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10 - No.10 いつめんの紫色の方へ

♥

39

2024年12月24日

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なぁ、お前さ。 「マモノ」って知ってる?

マモノ? 聞いたことねぇなぁ…

そいつぁどんなヤツなんだ?

はっ、聞いて驚くなよ?

マモノってのはなぁ… 簡単に言えば、 人間を襲う化け物だ。

人間の…感情?生気? かなんかを喰って生きてる。

んで、喰われ尽くされたやつは 完全に生きる気力を失って、 植物人間みたいになっちまうんだ。

あぁ…?なんだぁ、 そのファンタジックな話は。

ははっ、そうだな。 お前からしちゃ、ありえねぇ話か。

ただ…これがほんとにいるんだよ。 マモノってのは。

はぁ? んなの、何を根拠に…

根拠?そうだなぁ…

俺がマモノだ、ってことかな。

は?

りほ

やばいやばい、遅刻しちゃう!

絵魔

ご、ごめん…僕が寝坊したばっかりに…!

りほ

いいのいいの!それよりも今は、急いで学校行こう!!

絵魔

…うん、急ごう!

僕は絵魔 ごく普通の高校1年生

今僕は、幼なじみのりほと共に 学校に向かっている最中

しかし、僕が朝寝坊したせいで りほを遅刻の危機に 巻き込んでしまっている状態だ

しばらく走ると、ようやく目前に 僕らの学校が見え始めた

りほ

絵魔、あとちょっとで学校だよ!

絵魔

…っはぁ…はぁ……

絵魔

り、りほ…ごめん、僕もう、体力が…!

りほ

あぁ、ごめん!ちょっとペース落とすね!

絵魔

う、うん…ごめん……

僕は息を切らしながら かろうじてそう返事をする

そうしてりほは 走るペースを合わせようと 僕の方を振り返った

そのときだった

ドンッ

りほ

あだっ!

男性

う"っ………

絵魔

…………!

突然、りほが曲がり角から来た 男性とぶつかり 尻もちをついてしまう

僕はそれに驚き、慌てて駆け寄る

絵魔

り、りほ!大丈夫?!

りほ

いってて…うん、私は大丈夫!それより…!

そう言ってりほは ぶつかってしまった男性の方へ 近寄っていく

りほ

あの、こめんなさい!前見てなくて…怪我は無いですか?!

男性

…………………

男性

……っはは………

しかし男性は 愉快そうな顔をして笑っていた

男性

…お前、幸せそうだなぁ…

りほ

……………え?

男性

…っ、あぁ、もう我慢できねぇ!!

男性

お前のそれ…俺に、喰わせろ!!

りほ

…………っ?!

グチャ

絵魔

………………

絵魔

………………え?

突然だった

男性はりほを強引に引き寄せ 長く鋭い犬歯を顕にして りほの首ねっこに噛み付いた

よほど深くに入ったのか 辺りには肉がえぐれる 気持ちの悪い音が響いた

りほ

……っ、ぁ…

絵魔

…………り、ほ…?

僕は混乱してその場に立ち尽くす

すると急に、その噛まれたところから 淡く光る霧のような"なにか"が 噴水の如く溢れ出す

そしてそれを、男性が興奮気味に 吸い込んでいた

男性

…っ、あぁ…美味い……!

男性

すげぇ…こんな美味ぇ"幸"、喰ったことねぇ…!

男性

もっと…もっと喰わせろ…!

男性は一心不乱に りほの首元から出るそれを ありったけ吸い続ける

しかしその光るなにかは すぐに出なくなってしまった

その瞬間、りほは 糸が切れたかのように バタリとその場に倒れてしまう

絵魔

………え、え……?

男性

…っくそ、もう尽きたのかよ…

男性

あぁ…まだだ、まだ全っ然足りねぇ…!

男性は目を見開き 両手で自身の頭を乱暴に掻きむしる

しかしピタリとそれをやめ 何かに気がついたように ゆっくりと首を回し、僕を見た

男性

……………あれぇ。

男性

もう一体、いるじゃぁん?

