ロッカーにある筈の 私の鞄を渡される。
すると乱歩さんは おもむろに口を開いた。
江戸川乱歩
今日は帰りな
葵波翠璃
え、何で…
江戸川乱歩
君、熱あるでしょ
江戸川乱歩
声の調子も何時もと違うし、ボーッとしてるし、お昼も食べないし
如何やら乱歩さんは 自己中心的に見えて、
よく周りを見ているらしい。
葵波翠璃
でも…
と私が口篭ると、
有無を云わさず 鞄を押し渡された。
🍬🍬🍬
国木田独歩
此の莫迦者!
国木田独歩
自分の体調管理も出来んとは!
国木田独歩
体調が悪いなら休養をとる、基本だろう!
国木田独歩
其れ以前に風邪を引かないようにしろ!
葵波翠璃
す、すみません…
太宰治
まあまあ国木田君落ち着いて
太宰治
今まさに熱が出ている真っ最中な訳だし、
太宰治
お説教は彼女の風邪が治ってからにしようじゃないか
国木田独歩
全く…
そう怒りつつ国木田さんが タクシィを呼んでくれた。
乱歩さんがビルの前まで 送ってくれると云うので、
一緒にエレベーターに 乗って降りる。
間もなくしてタクシィが来て、
私はフラつきつつも 後部座席に座った。
葵波翠璃
ありがとうございました
江戸川乱歩
早く治して復帰してよね
江戸川乱歩
君が居ないとつまらないから
そう軽く額を小突かれ、 私は頷いた。
ドアが閉まってタクシィが ゆっくりと前進する。
見送ってくれる乱歩さんの 初めて見る優しい笑顔に、
心がキュッと苦しくなって。
葵波翠璃
( 風邪の所為かな )
これは恋心というものの 前兆かもしれない。
ぼんやりとする頭で そんなふうに思いつつ、
タクシィに揺られる。
口に残る慣れない甘みに 違和感を感じつつも、
不思議と 嫌な気はしなかった。
キ ャ ン デ ヰ
fin