愛葉兎咲
あのね、優糸…わたし…
愛葉兎咲
愛葉兎咲
記憶が消えてるの
名久井優糸
えっ、記憶が…?
愛葉兎咲
≪ヒナアリス≫のアプリをみんなでインストールした次の日だったかな
愛葉兎咲
猫塚先生に座席表作るの頼まれて、優糸も手伝ってくれたよね?
名久井優糸
うん
愛葉兎咲
優糸がジュース買いに行った後、紫苑くんが教室に入ってきて
愛葉兎咲
『スマホを使うな。記憶が消える』って言ったの
愛葉兎咲
その時は信じなかった。でも…
愛葉兎咲
紫苑くんの言うとおり、スマホで文字を打つ度
愛葉兎咲
少しずつ、言葉を忘れていってる…
愛葉兎咲
優糸…こわい、こわいよ…
名久井優糸
そっか…僕だけじゃなかったんだね
愛葉兎咲
え?
名久井優糸
名久井優糸
実は、僕も記憶が消えてるんだ
愛葉兎咲
ゆ、優糸も…?
名久井優糸
…うん
愛葉兎咲
ほ、本当に…?
名久井優糸
本当だよ…兎咲の誕生日の前の日、部屋に誘ったこと覚えてる?
愛葉兎咲
うん、覚えてるよ
名久井優糸
僕がパスタ持っていったら
名久井優糸
『今日はクリームパスタじゃないんだね』って兎咲に言われて
名久井優糸
兎咲が帰った後、チャットを見たら
名久井優糸
『クリームパスタ食べる?』って誘ってた…
名久井優糸
驚いたよ…
愛葉兎咲
大好物のクリームパスタを作ってくれるって思ってたから
愛葉兎咲
カルボナーラが出てきてびっくりしたよ…
愛葉兎咲
『また、クリームパスタ作ってね』って、約束の指きりもしたのに…
愛葉兎咲
優糸、どうしちゃったんだろ…?ってその日は思ったけど…
愛葉兎咲
優糸も記憶が消えてたんだね…
名久井優糸
…うん
名久井優糸
記憶が消えてから、クリームパスタの作り方をどこかにメモってないか調べたんだ
名久井優糸
でも、見つからなくて…
名久井優糸
違うクリームパスタなら作れるけど
名久井優糸
記憶が消える前のクリームパスタはもう作れないんだ…
名久井優糸
それが、悔しくて悔しくてたまらなくて!
名久井優糸
ちゃんとメモっておけば、記憶が消えても作れたのに!
名久井優糸
ごめんね、兎咲…約束守れなくてごめんね…!
愛葉兎咲
優糸…謝らないで…
愛葉兎咲
約束なんて、もういいの
名久井優糸
良くないよ!
愛葉兎咲
いいの!自分を責めなくていいの!
愛葉兎咲
泣かなくていいんだよっ…!
愛葉兎咲
だって…だってね、今…
愛葉兎咲
優糸がわたしを見つけて、ここにいてくれることがすごく嬉しいから
名久井優糸
兎咲…
愛葉兎咲
それにね、記憶が消えてたの自分だけじゃなかったって、ほっとしてるの
愛葉兎咲
こんなことなら、もっと早く優糸に相談してれば良かったね…
愛葉兎咲
優糸…、嘘ついて、傷つけてごめんなさい…
愛葉兎咲
(あ…、涙を優糸の指が優しく拭ってくれてる…)
名久井優糸
『スマホを使うな。記憶が消える』って言ったの、紫苑くんだったよね?
愛葉兎咲
…うん、そうだよ
名久井優糸
紫苑くんの言うとおり記憶が消えてるなら、もしかしたら
名久井優糸
紫苑くんは何かを知ってるかもしれないね
名久井優糸
明日、一緒に紫苑くんのところに行ってみよう
愛葉兎咲
うん…
6月6日の昼休み
愛葉兎咲
(わわっ、紫苑くん、また女子達に囲まれてる…)
愛葉兎咲
あ、あの…
女子生徒達
ちょっと何、あんた!邪魔しないでよ!
