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タケル
ヤマト！さっき作るように言った資料、もう出来たのか？
ヤマト
いえ、作る前にちょっと調べたい事があったので、まだです。
ヤマト
夕方には出来ると思いますが。
タケル
夕方ぁ？遅いんだよ。俺がやれって言った事は最優先でやれよ。
ヤマト
は、はい。
タケル
リモートワークで姿が見えないからって、さぼってんじゃねーよ！
ヤマト
すみません、さぼってるつもりはないんですが。
タケル
いちいち言い訳するな！午後には得意先に送るんだから、昼前に作って俺に送れ！
ヤマト
わかりました。大至急やります。
タケル
チっ。最初からそう言えよ。
～1時間後～
ヤマト
タケルさん、遅くなって申し訳ありません。
ヤマト
先ほどメールで送りましたので、確認をお願いします。
タケル
遅い！昼まであと3分だぞ。「5分前の精神って言葉、お前は知らないのか？」
ヤマト
申し訳ありません！色々と確認するのに、手間取ってしまいまして。
タケル
今度からもっと早くしろ。それから。
タケル
OSSAN自動車㈱から来ていた注文書、今メールで送ったから。
ヤマト
は、はい。ちょっと確認します。
タケル
それ、全部15時までに発注システムに手入力で処理しておけよ。
ヤマト
え？手入力ですか？全部で200件も注文があるんですけど。
タケル
そうだよ。月一の定期発注なんだから、そのくらいの件数はいつもの事なんだよ！
タケル
たかが200件でピーピー言うんじゃねえよ。
ヤマト
全部、毎月タケルさんが手入力していたんですか？
タケル
忙しいのに、俺がそんな下らない仕事するわけないだろ。
タケル
全部、下っ端の新人にやらせてたよ。でも先月、突然辞めちまいやがった。
ヤマト
そうなんですか。
タケル
そ。だから今月からは、新人のお前の仕事な。
ヤマト
でも突然言われましても。発注システムの使い方、まだ教わってないです。
タケル
お前、バカじゃねーの？何でも先輩に教えてもらえると思ってんのかよ。
ヤマト
すみません、そういうものだと思ってました…。
ヤマト
せめて操作マニュアルとか、ありませんか？
タケル
そんなものは無い！俺は発注システムなんて使わないからな。
ヤマト
え～！？
タケル
え～！？じゃねぇよ。文句言う暇があったら、自分で調べてさっさとやれ！
ヤマト
は、はい。分かりました。
～1時間後、上司のクサナギとのラインにて～
ヤマト
クサナギ課長、お疲れ様です。今日は在宅ですよね。
クサナギ
おう、ヤマト君か。初めてのリモートワークはどうだ？
ヤマト
色々慣れなくて…。タケル先輩にも迷惑をかけてるみたいです。
クサナギ
入社してまだ1カ月だからな。早く慣れろ。
ヤマト
それで、少し困っておりまして。相談なんですが。
クサナギ
相談？どんな事だ。女性問題か？
ヤマト
い、いえ違います。僕、彼女いませんし。
クサナギ
なんだ～彼女いないのか。ヤマト君はイケメンなのに勿体ないな。
ヤマト
そんな冗談やめてください…。実は発注システムの事です。
クサナギ
発注システム？前の新人が使ってたモノか。
ヤマト
はい、それです。使い方が分からないんです。
ヤマト
なのに、いきなり200件も発注処理しろとタケル先輩に言われまして。
クサナギ
ほぉ、それで私に連絡をくれたんだね？
ヤマト
はい、クサナギ課長なら使い方をご存じかも知れないと思いまして。
クサナギ
残念だな。俺も全く知らない。
ヤマト
え！操作マニュアルも無いんですか？
クサナギ
知らん。そういう細かい業務は全部、タケルが前の新人に教えていた筈だぞ？
クサナギ
タケルの指導、ヤマト君はちゃんと聞いていなかったのか？
ヤマト
いつも聞いてます。ちゃんとメモも取ってますし。
クサナギ
それはおかしいなぁ。前の新人はきちんと業務が出来ていたんだぞ。
ヤマト
そう言われましても。聞いてないものは聞いてません。
ヤマト
タケル先輩も、「俺は発注システムを使った事が無いって豪語してました。」
クサナギ
タケルは忙しいから、ヤマト君に教えている暇が無いって事だろう。
