雨が降る放課後。
グラウンドの隅にある屋根の下で、伊永湊は静かに空を見上げていた。
グレーがかった雲が広がり、小さな水滴がぽつぽつと制服に落ちる。
濡れるのも構わず立ち尽くしていると、どこからか足音が聞こえた。
榎倉 雫
不意に呼ばれた名前。
驚いて振り返ると、そこに立っていたのは榎倉雫だった。
長い黒髪がしっとりと濡れ、制服の肩にも雨粒が落ちている。
青い瞳が真っ直ぐこちらを見つめていて、湊は思わず息を呑んだ。
伊永 湊
久しぶりに名前を呼んだ気がした。
中学の終わり頃から、ずっとまともに話していなかったから。
榎倉 雫
伊永 湊
湊が目を逸らしながら答えると、雫は無言のまま隣に立った。
しばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。
ただ、雨の音だけが響いていた。
伊永 湊
ふと、湊が呟いた。
榎倉 雫
雫が静かに返す。
その声はどこか懐かしくて、湊は思わず彼女の横顔を盗み見た。
昔と変わらないはずなのに、どこか遠く感じる。
あの頃は、こんな沈黙なんてなかった。
榎倉 雫
雫がぽつりと言った。
伊永 湊
湊も短く返す。
それだけのやりとりなのに、どうしてこんなに胸がざわつくのか。
榎倉 雫
伊永 湊
榎倉 雫
榎倉 雫
雫の言葉に、湊は少しだけ考えた。
伊永 湊
榎倉 雫
そう言った彼女の声は、どこか切なかった。
伊永 湊
榎倉 雫
榎倉 雫
雫がそう呟いた瞬間、湊の胸の奥に鈍い痛みが走った。
それは、彼女がずっと心に抱えていた想い。
伊永 湊
呼んだ名前に、雫はゆっくりと顔を上げた。
伊永 湊
湊はそう言って、彼女の手をそっと取った。
驚いたように見つめる雫。
榎倉 雫
伊永 湊
雫は一瞬迷ったあと、小さく微笑んだ。
屋根の下、雨音が優しく響く。
二人の間に流れていた時間が、静かに動き出した。
──止まない雨の向こうで、二人の心は再び交わり始める。
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