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教室の窓から差し込む午後の光。
その光の中で、紳司はいつもみたいにぼんやり外を見ていた。
莉亜
莉亜が前の席から身を乗り出すと、紳司はゆっくり振り返って、片方の眉を上げた。
紳司
そう言って無造作にノートを差し出す。
その仕草がなんでもないようで──
胸が、きゅっと締めつけられる。
幼い頃からずっと隣にいた。
転んだら手を引いてくれたし、夜道が怖いと言えば黙って隣を歩いてくれた。
あの頃はただの“幼なじみ”だった。
……なのに。
紳司の横顔を見るだけで息が詰まりそうになる理由が、莉亜自身いまだによく分からない。
いや、分かっている。
“好き”って気持ちに変わってしまったことを。
紗菜
斜め後ろから、紗菜が小声でつついてくる。
莉亜
紗菜
紗菜は、全部知っている。
莉亜が紳司を好きなことも、それを隠して強がってることも。
紗菜
その言葉に、莉亜の心臓は跳ねた。
お似合い──
その言葉は嬉しいはずなのに、どこか不安を連れてくる。
莉亜
もし気持ちを伝えたら、もし関係が壊れたら。
そんな怖さが、莉亜の足を止めていた。
放課後。
帰り支度をしていると、紳司が鞄を肩にかけながら言った。
紳司
莉亜
紳司
眉をわずかに寄せて、まるで心配を隠すみたいに乱暴な声で。
こんなふうに何気なく優しくしてくるから、余計に好きになってしまう。
歩きながら、莉亜は紳司の横顔をそっと盗み見る。
その背の高さも、歩くリズムも、ずっと隣で見てきた大好きな景色。
だけど最近、胸の鼓動が前より大きく響く。
幼なじみの距離なんて…もう、とっくに越えてしまっていた。
“伝えたい”
“でも伝えられない”
心の奥にしまい込んだ想いばかり増えていく。
そんな莉亜に気づかないまま、紳司は少し先を歩く。
その背中を見て、莉亜はぎゅっと拳を握った。
莉亜
淡い夕焼けの中、莉亜の恋はまだ静かに、とても静かに動き始めたばかりだった。