店長
さて、俺のことを覚えている奴は
どれくらいいるだろうか……
俺は
本編「3年前-Ⅰ-」の冒頭にて出てきた
ちょい役の店長だ
紫の髪をしたガキに
品物ぶん投げられた奴
といえば思い出してくれるかな
あの出来事から今日でちょうど1週間
相変わらず俺の店には
閑古鳥が鳴いている
どうしたもんか……
俺は店のカウンターに座り
たっぷりとお肉のついたお腹をさすりながら
来るはずのない客を待っていた
店長
何を隠そう、俺は今
腹を壊している
昨日行った居酒屋の飯が美味すぎて
ついつい食いすぎてしまったのだ
若かれし頃は
あれくらい平気だったのだが
まったく
歳ってのは恐ろしいもんだ
大きなため息を吐き
カウンターに並べてある品物を眺める
店長
俺はふと、そんなことを呟いた
この店はほぼ俺の趣味みたいなもので
並んでいる品物はみな
俺お手製のものばかりだ
店を始めて数ヶ月
はなから売り上げには期待しちゃいないが
ここまで売れないのでは
少し凹む
潮時、か…?
不意に
俺の顔に影がさした
ゆっくりと顔を上げる
店長
俺は思わず立ち上がり
目の前に突っ立っている少年を指差した
少年
彼は
嘲笑うかのように口角を上げる
その男は、例のガキだった
いつものように煽り散らかす彼を横目に
足元から書籍を数冊取り出して
店長
カウンターに置く
ガキ
呆気にとられている彼へ向かって
俺は自信満々にこう告げた
店長
店長
ガキ
彼はただただ困惑している
そんなことはお構い無しに
俺は話し続けた
店長
店長
店長
店長
店長
店長
店長
店長
俺は胸をのけぞらせ
ガキの顔をチラッと覗く
始めはぽかんとしていた彼の顔が
一瞬にして決壊した
ガキ
腹を抱えて爆笑するガキ
アホ毛が小刻みに揺れている
俺はムッとした
店長
ガキ
彼はしばらく笑ったあと
目の端の涙を拭いながら
俺に向き直る
ガキ
ガキ
ガキ
ガキ
言われてみればそうだ
俺はガキに舐められた挙句
彼の言うことを馬鹿正直に聞いて
それを自慢気に語っただけの
間抜けなおっさんだ
……まあ、いっか
間抜けなおっさんなのは事実だし
店長
俺は開き直り
お腹にある大量の脂肪を
豪快に揺らしながら笑った
そういえば__
俄然俺の頭に
ある疑問が浮かぶ
店長
ガキ
不機嫌そうな顔で返事をする彼
さっきまで笑い転げていたというのに
途轍も無い態度の変わり様だ
クソガキと呼んだことに 腹でも立てているのだろうか
俺は包み隠さず
単刀直入に彼に問いかけた
店長
1週間前のように
暇つぶしでこの店に寄ったにしては
余りにも滞在時間が長すぎる
何が目的だろうか
しかし
彼の表情を見た俺は
自分の発言を後悔した
彼は無表情になり
一言も話さなくなってしまったのである
こりゃ、やらかしたか………?
何か彼の地雷を踏んでしまったのかと
俺は焦る
が
待てよ………?
もう一度彼の顔を凝視する
相変わらず無表情のままの顔
だが
彼の目の横についている
俺より一回り小さな耳が
赤く染まっているのを
俺は見逃さなかった
ははーん
彼の意図に気づいた俺は
ニヤけそうになる顔を
どうにか抑えて
あくまで平静を装う
ガキ
ようやく声を発した彼は
苦し紛れに誤魔化した
店長
ガキ
これ以上は詮索しないが吉だな
静かな時間が流れる
俺も彼も
何も話さなかったが
不思議と気まずさはなかった
そんななか
突如として俺の腹が鳴った
腹は壊しても
食欲には敵わないようだ
店長
店長
ガキ
不機嫌顔に戻った彼はそう言って
住宅街の方へと去っていく
俺は、姿が見えなくなるまで彼を見届け
カウンターに目を移す
店長
素直じゃねーなぁ
自然と笑みがこぼれた
そこには
商品1つ分の銀貨が無造作に置かれており
代わりに
並べていた商品が1つなくなっていた
1週間前
あのガキに投げ返されたあの商品だ
あんな態度をしていたが
多少なりとも罪悪感はあったのだろう
仕方がないから
彼なりの謝罪だと受け取っておくことにする
俺は椅子の背にもたれかかって
上を見上げた
ボロい屋根の隙間から
太陽の光が入り込んでいる
やはり子供は良いな
なんとなくだが、そう思えた
店長
店長
彼のようなガキが
気軽に訪問できる場所になれたら良いな
俺は深く息を吐く
店長
おまけ
コメント
1件
名前が少年からガキになってるw