そう言って男性はニヤリと笑い フラフラとこちらに近寄ってくる

絵魔

…っあ…くっ、来るな…やめ…!

男性

っひひ…喰わせろ、お前の…お前の幸を……!

絵魔

…っ………

僕は声も出なかった

目の前の男性は気にせず 僕の方へと歩いてくる

男性

…お前、完全に恐怖に染まりきってんじゃねぇか。

男性

あんま美味くねぇかもなぁ…まあ、いいか。

男性

そんじゃ、いっただっきまーす!

男性は笑顔のまま 大きな口を限界まで開き 僕の方へと襲いかかってくる

何もできない僕は 恐怖で強く目をつむる

あぁ、もう、死んでしまう

そうまで思った

その瞬間

しほらよぬら

おらぁ!人間襲うな!!

絵魔

…………?!

僕はその大きな声で 思わず目を開く

声の方向を見ると 水色髪の女の子が凛々しい顔で 男性を拳でぶっ飛ばしていた

男性

うがっ!?

しほらよぬら

ったく、こんな真昼間から人間襲うなんてねぇ…他の人に見られたらどうすんの?

男性

っるっせぇよ!俺ぁ今空腹で死にそうなんだよ!!

男性

いいからとっとと幸を喰わせろっ!!

しほらよぬら

…はぁ、話聞かないタイプか…

しほらよぬら

なら、仕方ないね。

彼女はそう言って 懐から一本の短刀のようなものを 取り出し男性に向ける

それを見た男性は 急に困惑し焦った表情を浮かべる

男性

お、おい…お前、まさか、"マモノ祓い"の人間か…?!

しほらよぬら

あれ、今更気がついたの?

しほらよぬら

あなたも鈍感だねぇ…でも、もう遅いよ。

男性

やっ、やめ、やめろ…おい、こ、こっち来んじゃねぇ…!

しほらよぬら

えぇ…いや、だったら人間襲わないでよ。

男性

わ、わかった!もう人間は襲わねぇ!だから頼む、殺さないでくれ!!

しほらよぬら

……………ふぅん。

しほらよぬら

ねぇ、そこの紫の君はどう思う?

絵魔

……………え?

しほらよぬら

この人、野放しにして大丈夫かな?

絵魔

え、えぇ…なんで僕に聞くんですか…?

しほらよぬら

うーん…なんとなく?

絵魔

えぇ…………

僕は困惑の声をもらす

しかしその隙に 男性は素早い動きで立ち上がり 水色の人から逃げるように 距離を取った

しほらよぬら

あ、ちょっと!まだ話終わってないよ!?

男性

はっ、俺に隙を見せるたァ随分余裕だなぁ?

男性

おかげで簡単に逃げられちまうよ!あんな大口叩いてたのになぁ?!

しほらよぬら

…あぁ、ありゃダメだ。許しちゃダメなやつだ。

そう言って彼女は やれやれとため息をつく

男性

あ"ぁ?おい、そんな舐めた態度取って許されると思ってんのか?!

しほらよぬら

うん、私もあなたを許さないよ。

しほらよぬら

だから……………

そこまで言うと彼女は 短刀を鞘から抜き 嘲笑うように男性に言い放った

しほらよぬら

あなたのこと、殺すね?

男性

…はっ、この距離でそんな簡単に殺せるわけがな……

男性がそう言った瞬間

男性の首に 一本の赤い線が広がっていく

そして、それが男性の首を 一周したそのとき

男性の頭が、道路に落ちた

ドシャ

絵魔

………………

しかしその頭と身体は 不思議なことにゆっくりと崩れていく

そしてしばらくすると 黒い砂の山がその場所にできていた

水色髪の人が その山に向かって手を合わせる

十数秒そうしていたかと思うと 彼女はそっと立ち上がった

しほらよぬら

…よし、マモノ退治完了っと。

しほらよぬら

君、大丈夫?怪我は無い?

絵魔

………………

しほらよぬら

…あー、そうか。慣れてないか、こういうの。

しほらよぬら

それより、この黄色い子…もしかして、君の友達とかだったりする?

絵魔

………………ですか…

しほらよぬら

ん?

