出た
外はすでに真っ暗だった
月明かり以外何もない
でも、勝手知ったるハウスの敷地だ
昼間の暖かさが嘘のように静まり返った広い庭を抜け、エマとノーマンは門へと急いだ
道の先にまだ明かりの付いたままの門が見えてくる
周りは張り巡られた高い塀だ
門はハンスと外の世界を繋ぐ場所で、里親の決まった子供達はみんなこっから出ていくのだと昔ママから聞いたことがある
エマ
普段は閉まっているはずの門が今夜は開いていた
ということは、まだコニーが中にいる可能性は高い
リトルバーニーをぎゅっと抱いて2人は恐る恐る門へと足を踏み入れる
ノーマン
初めて入った門の中はひんやりとして薄暗かった
その奥にトラックが1台止まっているのが見える
エマ
荷台にかけられた、ほろが少しだけ開いていた
近づこうとした時、後ろで何かが動くような音が聞こえ2人はギクリとして振り返った
けれど、何もいない
気を取り直し、運転席を覗いたノーマンが首を振る
エマは荷台を見てみることにした
コニーに直接渡せなくても荷台に乗せておけば分かるかもしれないと思ったのだ
ゆっくりとほろを上げて、中を覗き
エマ
エマの手からリトルバーニーがどさりと落ちる
その様子にノーマも不思議そうに荷台を覗き込んで──
ノーマン
そして、言葉を失った
2人の目の前──荷台の中にコニーはいた
ハウスを出た時の真新しいオシャレな服を着て赤いリボンをつけた姿のまま仰向けで寝転んで
愛らしかった瞳は虚ろに開き、その胸に突き立てられた花が一輪子に血を吸い上げて鮮やかに赤くさっき誇っている
ノーマン
なぜ、どうしてという思考すらも働かない
ぼう然と立ち尽くしている2人の耳に奥の方からくぐもった声が聞こえてきた
今…音がしなかったか?
エマ
ノーマンはとっさにエマの手を掴み、トラックの下に合うようにして潜り込んだ
ハウスで聞いたことない太い声だ
地面を伝って感じる重たい足音が息を潜めたふたりの側へと近づいてくる
目前に迫った脚を見て、エマとノーマンは思わず視線を上に向けた
人間の足じゃない
長い爪、大きな体──そして、長細い顔にはギョロっとした目玉が縦に並んでついている
その頭には2本のツノも生えていた
エマ
頭の中がぐるぐると回り出しそうだ
その巨大な化け物は二匹いた
でっぷりと太ったものと、それより2倍ほど背の高いもの
怪物──いいや、まるで鬼のようだとエマは思った
ハウスの図書室で読んだ本に書いてあった空想の生き物
だけどそれよりもっとずっと恐ろしい
鬼は荷台に近づくと大きな手で、コニーの遺体軽々とつまみ上げた
うまそうだなぁ…やっぱり人間の肉が一番だ
俺らには手ができないけどな、この農園の人肉は全部金持ち向けの超高級品だ
ノーマン
鬼たちはエマには理解のできない単語で軽く値を叩きながら、コニーの遺体を遺棄体で満たされた瓶に、ぼちゃりと入れた
人としての扱いですらない、それではまるでビン詰めた
エマは叫びそうになる口を両手で抑える
また、6歳かなみの出荷が続いている、そろそろ自慢のフルスコは3匹を詰めるよう仕上げておけ
そう言って背の高い鬼が目玉ギョロリと後ろへ動かした
エマ
そう思った時
イザベラ
聞こえた声に、エマとノーマンは信じられない思いで視線を動かし
エマ
見えた姿に2人は同時に息を飲んだ
そこにいたのは、エマがノーマンが、ハウスの皆が大好きなままイザベラ
見たこともない冷たい表情で鬼たちの前に立っている
頭の中がぐるぐる回る
ノーマン
ノーマン
2人は気づかれないようトラックの下からはいだすと、全速力で逃げ出した。
リトルバーニーを置いてきてしまったけれど、回収してる暇はなかった
生い茂る草むらの中を無我夢中で必死に走る。
空高くには満天の星。
だけど、どこまで続く夜の闇に足を取られて、エマはずしゃりと転んでしまった。
ノーマン
慌てて駆け寄るノーマンに、エマはすがるように顔を上げる。
エマ
そう思いたい。すべてエマの悪い夢であってほしい。
だけど、ノーマンは苦しそうに眉を寄せ、静かに首を横に振った。
ノーマン
エマの中で何かがはじけた。
全身が震え、涙が胸の底から溢れ出す
エマ
コニーが死んだ。里親の元にいると思っていた他のみんなもきっと。
夜を切り裂くようになく、エマの方をノーマンが宥めるように何度もさする。
ノーマン
エマ
ノーマン
エマ
涙で濡れた顔を上げて、エマは鋭い視線をノーマに向けた。
自分たちだけなら逃げられる可能性は確かに高い。
ママからハンス史上はじまって以来だと喜ばれている、抜群の運動神経と、学習能力を持つエマ。
ダントツの頭脳を持つ天才ノーマン。
それにそんなノーマンと唯一互角に渡り合える、博識で智恵者のレイだって逃げられるだろう。
それでも──、
エマ
ノーマン
エマの言葉に、ハッとしたようにノーマンは目を見張った。
エマ
エマとノーマン、それにレイはフルスコア。
だけど、他の弟や妹たちはそうじゃない。
全員で逃げるというのは、やっぱり無理なことなのだろうか。
涙と震えの止まらないエマに、ノーマは「無理じゃない」と小さく言った。
エマの目を見て穏やかに微笑む
ノーマン
エマ
それが難しいことだというのは、エマにだってわかる
けれども、エマの気持ちを知りたいノーマンは一緒に逃げようと言ってくれたのだ
自分だって怖いのに、エマが泣いたから、ノーマンは笑ってくれている
エマ
だからエマもぐっと涙を堪えて頷いた
ハウスのみんなでここを出る
そのために、これから何をどうすればいいかを考えなければ
険しい表情でハウスに戻った2人は、部屋へと続く暗い廊下で帰りを待っていたらしいレイのに声をかけられた
レイ
すましてはいるが、レイ人に心配だったのだろう
それでも今夜突然突きつけられた衝撃的な事実をまだうまく話せる自信がない
エマ
ノーマン
エマに変わって答えたノーマンの声もいつになくかたくなっていた
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