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春の風が、校庭の桜をゆっくり揺らしていた。
花びらがふわりと舞って、アスファルトに落ちる。
遠くのグラウンドから、野球部の掛け声が聞こえてくる。
あの春の日のことを、私は今でも覚えている。
昼休みのチャイムが鳴ると、教室は一気に騒がしくなる。
友達同士の笑い声や、机を動かす音があちこちから聞こえた。
窓から入る風が、カーテンをゆっくり揺らしている。
入学してからの昼休み、私はいつも一人だった。
教室にいるのがなんとなく落ち着かなくて、
気づけば屋上へ続く階段を上っていた。
階段の窓から、明るい春の光が差し込んでいる。
人の少ない階段に、私の足音だけが響いた。
コツ、コツ、と静かな音。
この時間、この場所は、少しだけ落ち着く。
屋上のドアを押すと、
ギィ、と金属の重たい音が鳴った。
その瞬間、外の風がふわっと吹き込んでくる。
少し冷たい春の風が、制服の袖を揺らした。
フェンスの向こうには、広い田んぼが見える。
水の張られた田んぼが、太陽の光を反射してきらきらしていた。
遠くのグラウンドから、
ナイスボール!
という声が聞こえる。
この屋上には、私しかいないのだ
フェンスにもたれて景色を眺めていると、
後ろでドアの開く音がした。
カタン、と小さな金属の音。
振り返ると、一人の女の子が立っていた。
風が吹いて、その子の長い髪がふわりと揺れる。
澄
澄
少し遠慮した声だった
遥
その子は私の隣に来て、フェンスに手をかけた。
空は高くて、雲がゆっくり流れている。
風の音と、遠くの部活の声だけが聞こえていた。
澄
そう言ってその子は少し微笑んだ
澄
遥
澄は私の名前を小さく繰り返す。
澄
それから昼休みになると、遥はよく屋上に来るようになった。
屋上には、いつも同じ風が吹いている。
遠くのグラウンドでは、サッカーボールを蹴る音。
その中で、私たちはくだらない話をして笑っていた。
ある日、澄がふと私を見て言った
澄
澄
遥
澄は少しだけ微笑んで空を見ながら言った
澄
澄
その意味を、そのときの私は深く考えなかった。
その日は、空が少しオレンジ色になっていた。
夕方の風が、屋上をゆっくり通り抜けていく。
澄がフェンスにもたれて言った。
澄
澄
遥
澄
澄は少し微笑みながら
遥
澄
それから少しして、澄は学校に来なくなった。
昼休みになっても、屋上のドアは開かない。
風の音だけが、やけに大きく聞こえた。
ある日、先生に呼ばれた。
先生は少し困った顔をしてから、静かに言った。
先生
先生
遥
その理由を、私は聞かなかった。
聞いてしまったら、
なにかが本当に終わってしまう気がしたから。
それから何年も経った。
私は久しぶりに、母校の屋上に立っていた。
ドアを開けると、
あの頃と同じ春の風が吹いている。
フェンスの向こうには、変わらない田んぼの景色。
私は、澄がよく立っていた場所を見る。
青い空に、雲がゆっくり流れていた。
遥
そう呟いたとき、
隣に澄が立っている気がして、少しだけ笑った。
春の風だけが、静かに吹き抜けていった。
𝑒𝑛𝑑