絵魔

あ、あの男性は…なんなんですか…?

絵魔

りほは…その、黄色い髪の子は、大丈夫なんですか…?

しほらよぬら

あー…うん、気になるよね、そりゃ。

そう言って彼女は頭を掻く

そして、少し悩んだ動作をすると 彼女は僕を妙に真剣な顔付きで じっと見つめた

しほらよぬら

…君は、この子に生きててほしい?

絵魔

え…そ、そりゃあ、生きてて欲しいですよ!

絵魔

だ、だってりほは、僕の…僕の、幼なじみで…し、親友!ですし!!

しほらよぬら

…そっか、ごめんね?変な質問して。

絵魔

…と、というか、その…り、りほは、死んでない、ですよね…?

しほらよぬら

あー…えっと、うーん…

しほらよぬら

…あのさ!そのことも含めて、色々お話ししたいから…

しほらよぬら

もしよかったら、今からうち来てよ。この黄色い子も保護したいし。

しほらよぬら

…あ、もしかして学校ある?それなら無理強いはしないけど…

絵魔

…いや、大丈夫です。後で休むって連絡します。

絵魔

それよりも…今は、この状況のことを知りたいです。

しほらよぬら

…………そっか。

しほらよぬら

それじゃあ、ついてきて。一部のことは、企業秘密で話せないかもだけど…

そう言って 彼女はりほを背負って歩き出す

僕も足を踏み出したとき 朝のHRが始まるチャイムが鳴った

しほらよぬら

ただいまー。

しほらよぬら

さ、君も入って。

絵魔

は、はい…お邪魔します…

彼女に連れられたのは 和風の平屋だった

落ち着いた雰囲気の中 僕は緊張しつつ中へと入る

そのとき、誰かが ひょこっと玄関に顔を出した

なづ

よぬ姉、おかえりー。

しほらよぬら

おぉ、なづただいま。

顔を出したのは 僕達と同じ歳くらいの 緑目をした女の子

その子は僕達を見やると 不思議そうな顔をした

なづ

あれ、その人達は…

しほらよぬら

あぁ、マモノの被害者。怪我とかないか見てあげて。

なづ

なるほど…って、こんな人目の多い昼間から?!

しほらよぬら

そうそう、マモノも何考えてんのって感じよね。

なづ

なるほど…とりあえず、その黄色の方はまずそうだね。

しほらよぬら

うん、それなんだけど…

しほらよぬら

…なづ、頼んでもいい?

なづ

え…いや、私は別いいけど…ほんとにいいの?

しほらよぬら

うん。それじゃあ、よろしくね。

しほらよぬら

君はこっち、ついてきて。

絵魔

は、はい…失礼します…

僕はそう言って 水色の人の後について行った

僕が案内されたのは 廊下の突き当たりにある ひとつの部屋だった

彼女は二人分の座布団を用意し そこへ座るなりうーんと 大きく伸びをする

しほらよぬら

ふぅ…さて、それじゃあ改めて…

しほらよぬら

私はしほらよぬら、よろしくね。

絵魔

あ、えっと…絵魔です、よろしくお願いします。

しほらよぬら

そんなかしこまらないで。多分歳近いでしょ、君何歳?

絵魔

じゅ、16です…

しほらよぬら

おぉ、同い年じゃん。奇遇だね!

絵魔

は、はい…奇遇、ですね…

しほらよぬら

だーかーらー、そんな緊張しないでって!

しほらよぬら

あ、もし良かったらよぬ姉って呼んで?慣れてるから!

絵魔

わ、分かりました…

しほらよぬら

…よし、自己紹介は済ませたところで…

しほらよぬら

…何が聞きたい?

絵魔

…え、えっと…その…

僕はしどろもどろになりながら 懸命に言葉を紡ぐ

絵魔

その、さっきの男性のこと…と、りほが大丈夫なのかを、知りたいです…

しほらよぬら

…その"りほ"って子は、さっきの黄色髪の子のことでいいよね?