ヤマト
でも、僕も困ってるんです。15時迄に手入力しろと言われてて。
クサナギ
うむ。なら、共有フォルダに引継ぎのマニュアルが残ってるかもしれない。
クサナギ
自分で探しなさい。私も知らない事は、教えてやれないから。
ヤマト
自分で探せって、そんな…。
クサナギ
ヤマト君。社会人はね、困った事があっても自分でどうにかするものだよ。
クサナギ
「何かあれば上司が何とかしてくれるなんて考えるものじゃないよ。」
ヤマト
はい…。
クサナギ
まったく、今年の新人も頼りないな。
ヤマト
すみません。何とかします。
～30分後、別の先輩・ミコトとのLINEにて～
ヤマト
ミコト先輩、お疲れ様です。
ミコト
お疲れ様、ヤマト君。今日は初めてのリモートワークだっけ？
ヤマト
はい。ミコト先輩は、出勤中ですか？
ミコト
そうよ。今日は出勤している人が少ないから、静かよ。
ミコト
おかげで仕事がはかどるわ。
ヤマト
そうですか、僕も順調ですと言いたい所なんですが。
ミコト
何かあった？
ヤマト
ミコト先輩、発注システムの使い方はご存じですか？
ミコト
うん、知ってるよ。タケル先輩から教えてもらえなかったの？
ヤマト
はい、忙しいらしくて。クサナギ課長にも相談したんですけど。
ヤマト
マニュアルを自分で探して、どうにかしろって言われただけです。
ミコト
また、2人ともそんなんか～。それは困ったでしょう。
ヤマト
はい。ミコト先輩なら、システムの使い方をご存じかなと思いまして。
ヤマト
15時までに、OSSAN自動車の注文を手入力しろって指示なんです。
ミコト
15時？あと2時間しかないのに。注文は何件？
ヤマト
200件です。
ミコト
わかった。大丈夫よ。システムの使い方は私が教えるから。
ヤマト
ほんとですか！すごく助かります。
ミコト
まず、操作マニュアルはこれ。メールで送ったよ。届いた？
ヤマト
はい！届きました。それで次は何をすればいいですか？
ミコト
これはね、注文の中身を確認出来たら、今日はもう何もやらなくて大丈夫。
ヤマト
え？何もしなくて良いって、どういう事ですか？発注処理しなくて良いんですか？
ミコト
そう。しなくていいの。OSSANN自動車のオーダーは、EDI処理だから。
ヤマト
EDI？良く聞く単語ですけど、それって何でしたっけ。
ミコト
EDIの事も、タケル先輩は説明してなかったんだね。
ヤマト
はい。聞いてなくてすみません。
ミコト
ヤマト君が悪いんじゃないよ。きちんと教えないタケル先輩が良くないんだよ。
ミコト
EDIっていうのはね、電子データ交換の略称なの。
ヤマト
そうなんですか。それは具体的にはどんなものですか？
ミコト
簡単に言うとね、会社同士の取引データを電子化する仕組みよ。
ミコト
OSSAN自動車は、注文データをEDIで毎月送信してくるの。
ヤマト
そうなんですか！知らなかった。
ミコト
でね、ウチの会社も自動で発注データを受信出来るようになってるの。
ミコト
だから注文に関しては、手入力する必要はないのよ。
ヤマト
よ、良かった。やり方が全然分からないから、どうしようかと思ってました。
ミコト
私に聞いてくれて、良かったわよ。
ヤマト
ほんとにそうですね。ミコト先輩のお蔭で助かりました。
ミコト
いえいえ。もしEDIの事を知らずに手入力で注文をインプットしたら
ミコト
ダブル発注って事で、大変な事になっていたわよ！
ヤマト
どんな事になっていたんでしょうか？
ミコト
同じ注文が2回発注されるわけだから、納品もムダに重複してしまうの。
ミコト
全く同じ部品が2回も納品されたら当然、お客様が困るわよね。信用問題に発展するわ。
ヤマト
うっ。考えただけでゾッとします。
ヤマト
僕がそれをやらかす所だったんですね…。
ミコト
そうなってもヤマト君のせいじゃないわ。未然に防げて本当によかった。
ミコト
それに、部下が困ってるのに放置するクサナギ課長も悪い。
ヤマト
そうですかね。僕、社会人になりたてだから。
ヤマト
会社ってものが、どういうものなのか分からない事が多すぎて。
ミコト
