貧血

ドッ…

浴室から出て バスマットに倒れ込む

ガタッ…ｶﾞｼｬｶﾞｼｬﾝｯ！

その拍子に 足が当たって小物が床に散乱する

キィーッと耳鳴りがする

頭の中でザアザアと 音が鳴るような感覚がする

俺は貧血を起こしやすい体質で

湯船に長く浸かっていると このように 急に速くなる脈に体がついていかず 貧血を起こす

そのせいで風呂で しっかり体を 温められたことは少ない

それだけではなく

タッタッタッタッ…

ぐら…

ドッ…（壁にもたれる）

平衡感覚が保てない 全ての感覚が鈍る

その声を聞くと同時に 少し貧血が治ってきた

持久走など、 心拍が特に高くなるものでも 時折貧血を起こすことがある

誤魔化しが利くので 毎回こんな感じで 軽度であればいい

だけどそんなに 都合がいい体ではなくて

風呂の場合だと確実に 倒れてしまう

何度か街で倒れて 見ず知らずの人に 助けてもらったことも少なくなかった

顔や言葉に出されなくても 自分のことで「面倒だ」などと 思われるのは 耐えられなかった

ゴクッ（鉄剤）

ピンポーン

ガチャッ

キイ…

ドアを開けて部屋に入ると もうメンバーが全員揃っていた

‐会議終了‐

※夜だと思ってください

俺まだご飯食べてないし お菓子も気分じゃなくて ほとんど食べてないんだけど…

この空気で俺だけ 「お腹空いてる」って 言うのもな…

ざぶっ

ぶしゅっ！！（水鉄砲）

ばしゃああっ！

バシャバシャｯ…ﾌﾞｼｭｳｳｯ！！

パシャパシャ…

お湯のかけ合いに夢中になって 湯船に20分は浸かっていた

全身を浸けていたわけではないので 倒れることこそなかったものの 目眩が酷く体が重い

同室のほとけっちは 入浴中なので 帰ってくる前に体調を戻そうと 足を高く上げベッドに寝っ転がった

コツ…コツ…

「ないちゃんほんと面白いw」 「いやいやあれはほとけっちが〜」

「じゃー俺この部屋だから」 「うん！おやすみ〜！」

ほとけっちが部屋に入ってきた瞬間 起き上がったため もしかしたら横になっていたことを 気づかれるのではと思ったが 大丈夫だった

…が

ズキ…ッ

急に大きく動いたため 体調は悪化した

ほとけっちのそばに行こうと 腰掛けていたベッドから 立ち上がる

その途端

ぐらぁ…っ

酷い立ちくらみに襲われ そのまま みるみる視界が暗くなっていく

寒い 寒い 血の気が引いていく

偏る体重に逆らえず倒れると思いきや 膝が床についた瞬間に ほとけっちが抱き締めて 支えてくれていた

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

視界が靄がかかったように淀んでいる

汗が止まらない息が苦しい

体が軽い 血が流れ込んでくる

…ん…？

ふと気づくと俺は ベッドの上に寝転んでいた

そう声をかけながら ほとけっちは 足の下にクッションなどを積み上げて 下半身を高く上げてくれた

今までより遥かに酷い貧血に 焦り困惑した心が ほとけっちの優しさに溶かされていく

それから

ほとけっちに全部話した 自分が今まで人に 打ち明けてこなかったことを

なでなで…（頭）

かああ〜っ///

あんなふうに優しくされて 惚れない人はいないだろう

見上げるとリンゴのように 真っ赤に頬を染めている ほとけっち

段々と下りてくる ほとけっちの顔

温かい色の照明に照らされて 瞳がきらきらと揺れている

…ちゅ

そう言いりうらの足の下から クッションを抜く

そしてそのまま隣に寝そべり 毛布をかけてくれた

握られた右手が ふわ、と温かくなった