絵魔

は、はい、そうです。

しほらよぬら

…うん、わかった。話せるところまで話すよ。

そうして彼女は 真剣な面持ちで話し始めた

しほらよぬら

…まず、さっきの男性の話をするね。

しほらよぬら

さっきの男性は…"マモノ"っていう、人間を襲う生物なんだ。

しほらよぬら

マモノは、人間の中にある"幸"っていうもの喰って生活しているんだけど…

しほらよぬら

絵魔ちゃんも、おそらく見たんじゃないかな。りほちゃんの身体から出る、光る霧のようなものを。

絵魔

…はい、見ました。

しほらよぬら

うん、なら話は早い。その霧みたいなやつが、幸っていうんだ。

しほらよぬら

…それでね、絵魔ちゃん。落ち着いて聞いて欲しいんだけど…

しほらよぬら

…マモノに"幸"を極限まで食べられちゃうと、その…人間は、生きられなくなっちゃうんだ。

絵魔

……………え?

しほらよぬら

と、とりあえず、最後まで聞いて欲しいな。

しほらよぬら

幸ってのは簡単に言うと、幸せの感情のこと。

しほらよぬら

つまり、幸せだと感じれば感じるほど、その人の幸は増えていく。

しほらよぬら

そして、幸を喰われた人間は…要は幸せが枯渇するってことだから、幸せを感じられなくなる。

しほらよぬら

幸せを感じられなくなった人間は、感情を無くし生気を無くす。

しほらよぬら

詳しく言うと、植物状態に近い状況になる。体が生きていても、意識も思考も何も無いんだ。

絵魔

…それ、元に戻るんですか?

しほらよぬら

…ううん。現状だと、回復する見込みも方法も一切ない。

しほらよぬら

酷なことを言ってしまうけれど…おそらく、りほちゃんも、もう…

絵魔

………………

しほらよぬら

…でももし、りほちゃんにほんの少しでも幸が残っていたとしたら…

しほらよぬら

…りほちゃんは、まだ君と一緒に居られるかもしれない。

絵魔

……………!

絵魔

りほ、助かるんですか?!

しほらよぬら

うーん…なづが上手くいったら、かな?

絵魔

…そう、ですか…

僕はそこまで話を聞くと りほが生き残れる確率があることに ほっと安堵の声をもらす

しかし、よぬ姉さんは 浮かない顔を浮かべていた

しほらよぬら

………………

しほらよぬら

…絵魔ちゃん、先に言わせて欲しい。

しほらよぬら

どちらにしろ…りほちゃんは確実に、もう人間としては生きられない。

絵魔

……………え?

僕はその言葉の意味がわからず 困惑した声を漏らす

よぬ姉さんがその続きを 言おうとしたそのとき

なづ

おーい、よぬ姉ー?

なづ、と呼ばれていた女の子が ガラガラと部屋の扉を開けた

しほらよぬら

あ、なづ!どうだった?

なづ

うん、バッチリだよ。

しほらよぬら

おお、ありがとうなづ!大したもんだよ!

なづ

いや、そんな褒められるようなもんじゃ…

絵魔

…あっ、あの!りほ、助かったんですか?!

なづ

…………え?

僕は我慢ができず 身を乗り出して様子を聞く

なづ

…あー…まぁ、一応…?

絵魔

ほんとですか?!よかった…!

絵魔

あの、今りほはどこに…!

なづ

あー、えっと……

なづ

ごめん、今は会わせられない。

絵魔

…………え?

しほらよぬら

…あー、絵魔ちゃん!ちょっと一緒にお茶しない?

しほらよぬら

大丈夫、あと数分もしたら会わせてあげられるから…

絵魔

………………

絵魔

…そう、ですか……

しほらよぬら

………………

しほらよぬら

ごめんね、絵魔ちゃん。あとちょっとだから。

よぬ姉さんはそう言って 私の頭をポンポンと叩く

私はただ混乱して よぬ姉さんの優しさに 思わず泣きそうになってしまう

その瞬間だった

???

うわぁぁぁぁぁあ!!

絵魔

…………?!

しほらよぬら

この声、まさか……!

なづ

あー、厄介なことになったかも…

その叫び声に対し よぬ姉さんは焦った表情をし なづさんが呆れた様子で首を振る

絵魔

え、え?今の声は…

しほらよぬら

なづ、急ぐよ!りほちゃんが危ない…!