あのね、上司とか先輩って、部下が困っていたらきちんと指導したり、
ミコト
時には部下の失敗の責任を負ったり、何か問題があった時の為にいるものなんだよ。
ヤマト
さっき、課長からは真逆の事を言われました…。
ヤマト
「何かあれば上司が何とかしてくれるなんて考えるな、って。」
ミコト
それ、課長が自分で言ったの？
ヤマト
言った、というかLINEでそういうメッセージが来ました。
ミコト
そういう発言も、管理職としては問題だわ。ヤマト君、あのね。
ヤマト
はい。
ミコト
タケル先輩とクサナギ課長の言動は、スクショとかで記録しておいた方がいいわ。
ミコト
実はここ数年の間、ウチの部署はたて続けに新人が辞めているの。
ヤマト
え？そうなんですか。初耳です。
ミコト
3年前、私の同期もあの2人のパワハラとセクハラで、泣く泣く辞めたわ。
ヤマト
それは酷いですね。パワハラはタケル先輩のほうですよね？
ヤマト
セクハラって、まさかクサナギ課長の事ですか？
ミコト
そうよ！何かにつけてベタベタ触ってきて最悪だったって、言ってたわ。
ヤマト
気持ち悪いですね。
ミコト
でしょう？私ね、労働組合の職場委員なの。
ミコト
ウチの部署で、若手の退職者が多いのが問題視されてるのよ。
ヤマト
ミコトさん、そんなに忙しそうなのに職場委員もやってらっしゃるんですか。
ヤマト
すごいですね…。
ミコト
すごくはないよ(笑)。ただ、ウチが問題が多いから、環境を良くしたいだけ。
ヤマト
僕に協力出来る事なら、なんでもやりますよ！
ヤマト
なんか、ミコトさんのファンになりそう。
ミコト
そんなおだてには乗りませんよ～ww。
ヤマト
おだてじゃないですよ。ただ、EDIの件に戻りますけど。
ヤマト
発注が済んだらそれで終わり、じゃないですよね。
ミコト
うん。納期通りに納品できるように手配しないといけないんだけど。
ミコト
念のため、今から一緒に納期を確認しよう。
ミコト
この後、パソコンの画面を共有しながら、確認の仕方を教えるから。
ヤマト
はい！よろしくお願いします。
ミコト
よし、がんばろう！
～翌日、会社のグループLINEにて～
タケル
おい！ヤマト。昨日、発注処理はちゃんと手入力でやったんだろうな！
ヤマト
タケル先輩、手入力はしませんでした。
タケル
してない？お前、それじゃ納期が間に合わないだろう！
タケル
新人は黙って俺の仕事を手伝えよ！いつもそう言ってるだろ。
ヤマト
手入力しなくても大丈夫だったんですよ。EDIだから。
タケル
EDI？何のことを言ってるんだ？
ヤマト
だから、EDIですよ。
タケル
ふざけんなよ。発注処理してないなら、今すぐやれ！
ヤマト
なぜそんなに慌ててるんですか？
タケル
バカ野郎。納期が遅れているモノがたくさんあるからって、客が怒ってるんだよ！
ヤマト
大変ですね。
クサナギ
納期遅れってどういう事だ？
タケル
クサナギ課長、ヤマトの奴が発注処理をサボってたんですよ。
タケル
それで、部品の納期がいくつか遅れてるもんで
タケル
OSSAN自動車の調達担当者が激怒してるんです！
クサナギ
それはダメだろう。ヤマト君、なぜ直ぐにタケル君の指示に従わなかったんだ？
ヤマト
え？僕のせいですか？
タケル
当たり前だろう！
クサナギ
タケル君から、発注処理をするよう指示を受けていたんだろう？
ヤマト
はい、昨日の事ですが。課長にも相談しましたよね。
タケル
お前がトロいから、納期が遅れてるんだよ！何がEDIだ。
タケル
聞いた事もない単語で、俺をごまかそうとするんじゃねーよ。
ミコト
EDIを聞いた事もない？おかしな事を言いますね。
クサナギ
ミコト君。なんだね急に横から。
ミコト
だって、さっきから何回もLINEが鳴るから、見過ごせなくて。
タケル
ミコトは関係ないだろ。黙ってろよ、何もわかってない女の癖によ。
ミコト
そういう発言、差別ですよ。
ヤマト
良くない発言ですよね。それに今は、納期遅れの話をしてましたよね。
ヤマト
タケルさん、納期遅れの原因は、あなたですよね？
タケル
へ？
ヤマト
とぼけないでくださいよ。
ヤマト
昨日、OSSAN自動車の発注処理を僕に指示してきましたけど。
