深々と記者の方が頭を下げる。

それに合わせて俺ら、ボクノヲト4人も『ありがとうございました！』と言い、揃って頭を下げる。

部屋の隅で待機していたひなっさんが記者の方に声を掛けて、ドアの方へと促す。

再度深々と頭を下げて、記者の方は部屋の外へと出て行った。

お見送りに行ったひなっさんがドアを閉めれば、それと同時にNoelがテーブルに項垂れる。

流石ukiИo。こいつは昔から、人の名前と顔を覚えるのが得意だ。

だからボクヲト関連で繋がってたりする人の名前が出てこなかった時は、ukiИoに聞けば即解決って感じ。

ボクヲトは俺含め、単純な奴が多いから好感度の上がり下がりも単純だ。

俺がそう聞けば、自然な動きで腕時計を確認するMyru。

いつも馬鹿っぽい言動してるくせに、こういう所ばっかはしっかりしてるんだからなぁ。

スマホを弄ってたNoelも視線がMyruへと行っている。 多分似たような事を考えてるんだろう。

椅子から立ち上がって、大きく背を伸ばす。

そんな言葉達を背に貰いながら、部屋を出て喫煙所へと向かう。

ボクヲトメンバーはあまりタバコを吸わない。かっこ俺を除いて。

Myruはたまに吸う。ほんとたまに。 ukiИoは非喫煙者。 Noelはタバコ苦手。

俺はめちゃくちゃ吸う。 ヘビースモーカーまではいかないけど、それなりに吸う。

人付き合いで吸っていたら、いつの間にかこうなっていた。 よくあるパターンだ。

ま、正直昨日夜更かしして眠かったし、丁度いい眠気覚ましになるだろう。

とか考えながらのんびり歩いて、ビルの中に併設してある喫煙所へと向かう。

喫煙所の壁は磨りガラスのようになっていて、中にどのくらい人が居るか視認出来るようになっている。

見た感じ1人先客が居たようだ。 知ってる人だったら会話出来るんだけど、知らない人だと少し気まずいんだよな〜。

なんて事を考えながら、喫煙所の扉へと手をかける。ポケットに片手を突っ込みながら、ガラ、と扉を開けた。

中に居たのは、ボクヲトと仲良い後輩バンドに当たるPiecё_of_cakё(ﾋﾟ-ｽｵﾌﾞｹｲｸ)の1人だった。

小路地将吾(ｺﾛｼﾞｼｮｳｺﾞ)。 Piecё_of_cakёのキーボード兼たまにギター兼作詞作曲担当の凄い奴。

タバコを持つ手が相変わらず綺麗だ。

将吾の隣へ行けば、ポケットからタバコ箱を取り出して1本抜き取る。

驚いてついそのまま喋ってしまったが、火をつける為にタバコを咥えてていたから、ほぼ何も伝わらなかった。

慌ててタバコに火をつけ、ライターをポケットにしまい、タバコを手で持ち直す。

すっと自然に視線を逸らし、照れ隠しのようにタバコを吸い始める将吾。

くすくすと笑いを零せば、困ったような、何とも言えない表情で俺を見る将吾。

そしてもう一度、タバコに口を付ける。

煙を吐けば、話題を変えるように話を振ってきた。

一時期活動休止をしていた俺らからすれば、待ってくれてる人達が本当に、本当に大切だから。

なんて言いながら視線を落とす将吾。 とても分かりやすい。

俺が顔を覗き込むようにして視線を合わせれば、ふい、とそれもまた逸らされる。

なんて話をしながら2人で軽く笑い、再度タバコを吸っていると。

タッタッタッ、と誰かが駆けて来る音が聞こえた。

それは将吾にも聞こえていたようで、顔を見合わせる。

どういう事？と聞く前に、その足音は喫煙所の前で止まった。

かと思えば

バンッ！

と、勢い良く喫煙所の扉が開いた。

とてつもない勢いで現れたのは、将吾と同じくPiecё_of_cakёのメンバーの1人。

結城 歩(ﾕｳｷ ｱﾕﾑ)。 Piecё_of_cakёのボーカルで、一言で表すと狂人。

ばっ、と両手を挙げて元気アピールをする歩。

こいつと話していると、なんだか子供の相手をしている気分になる。

歩の着ていたパーカーのフードを引っ張って、俺から距離を取らせる将吾。

完全に、散歩中に近くを通った人へ寄っていく飼い犬のリードを引っ張るソレである。

そう言ってポケットからスマホを取り出し、確認し始める将吾。

歩の言った『さーき』ってのは、Piecё_of_cakёのメンバー、咲幸(ｻﾕｷ)君のあだ名。 まあ、そう呼んでるのは歩だけなんだけど。

電話をかけるのか、灰皿にタバコを押し付ければ喫煙所を出て行った。

腕で大きく丸を作り、そのまま体を横に曲げる歩。

一々反応を寄越して来るから、見てるだけでも面白い。

歩は過去、Myruに世話になっていたらしく、なんかめちゃくちゃ懐いている。

ほんとビックリするくらい懐いてる。

対するMyruはちょっと迷惑そうにしているが。まぁ、なんだかんだ可愛がってるし、良い先輩後輩関係なんだろう。

じゃーな！と言い、元気よく手を振れば歩は喫煙所を出て行った。

少しすれば歩と入れ違う様にして、将吾が戻って来る。

これはまじで冗談抜きで言える事。 ピスオケがどれだけ騒ごうと、多分ボクヲトには勝てない。

俺含めてボクヲトはまじでうるさ過ぎる。 怒られるのも時間の問題だと思う。

ゆらゆら、とスマホを揺らして見せる将吾。

ポケットにスマホを直したかと思えば、次はタバコ箱が出て来た。

｢seraさんは？｣とでも言いたげな表情で俺を見やる。

灰皿に短くなったタバコを押し付けて火を消す。

タバコに火をつける将吾を見ながら、適当に指先を擦り、着いてしまった灰を落とす。

軽く頭を下げた将吾に手を振って、俺は喫煙所を出た。

｢＿＿、＿、＿！｣

｢＿＿＿、＿！｣

｢＿＿、＿＿！？｣

一服し終え、本日ボクヲトが使っている部屋の前まで戻って来た所で気付いた。

何かもう色んな声が聞こえる。 扉一枚挟んでこの騒がしさは何なんだ。

歩が来ている事は分かる。でもそれにしては騒がしい気がする。 なんかめちゃくちゃNoelが元気なのは分かる。

うるさい事を覚悟して、俺は扉を開けて中に入った。