なづ

あーもう、仕方がないなぁ…!

僕は二人に質問をするが 二人は聞く耳を持たず 急いで部屋を飛び出していく

絵魔

っちょ、ちょっと、待ってください…!

僕はそれに驚きつつ 慌てて後ろをついて行った

絵魔

…っ、はぁ…あの!一体何が…!!

僕はあとを追いかけ 二人が入っていった部屋の 扉を勢いよく開ける

そして

絵魔

……なに、が………

絵魔

……………

絵魔

………え……?

目の前には 信じがたい光景が広がっていた

しほらよぬら

無夜!一旦落ち着いてってば!!

無夜

ね、姉さん!こ、ここの部屋、マモノが…!!

しほらよぬら

分かってる、分かってるから暴れないで!

よぬ姉さんが おそらく先程叫んでいた人を 力づくで押さえつけている

そして、その横で

なづ

…あれ、絵魔…だっけ。来ちゃったの?

絵魔

…………あ……

りほ

………………

りほが、立っていた

絵魔

りほ…りほ、よかった…無事だったんだ…!

なづ

え、ちょ、絵魔?

絵魔

りほ、僕、凄く心配したんだよ?ほら、早く学校戻らなくちゃ…

なづ

絵魔、ダメだ、そいつは…

絵魔

ねぇ、どうして動かないの?急いで行かないと、先生に叱られ…

なづ

絵魔、そいつに近寄るな!!

絵魔

え?

僕はその声に くるりと振り返る

その瞬間

グチャ

絵魔

…………っ?!

りほが急に 僕の首後ろに噛み付いた

絵魔

……っ、ぐ………

りほ

……グゥ………

なづ

あー、やばいやばいやばいやばい…

りほに噛まれた瞬間 ふっと身体から 力が抜けていくのを感じた

りほは僕の身体から 幸を貪るように喰っている

思考がうまく回らず りほを突き放すこともできない

絵魔

…っ、り…ほ……?

りほ

………ァ……

りほの様子が、どこかおかしい

まるで、"マモノ"のような……

絵魔

……う…………

無夜

…あ、絵魔さん起きましたよ!

しほらよぬら

お、ほんと?

目が覚めると 目の前には赤目の人がいた

赤目の人に呼ばれたよぬ姉さんが 僕の近くまで歩いてくる

絵魔

…あれ、ここは……

しほらよぬら

さっき、二人で話をした部屋。

しほらよぬら

絵魔ちゃん大丈夫?元気、ちゃんとある?

絵魔

は、はい…大丈夫です。

しほらよぬら

あぁ、なら良かった…

絵魔

…あの、僕は一体……

しほらよぬら

…覚えているかもしれないけど、君は…りほちゃんに襲われて、気絶しちゃったんだ。

しほらよぬら

でも、少し幸を喰われただけで済んだから…ほんとに、よかった。

絵魔

……………

しほらよぬら

…それでね、大切な話があるの。

よぬ姉さんが 真剣な顔で僕を見つめる

絵魔

……………はい。

しほらよぬら

おそらく、もう予想はついていると思うけど…

しほらよぬら

…りほちゃん、マモノになっちゃったんだ。

絵魔

…りほが、マモノに…

しほらよぬら

…幸を喰われ尽くした人間には、二つの末路がある。

しほらよぬら

生気を失い、植物状態のようになってしまうか…

しほらよぬら

それとも、マモノとして生まれ変わるか。

しほらよぬら

マモノが幸を喰うときに、同属にしようと意識して喰えばその人間はマモノになる。

しほらよぬら

だから────

なづ

私がりほにある幸の残り香を喰って、マモノにしたってわけ。

急に横から なづさんが割り入って言う

絵魔

…え、なづさんが?

なづ

そ、信じられない?

なづ

私、マモノなんだよ。

絵魔

……………

絵魔

えぇぇぇぇえ?!