愛葉兎咲
ふええっ…
名久井優糸
(兎咲、オロオロしてる…かわいい)
名久井優糸
大丈夫だよ、兎咲。僕が言うから
愛葉兎咲
でも優糸だって、体震えて…
名久井優糸
(大声出すのは苦手だけど…兎咲のためだ)
名久井優糸
紫苑くん!
鏡紫苑
あれ、優糸と兎咲?
名久井優糸
話があるんだ。いいかな?
鏡紫苑
…分かった、場所を変えよう
15分後
名久井優糸
ここ、立ち入り禁止なのに、よく鍵持ってたね…
鏡紫苑
まぁ、裏ルートって奴だ
愛葉兎咲
裏ルート…!?
鏡紫苑
それで、話って?
名久井優糸
…信じてもらえないかもしれないけど
名久井優糸
僕と兎咲、記憶が消えてるんだ
鏡紫苑
え、記憶が?
名久井優糸
うん…紫苑くんが兎咲に
名久井優糸
『スマホを使うな。記憶が消える』って言ったこと聞いて
名久井優糸
もしかしたら、紫苑くんは何か知ってるかもしれないと思って…
鏡紫苑
…やっと話せる
名久井優糸
え?
鏡紫苑
聞きにくるのずっと待ってたんだよ
鏡紫苑
鏡紫苑
俺も記憶が消えてるからさ
愛葉兎咲
え…紫苑くんも?
鏡紫苑
うん…記憶が消えるようになったのは、あることをしてからだった
名久井優糸
あること?
鏡紫苑
≪ヒナアリス≫のアプリをインストール
愛葉兎咲
えっ…
名久井優糸
どういうこと?
鏡紫苑
≪ヒナアリス≫について調べるために、モフー知恵袋で検索してみたら
鏡紫苑
今、記憶が消える現象が流行ってるって書いてあって
鏡紫苑
リンクが貼ってあったんだ
鏡紫苑
俺のスマホ見て
名久井優糸
あ、モフペキアに≪ヒナアリス≫について書かれてる
愛葉兎咲
記憶消えてたの、わたし達だけじゃなかったんだね…
鏡紫苑
うん。どうやら、記憶が消える現象を≪ヒナアリス化≫と呼び
鏡紫苑
スマホで『チャットアプリ』を使った場合だけ、打った文字がそのまま記憶から消えるらしい
愛葉兎咲
そっか…だから、スマホで文字を打つ度
愛葉兎咲
少しずつ、言葉を忘れていってたんだね…
名久井優糸
このこと、みんなにも伝えた方がいいんじゃ…
鏡紫苑
じゃあ放課後、今度は1年B組の教室に集まることにしよう
鏡紫苑
りぼんには俺から伝えとくよ
愛葉兎咲
笑菜ちゃんと冷太くんにはわたし達から伝えるね
鏡紫苑
ありがとう、助かるよ
愛葉兎咲
(わ、頭ぽんぽんされて…)
鏡紫苑
誰かに見られたらヤバイし、そろそろ戻ろう
愛葉兎咲
(優糸、わたしが紫苑くんに頭ぽんぽんされてから一言も話さないな…)
愛葉兎咲
(…って優糸のこと見てたら、段差…!)
愛葉兎咲
わっ…!
名久井優糸
兎咲っ…!
鏡紫苑
兎咲…!
愛葉兎咲
(…あれ、落ちてない?)
愛葉兎咲
(え、優糸と紫苑くんが両側から腕掴んでくれたんだ…)
名久井優糸
…………
鏡紫苑
…………
愛葉兎咲
(あれ、ふたり、見つめ合ってる…?)
名久井優糸
落ちなくて良かった…。兎咲、大丈夫?
愛葉兎咲
あ、うん…ふたりが助けてくれたから…
鏡紫苑
これからは、ちゃんと前向いて歩けよ?
鏡紫苑
かわいい顔に傷がついたら大変だからさ