ヤマト
OSSAN自動車の発注は、2週間前に注文データが送られてましたよ。
タケル
へ？そんなハズは…。
ミコト
発注日を確認したら、2週間前の日付だったってわけ。
ヤマト
EDIは自動で発注データを送ってくるから、手入力の必要は無いそうです。
タケル
そんなん、俺が知るわけが
ヤマト
知らない事が問題なんですよ。この会社に10年もいたのに。
ヤマト
で、発注データを2週間も放置して、何も納期を確認していなかったんですよね。
タケル
う。
ヤマト
そりゃ、納期が色々遅れるのは当たり前ですよね。新人の僕でも分かります。
ミコト
今日、私もヤマト君も出勤してるんですけど。
ヤマト
ついさっき、OSSAN自動車の発注担当者が、怒って電話してきましたよ！
ヤマト
タケルさんを出せ、居ないならクサナギ課長を出せ、って。
タケル
ほんとかよ、しまった…。
ヤマト
2人とも今日は居ない、って言ったら凄い剣幕で色々言ってましたよ？
ヤマト
今回の納期遅れだけじゃなくて、先月から同様の問題が頻発してたそうですね。
ミコト
新人のタケル君には手に負えない話だったから、私が途中で代わりましたけど。
タケル
チっ。ヤマトお前マジで使えねえな！
ミコト
そんな言い方をする資格、あなたにありませんよ！
ミコト
先月、新人が辞めてから担当がタケルさん一人になって、
ミコト
対応がすごく悪くなったって。相手は不信感たっぷりでしたよ。
タケル
それは…急に新人が辞めて人出不足だったからだよ。
ヤマト
新人が毎年辞めてるのは、タケルさんとクサナギ課長のせいですよね。
クサナギ
へ？何を言ってるんだ君は？私は何も関係ないだろう。
ミコト
関係大アリですよ。セクハラで私の同期を追い詰めて、辞めさせましたよね？
タケル
俺も別に悪くないぞ！普通に新人に指導していただけだ。
ヤマト
ロクに基本も教えずに仕事を丸投げして、都合が悪くなれば罵ってくる。
ヤマト
立派なパワハラですよ。今までの新人にも同じように接してたんですね。
ミコト
ヤマト君とのやり取りはもちろん、去年の新人さんへのパワハラ行為もね。
ミコト
退職する前に、メールやLINEでのやりとりも全部私に託してくれたんです。
タケル
なんだって？
ヤマト
僕とのやりとりも、スクショを取ってミコトさんに渡してます。
クサナギ
そこまでする必要はないだろう。私の監督責任って事になるじゃないか。
ミコト
そうですね。だから組合と総務に、セクハラとパワハラの事実を報告しましたよ。
クサナギ
ええ？
タケル
お前、余計な事をするな！
ヤマト
キレられても、もう遅いですよ。それに…。
ミコト
明日の朝一で、OSSAN自動車の担当者が、上司を連れてこちらに来るそうです。
ヤマト
タケルさんは対応が悪いから、担当者を代えてくれと言ってました。
タケル
そんな…。
クサナギ
追い打ちかよ。
ヤマト
そんな訳なので。明日の朝よろしくお願いいたします。
ヤマト
新人の僕が出る幕じゃないようですし。
ミコト
会社からの処分もお楽しみに♪
ミコト
今まで、若手を苛めてきた罰ですから。
クサナギ
はぁ…。
タケル
マジか…。
～１か月後～
ヤマト
その後、クサナギ課長とタケル先輩は、得意先から強烈なクレームを受けた。
ヤマト
問題が多すぎるという事で担当から外され、後任は僕とミコト先輩になった。
ヤマト
そして二人ともセクハラ・パワハラで何人も新人を辞めさせた事が問題視され、
ヤマト
会社の処分により、同時に別会社へ出向となった。
ヤマト
そのおかげで、僕も身勝手な先輩に振り回される事がなくなり、
ヤマト
毎日楽しく働けるようになった。
ヤマト
それに、ミコト先輩と一緒に働けるのも嬉しい。
ヤマト
美人で仕事が出来て、正義感が強いミコト先輩は、僕の憧れの人だ。
ヤマト
いつか彼女に似合う男になる為に、これからも仕事を頑張ろう。
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
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