僕は驚いて後ろに仰け反る

それを見たなづさんは 愉快そうな声で笑う

なづ

ははっ、いいリアクション。

無夜

…絵魔さんを弄ぶな、マモノが。

なづ

へーい、すんません。

しかし、赤目の人に注意され 面倒くさそうな顔で後ろに下がる

絵魔

…えっと、そちらの方は…

無夜

…あ、自己紹介してなかったっすね。

そう言って彼女は 改めて背筋を伸ばし僕を見る

無夜

自分、無夜って言います。マモノ祓いの見習いっす!

無夜

今、よぬ姉さんに面倒見てもらってて…まぁ、師弟みたいな関係っす!!

絵魔

ま、マモノ祓い…?

無夜

あ、マモノ祓いってのは、そのままの意味でマモノをやっつける職業のことっす。

無夜

この、断魔刀っていう刀を使うんすけど…

そう言って彼女は 以前よぬ姉さんが使っていたのと 同じ形をした短刀を取り出す

無夜

これ使うと、マモノを完全に葬り去ることができるんすよ。

無夜

逆にこれ以外で攻撃しても、すぐに幸のエネルギー使って復活されちゃうといいますか…

絵魔

…なるほど、マモノ祓い……

僕が興味深くその刀を見ていると よぬ姉さんがそれを取り上げた

しほらよぬら

こら、あんま人前に出さないの。

無夜

あっ、すんません!

なづ

やーい、怒られてやーんの。

無夜

…うるさい、マモノは黙っとけ。

絵魔

…なんか、なづさんにだけ当たり強くないですか…?

しほらよぬら

あー…まぁ、なづにというよりかは、マモノに対してって感じだね。

よぬ姉さんはそう言って 苦笑しながら話を続ける

しほらよぬら

無夜さ、マモノに家族全員殺されちゃってるの。

絵魔

……………え?

しほらよぬら

それで、マモノをすごく恨んでて…

無夜

…別に、同情とか要らないっす。

無夜さんはそう言って 顔をうつむけた

無夜

…自分は、マモノを許したくありません。

無夜

だから自分でマモノを倒せるように、一人前のマモノ祓いを目指してます。

絵魔

………………

無夜

…それで、なんすけど。

そこまで言うと 無夜さんは顔を上げる

無夜

りほさん、マモノになっちゃったでしょ?

絵魔

…………はい。

無夜

そして絵魔さんも、りほさんに襲われそうになった…

絵魔

………………

無夜

正直に言うと、自分はりほさんの存在を認めたくありません。

無夜

だって、いつ人間を襲うか分からないですし…なんなら、絵魔さん襲ってますし…

絵魔

…そう、ですよね……

無夜

…でも、きっとマモノでも、頑張れば人間に紛れることはできると思います。

無夜

ここにいる緑のマモノみたいに、人間の幸を喰わずに生活することもできますし…

なづ

そうそう、案外生きられる。

なづ

例えば、人間が心を込めて作ったご飯とかだったら、微量だけど幸が含まれたりすんのよ。

なづ

他にも、動物の肉とかに生前の幸が少し残ってたりとかね。

なづ

だからそれ食って生活すれば全然大丈夫、全然生きれる。

無夜

…それに、見た目も人間となんら変わりはないですし、学校とかでも不便はないと思います。

なづ

そうそう、私みたいに。

無夜

…とにかく、マモノでもきっと生きられます。

無夜

だから自分はまだ、りほさんを咎めません。

無夜

けれど…一度でもりほさんが人間を襲うようなことがあったら、自分が容赦なく殺します。

無夜

なんで、りほさん起きたら、ちゃんと面倒見てあげてくださいね?

絵魔

………………

なづ

無夜、ほんとに殺せんの?見習いなのに?

無夜

…いちいち茶々入れてくんな!このやろっ!!

なづ

うおっ…へへ、刀じゃないと効きませーん。

無夜

てめぇ…自分がよぬ姉さんから殺すの止められてるからって…!!

なづ

そらぁねぇ、私の方が無夜よりよぬ姉に貢献してるし?

無夜

はぁ?!自分だってよぬ姉さんのことめっちゃ手伝ってっし!!

なづ

おやぁ、負け犬が遠吠えてんなァ〜?

無夜

お前…マジで殺してやる…!

なづ

いいぜぇ、かかってこいや!

無夜

てめぇ、ぶっ殺す!!

絵魔

………………

しほらよぬら

あはは、あの二人結構仲良いんだよね。

よぬ姉さんは楽しそうに 二人のやり取りを見つめている

絵魔

…あの、よぬ姉さん。

しほらよぬら

うん、どうした?

絵魔

僕は、その……

絵魔

…りほが人間襲わないよう、ちゃんと説得して、面倒も見ます。

絵魔

そして、また一緒に学校行きたいです!

絵魔

だから、その…だから!

しほらよぬら

…安心して。

よぬ姉さんはゆっくりと こちらに振り返り、優しく笑った

しほらよぬら

りほちゃんのこと、私達ももちろん協力するよ。

しほらよぬら

それに私も、りほちゃんが普通に生きれることを願ってる。

しほらよぬら

でももしかしたら、これから先、いつもと違う大変なことが多々あるかもしれない。

しほらよぬら

その時は、私たちにも頼って欲しいな。

絵魔

…はい、ありがとうございます…!

しほらよぬら

…………うん!

しほらよぬら

…あ、あとひとつ、気をつけて欲しいことを言っとくね。

しほらよぬら

おそらく、絵魔ちゃん達のことを特別視して狙うマモノとマモノ祓いは、沢山いると思うんだ。

しほらよぬら

だから…これ。

よぬ姉さんはそう言って 自身の懐から断魔刀を取り出し 私に差し出した

絵魔

……断魔刀………

しほらよぬら

うん、護身用に持っておいて。

しほらよぬら

…私達は、絵魔ちゃん達が幸せに暮らせることを祈ってる。

しほらよぬら

だから…頑張って!

絵魔

…………はい!!

僕はそう言って にっこりと満面に笑みを浮かべる

そのとき

ガラッ

絵魔

…………?

しほらよぬら

…お、お目覚めかな。

絵魔

……………あ!

りほ

………………

りほが、ふすまを開けて 部屋にやってきた

絵魔

りほ…………!

りほ

…おはよう、絵魔。

しほらよぬら

りほちゃん、体調は大丈夫?

りほ

はい、おかげ様で…

りほ

…それで、絵魔…その……

りほ

…ごめんなさい、絵魔のこと、襲ったりして…

絵魔

ううん、大丈夫…僕は、大丈夫だから…!

絵魔

りほ、生きててよかった…!

りほ

…あの後、よぬ姉さんとなづさんと無夜さんのおかげで、意識戻ったんだ。

りほ

それに、あの男性のことも、マモノのことも、自分のことも全部聞いた。

りほ

だから、その…私も、人間として生きれるよう、頑張るから…

りほ

その…絵魔にも、手伝ってほしいなって…!

りほ

…ほんとに、自分勝手なお願いで申し訳ないんだけど…いい、かな?

絵魔

…うん、もちろん!

りほ

…………!

りほ

…ありがとう、絵魔!

なづ

…あ、もちろん私達も手伝うから頼ってね?

無夜

はい!こいつは殺しますけど、りほさんのこと襲ったりはしないんで!

なづ

あぁ?こいつたぁなんだこいつたぁ。

無夜

はぁ、分かんねぇの?もしかして頭悪い?

なづ

はぁ?!おい、てめっ!!

しほらよぬら

こら、二人とも!ごめんね、うちのやつが…

りほ

あ、あはは……

絵魔

…………りほ。

絵魔

これからも…よろしくね。

りほ

…うん、よろしくお願いします!

僕たちはそう言って 笑いあった

超 遅 刻

はい

では改めて

お誕生日おめでとう!

これからも 仲良くしてくれたら嬉しいです

良い一年を👍

この作品はいかがでしたか?

39

コメント

5

ユーザー

貴様さては私の物語の好み知ってたな???なんだこのストーリー大好きなんだが??? 感想とか言うの苦手だから上手く伝えられないけどあのとりま大好きです👍🏻 そして祝ってくれててんくゆー イラスト相変わらず上手いね羨ましくなってくる←

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